電子書籍レンタルサイト「Renta!」を運営する株式会社パピレスは、電子書籍の海外展開に力を入れている。英語、中国語繁体字(台湾)、中国語簡体字(中国)向けの直営電子書店、さらに韓国語も含めた市場に向けた電子取次事業も展開。国内出版社向けには翻訳サービスなどを用意することで、海外展開コンテンツの拡大に取り組んでいる。
同社は1995年に設立された電子書籍販売サイトの草分け的存在。国内初の電子書籍レンタルサイト「電子貸本Renta!」を2007年に立ち上げ、2024年3月時点で掲載作品数は100万アイテムに達している。
海外向けの取り組みも早く、2011年6月に台湾最大の通信事業会社「中華電信」へのコンテンツ提供を、同年9月には英語版「Renta!」をスタート。2013年7月には中国語繁体字版「Renta!亂塔」を開設し、2014年9月に台湾子会社「巴比樂視網路科技股份有限公司」を設立した。
さらに2017年5月に英語版「Renta!」を強化するため米国子会社「PAPYLESS GLOBAL, INC.」をサンフランシスコに、2018年4月には中国市場開拓のために中国子会社「PAPYLESS HONG KONG CO.,LTD. 」を香港に設立。2019年7月に海外向け電子取次会社「アルド・エージェンシー・グローバル株式会社(AAG)」を設立した。
海外電子書店60店に作品配信
このうちAAGは、電子書籍配信サイト「めちゃコミック」を運営する株式会社アムタスと合弁で立ち上げ、ルネッサンス期ベネチア出身で商業出版の父と呼ばれるアルド・マヌーツィオから社名を命名。2020年1月から海外電子書店への取次事業を開始した。
現在、配信先の電子書店は英語圏10店、繫体字圏18店、韓国語圏37店の約60店に達し、配信作品は英語版1.3万アイテム、中国語繁体字1.9万アイテムの計3.2万アイテムとなっている。
一方、中国はパピレス香港からテンセント、ビリビリコミックス、快看漫画の3大プラットフォームに日本作品を配信している。
パピレスの代表取締役社長を務める松井康子氏は、「海外展開はまずコミックが中心になっています」と話す。
日本のコミックは現地でのアニメ配信に伴って売れる傾向があるため、動画配信サービスの普及に伴いコミック市場が拡大している。
ただ、アニメ化にはコストがかかるため、大型作品以外は難しい。松井社長は「アニメ化されていない、まだあまり知られていない作品でも一定の読者を獲得できる作品は多い。広告展開などしながらネットを通して読んでもらうアプローチは可能性があります」という。
その場合に、地域に関係なくアピールできて、流通コストがかからない電子コミックは、ハードルが低く海外展開が容易だ。
出版社に翻訳サービス提供
ただ、国内で配信する電子コミックが100万タイトルに達しているのに対し、AAGの海外向けタイトルは英語、中国語(繁体字)を合わせても3.2万と圧倒的に少ない。日本の質量ともに豊富なマンガコンテンツを多く出せれば、海外市場をさらに広げられるとみる。
そのために必要になるのが翻訳だ。同社では出版社に対して翻訳サービスも提供。このところAIを使った自動翻訳などが注目されているが、同社は翻訳のクオリティーを重視している。
松井社長は長年にわたり翻訳サービスを提供してきた経験から「日本独特の表現などに気を使う必要があり、ネイティブチェックなどが欠かせません。翻訳が一定のレベルに達していないと購入されないので、納入された翻訳作品も翻訳のレベルを確認し、修正を依頼するケースもあります」と述べる。
もちろん、最新のテクノロージーを取り入れることにも積極的で、「クオリティーを担保しつつ、AIなども活用して作業効率を上げて量産化していきたい」(松井社長)と考えている。
英語圏に向け「タテコミ」強化
海外市場ではまず女性ユーザーが反応するという。そのため少女漫画やBLに需要がある。特に台湾の「Renta!亂塔」では女性会員が多い。
また、台湾は日本のコマ割りコミックに慣れているので、市場の動きは日本とほぼ同じだというが、英語圏はコマ割りコミックの読み方がわからないというケースもあり、縦スクロールマンガに力を入れている。
同社は2015年から縦スクロール・カラーの「タテコミ」を開始。すでに国内向け「Renta!」では20万タイトルを提供している。
なかでも同社オリジナルのタテコミ作品『聖女なのに国を追い出されたので、崩壊寸前の隣国へ来ました~力を解放したので国が平和になってきましたが元の国まで加護は届きませんよ~』は、2024年3月時点で売上数164万部に達する大ヒットになっており、英語版、繁体字版での販売も開始した。
出版社から許諾を得た作品の「タテコミ」化も行っており、実業之日本社の『静かなるドン』はタテコミ・カラー化で人気になっている。松井社長は「日本にはこうした過去の人気作品も多いので、翻訳して海外にも出していきたい」と意欲を示す。
翻訳や「タテコミ」化といったサービスによって、まだ海外展開できていない多くのコミックを世界に広げていこうという戦略だ。
プロモーションのアドバイスも
同社は海外向けの直営販売サイトを10年ほど運営し、会員も増え続け一定の利用者を確保している。そのため、海外展開するためのデータを蓄積してきた。
「それぞれの国で、こういう作品を出せばすぐに売上が上がりやすいとアドバイスしたり、あるいはプロモーションをしないとなかなか売れないので、各販売サイトにプロモーションをしてもらうよう交渉したりもしています」(松井社長)と海外展開でのサポートに力を入れている。
特に電子書籍販売ではプロモーションがポイントになる。アニメが配信されるといった大掛かりな仕掛けから、検索広告やウェブ広告、動画SNSなどいろいろな手段があり、同社は各国で直営サイトを運営してきた経験から、「こういう形でやるとアピールできます」と提案をすることが可能だ。
なかでも近年影響力が大きいのが、TikTokやYouTubeといった動画SNSのインフルエンサーによる口コミの力。
同社もインフルエンサーとのコラボに力を入れているが、スタッフとして在籍している英語ネイティブが持っているネットワークを活用したり、彼らがSNSを使ってインフルエンサーにアプローチするなどして関係を築いてきた。
また、イベントに参加して直接、集まった愛好家にアピールするといった手段もある。台湾では60万人規模の漫画・アニメの祭典 「台湾漫画博覧会」に参加してコンテンツを紹介したり、集まる人々に直接アプローチするといった取り組みも行っている。
海賊版対策などにも注力
海外市場拡大の可能性について松井社長は「英語圏などは、ポテンシャルは大きいですが、まだ一部の人気作品しか読まれていません。潜在的なニーズがある作品を翻訳し、プロモーションを展開するなどアプローチしていくことカギです」とみている。
また、英語圏などは電子コミックを有料で読む習慣がまだ乏しいという傾向もあり、「対価を支払って良い作品を読む意識を高めていきたい」とも。
そして、市場の拡大とともに海賊版も増えており、電子書籍を普及させる障害になりかねない。「まずは行政から取り締まる必要があります。中国では政府の取り締まり強化によって海賊版サイトが一時期より激減しています。あわせて正規版電子書籍を容易に入手できる市場環境を作るため、翻訳された電子版を増やしていくことも効果的です」と松井社長。
同社は日本で海賊版対策に取り組んでいる一般社団法人ABJに入会したり、日本電子書店連合(JEBA)を組織するなどして海賊版の撲滅にも力を入れる。これも海外市場拡大に向けた取り組みの一環だといえる。
株式会社パピレス(PAPYLESS CO., LTD.)
設 立:1995年3月31日
創業者:天谷幹夫
代表者:松井康子
従業員:連結148名(2024年3月31日現在)
資本金:4億1446万円
所在地:〒102-0094東京都千代田区紀尾井町3-12 紀尾井町ビル
電 話:03-6272-9533
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