事業や出版物の路線変更、ヒット作創出のための工夫など、出版社の得意技について聞く連載。今回は、コアミックス取締役の石川悦弘さんにプロモーションの秘策やメディア化による売上への影響について話を聞いた。
【水本晶子】
データ分析を徹底。重版予測で売上増
マンガ週刊誌を作るために立ち上げられたというコアミックス。これまで出版に関しては、ほかの出版社をパートナーとしてコンテンツ配給を行う業務が中心だったという。
「大きく変わったのは2020年に自社で刊行を始めたところから。その少し前までは作品の制作に専念していたため、営業部や販売部がなく、書店へのアプローチを始めた当初は多くをほかの出版社から教えてもらう状況だった。そんななか、しっかりとプロモーションを行うためには自らが発売元になるべきだという結論となり、すべて自社で行うことになった」と話すのは、取締役出版事業部部長の石川悦弘さん。
コアミックスでは分析システムを独自に作り、重版を予測。2週間後に在庫がなくなるという数値がわかればすぐに増刷し、1週間後には補充。そのタイミングで作家に重版がかかったことをXで発表してもらうなど、店頭に在庫が十分にある状態で読者に周知するような仕掛けを行った。
石川さんは「自分たちでバズらせるよりも、意図せずバズったものの方が、爆発力が大きい。しかし、これまではそういったケースは出版社側が認知できなかった。それを認知できるシステムを開発することで、その仕組みを利用したプロモーションを仕掛けられるようになった」と話す。さらにプロモーションによって得られた成果や反応を全社で共有。それらに基づいた施策を重ねた結果、年間で35%だった取次からの返品率が15.9%まで下がった。
また、同社では作品のメディア化の比率が高い。17年から現在まで25タイトルが37回メディア化されている。その背景には編集長自らのメディア化へのアプローチや社内の風通しの良さがあるという。「媒体の編集長は作家との距離が近く、メディア化に関する決断が早いのに加え、部署間でしっかりとコンセンサスがとれているため、連携がスムーズで実現までのスピードが早い」と石川さん。メディア化などの影響により、売上は18年から22年の4年間で紙の書籍が245%、電子書籍が462%伸びた。
現在は全体の売上の4割を電子書籍が占めている。電子書籍に対するプロモーションがうまくいくようになったのに加え、18年に『月刊コミックゼノン』で連載が始まった『終末のワルキューレ』(作画・アジチカ、原作・梅村真也、構成・フクイタクミ)など、紙の書籍に頼らずとも電子書籍で大きく伸びる作品が増えてきたことも要因のひとつだ。
業界全体で手を組みマンガを世界へ
熊本県に第二本社兼アーティスト育成施設「アーティストビレッジ阿蘇096区」を開設。海外のマンガ家志望の人たちが、熊本で学びデビューをめざす。いずれ自分の国でマンガ家として生計が立てられるように育成する取り組みも同社ならではだ。
石川さんは「フランスの書店では40年前の作品『北斗の拳』(原作・武論尊、漫画・原哲夫)や『シティーハンター』(作・北条司)がスペースを大きく割いて今売れているものと変わらずに置かれている。海外での流通はこれからさらに広げていきたいと思っているが、自分たちだけでなく、これまで蓄積してきた弊社のデータやプロモーションのノウハウをほかの出版社と共有し、協力し合いながら業界全体で広げていきたい。それが今後のこの業界の発展につながるのでは」と話す。さらに、23年には熊本県立高森高校と連携し、マンガ学科を新設。さらなる新しい世代の才能の発掘、育成にも取り組み続けていく。
□創業年=2000年
□所在地=東京都武蔵野市吉祥寺南町 1-9-9 吉祥寺じぞうビル
□売上高=非公開
□年間刊行点数=約120点
□従業員数=80名(2024年4月時点)
石川悦弘さん
取締役出版事業部部長。2005年株式会社コアミックス入社。『週刊コミックバンチ』『月刊コミックゼノン』の編集部・販売営業課を経て、21年取締役営業事業部部長に就任。22年経理財務本部部長を兼任。24年より現職。
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