文化通信社が提供するデジタルチラシ配信サービス「BookLink PRO」で、7月に開催した第2回「デジタル販促チラシコンテスト」には書店員からコメント付きの投票が寄せられた。投票理由で多く挙げられたのが“情報の分かりやすさ”だった。出版社別の総得票数で1位を獲得したPHP研究所の奥野智詞氏(第一事業普及本部 販売企画課 課長)と川﨑風花氏(同課所属)、2位あさ出版の木内準氏(取締役 営業統括)に、「書店営業の在り方」と「チラシ作り」をテーマに語ってもらった。
――入社したきっかけと現在の業務内容について教えてください。
木内:書店店頭で心の悩みにズドンと訴えかける書籍が目に留まり「ストレートなタイトルでいい出版社だな」と思っていたところ、新聞で求人広告が出ているのを見つけて応募したのが入社のきっかけです。
2005年の入社以来、書店営業を続けてきました。今年の10月からは営業戦略の立案など、マネジメント方面に業務がシフトし、担当書店は持たなくなりましたが、新入社員に同行する形で書店を訪問することもあります。あさ出版の営業部は12人、そのうち大阪と九州に1人ずつ社員を置く体制となっています。
奥野:私の前職は全国チェーンの書店員で、さまざまなご縁や実家が関西にあることもあり、京都に本社があるPHP研究所に転職しました。
2023年7月の入社後、販売企画課で書店向けの新刊案内、FAXやメールマガジンの販促案内、情報の分析などを川﨑と二人で行っています。今年4月からは大阪市内にある書店の担当にもなりました。
川﨑:私はちょっと特殊な経歴です。大学四年生のときに独立系書店を立ち上げて、卒業後も新刊書店で働きながら並行して営業を続けていました。
その後、東京に引っ越し、古書店勤務などを経て2021年からPHP研究所のeコマース普及推進部で働き始めました。奥野が入社したタイミングで販売企画課に移り、現在の業務に携わっています。オフィスは私が東京で、奥野が京都と分かれています。
――書店営業におけるコロナ禍の影響とその後について。
木内:コロナ禍で、編集は在宅勤務が基本となり、書店営業も直行直帰のスタイルになりました。この変化に関しては良い方向に作用していると思います。
コロナ禍の後は限られた短い時間で、書店員に説明する能力が求められるようになりました。
あさ出版では「7秒で伝わるチラシ」を強く意識して、注文書を制作しています。7秒で理解できる要素だけを入れ込むと、掲載できる内容は限られていき、チラシはテンプレート化していきました。
また、コロナ禍とは関係ないのですが、営業部の机をフリーアドレス化したことで、普段は隣り合わない同僚とも会話するようになり、新たなコミュニケーションが生まれました。
固定席がなくなり、回覧物が回らないという問題はありましたが、ビジネスチャットの「Chatwork」で活発に情報共有を行っています。
書店営業が撮影した店頭の写真は、販促チラシに掲載するだけでなく、「Chatwork」で会社全体に共有し、編集部の社員も見ています。
アップするのは棚の全体が把握できる写真です。他社のどんな書籍と併売されているかなどは、営業や編集を問わず学びになりますし、著者へのフィードバックにも役立ちます。
奥野:具体的な標語はありませんが、PHP研究所も「多忙な書店員が仕分けの中で、パッと理解できるチラシ作り」を心掛けています。「Chatwork」を使って営業と編集で情報を交換し、互いの業務で活用しているのも同じです。
川﨑:チラシの改善には日々取り組んでいます。デジタルチラシ配信サービス「BookLink PRO」を始めてからは、他社と見比べて、より目立つように明るさやカラー、フォントのサイズを変えています。
他社のチラシをよく分析し、展開写真を入れられないかなど、社内で相談するようになりました。あさ出版さんのチラシはよく見ています。
――販促チラシの制作時間について。
木内:あさ出版では、写真とテキストを差し替えるテンプレート化が進んでいます。営業が情報の要素を準備するのに10分、デザイナーの制作時間は7~8分ほどなので、差し替え案件であれば20分もあれば制作可能です。
デザイナーに頼む時間がないときは、手書きで作って5分で仕上げることもあります。手書きは「速報」という意図が伝わりやすく、書店員から好評です。とにかく分かりやすさが一番だと考えています。
奥野:チラシの制作時間はバラつきがあります。簡単なものであれば短時間で可能ですが、売り上げグラフなどのデータを使う場合は時間をかけざるを得ません。チラシの制作時間は、どれだけの要素を組み込むかに比例します。
川﨑:必ず載せるべき要素や一定のフォーマットは社内で決まっています。クオリティの確認はしていますが、その中にどんな情報を入れるかは、制作担当者の個性も出てきますね。
――書店から寄せられる注文方法はFAXとネット、どちらが多いですか。
川﨑:PHP研究所の注文割合は「FAX」と「Bookインタラクティブ」で半々くらいになりました。FAXの注文書に「Bookインタラクティブで受注できます」と載せ続けて、認知を広げていった成果だと思います。
奥野:書店で働いていた経験談で言わせてもらうと、FAXよりも受発注サイトのほうが注文しやすかったです。知っていればネットを使う書店員は多いと思います。
木内:あさ出版では、まだFAXのほうが多いです。しかし、これは書店訪問で回収した紙の注文書もFAX扱いになっているのが影響しています。
川﨑:PHP研究所は書店訪問で取ってきた注文書はFAX扱いにはカウントしていません。ただ、日本全国すべての書店を訪問するのは不可能に近いです。そのため販売企画課では、訪問部隊でリーチできないリアル書店に対して、ネットなどの空中戦でアプローチを行っています。
――書店へのメッセージをお願いします。
木内:あさ出版のクレド(信条)は「書籍が持つ無限の力と可能性を信じて、よりよい明日をむかえたいと願う人の夢を叶えるお手伝いをする」です。書店で出会った一冊の本が読者の人生を大きく変えることもあります。
書店とその先にいる読者の幸せを願って、これからも提案を続けていきます。ぜひともお力添えをお願いいたします。
奥野:かつて書店に身を置いていたからこそ、売り上げを作るために、どんな情報を提供しなければならないのかを考えています。
書店を成り立たせるためには売り上げが必要です。店頭の売り上げにどれだけ貢献できるか。PHP研究所の評価はそこで決まると思っています。書店と共に売り上げを作り、支え合っていきたいです。
川﨑:私も奥野とまったく同じ気持ちです。書店と楽しく本を売れる環境を作るため、これからも多くの情報を届けていきます。
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