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「戦後80年」の今夏に80歳絵本作家・五味太郎さんが語る絵本づくりの思い本屋さんへの期待

 数多くの人気絵本を生み出し、国内外で多くの賞も受賞してきた絵本作家の五味太郎さん。1973年に第1作となる絵本を発表してから400冊以上の作品を手がけ、今年5月にも「第30回日本絵本賞」の最高賞である大賞を『ぼくは ふね』(福音館書店)で受賞した。今も第一線で活躍している五味さんは、「戦後80年」の今年8月に80歳を迎える。それを前に、五味さんに絵本づくりにかける思いや書店への期待などについて聞いた

絵本は子どもも読める本

ーーどのような思いで絵本をつくられていますか。

 絵本を描き始めた頃から子ども向けとは意識しておらず、むしろ子どもも読める本という感じで描いています。初期の頃は出版社に原稿を持ち込んだりしていましたが、そこでも「子どもに何を伝えたいのですか」と聞かれ、「いや、特にないです」と答えていましたね。

 実際、この10年間ほどで「絵本は子どものための本」という世間の意識も変わってきたと感じています。僕の講演会も今までは聴衆の8割方が女性と子どもで、大人の男性はぽつっと後ろの方にいるぐらいでした。最近はちょっと様子が変わってきて、今年1月頃に宇都宮、前橋の図書館を回って話したときは男性も結構いました。絵本に興味を持つ大人の男性も増えているようです。
 絵本を「子どもの本」だと決めつけてしまったら、もったいない。「見える」「考える」「感じる」という絵の原理を使った表現が面白くて、それを探っていたら、まだ5冊、6冊描いていたぐらいの時期に、海外から声がかかって、ほかの国にも伝わっていきました。意外と絵本的な表現ができる男だったらしく、気が付いたら50年経っていたという感じですね。

ーー表現したいことが絵本という形になっているのですね。

 僕が絵本を描いているのは、言葉と絵がからんで何ページか展開していく、この表現が好きだからです。そもそも、本の形がとても好きなんです。もしかしたら、幼い頃の環境が影響しているのかもしれません。親父の部屋には本が積んであって、夜になるとタイプライターの音がしている。なんとなくかっこよくて、いまもそういう世界に対する憧れが、どこかにあるんでしょうね。
 本の良いところは、個人が書いて個人が読むという関係です。テレビとは違って、自分のペースで読めます。わからなくなったら3ページ前に戻るみたいなことが自由にできます。この感覚は貴重です。

 紙の本は昔からありますが、例えば博物館で見ても、形は今とほとんど変わっていない。こんなに安定していて変わらない商品も珍しい。長い歴史を勝ち抜いた理想的なメディアですから安心できます

面白い本屋さんが出てきている

ーー書店にはよく行かれるんですか。

 以前、東京・早稲田に住んでいた頃は、近くにたくさんの本屋さんや古本屋さんがあったので、回っていると面白い本を見つけて、喫茶店でお茶を飲みながら1日が潰れました。今は時間があるときに本屋さんに行って、面白そうな本を買ってきて積んでいます。

ーーいま全国で書店が減っています。

 はっきり言って今の日本には、ぶらりと立ち寄って数時間いられる魅力的な本屋さんが少ないと感じますね。「海外がいい」とか言うのは好きではありませんが、海外に行った時、なんでこういう本屋さんが日本にもできないのかと、思わされる本屋さんをたくさん見ます。昨年の暮れ、久しぶりにクリスマスシーズンのニューヨークに行きましたが、やっぱり本屋さんのたたずまいが違います。人もいっぱいいましたし、長い時間を過ごせる場所でした。
 日本でも面白い本屋さんがあれば、人は絶対に来るでしょう。最近は少しずつ若い人が面白い本屋さんを始めていますね。あれは「本って面白いよね」「本ってかっこいいよね」というウェーブなんでしょう。東京・下北沢にある「本屋B&B」のスタッフを知っていますが、あの店は取次に任せず、本を彼らが選択しているから面白いのです。

ーーこれまでの作家生活を振り返って

 絵本を読むのが好きな子どもも大人もいて、僕は彼らに向けて描いています。ただ、子どもは本気で読んでくれる一番すごい読者だと思います。彼らに見放されたらヤバイという感じで、「絶対に次のページをめくらせてやろう」「最後まで読んだら、もう一度読み返したくなるような構造を持たせよう」と思いながら描いています。
 また、僕は初期の頃に、良い編集者と出会ってきたと思います。「五味さんがやりたいことを世の中に問いましょう」というスタンスの編集者と出会えました。すでにリタイアしている人が多いですが、作品を作るときに、判断基準の一つとして数人の編集者が浮かんできます。そんな編集者たちに出会えたのは、本当にラッキーでした。

ーーありがとうございました

(本紙『The Bunka News』2025年6月3日付掲載インタビューから抜粋)

ごみ・たろう 1945年東京調布市生まれ。桑沢デザイン研究所ID科卒。工芸デザイン、グラフィックデザインを経て、絵本を中心とした創作活動に入る。『みんなうんち』『きんぎょがにげた』(いずれも福音館書店)、『らくがき絵本』(ブロンズ新社)など400冊を超える作品を発表。海外でも15カ国以上で翻訳・出版されている。サンケイ児童出版文化賞、ボローニャ国際絵本原画賞、路傍の石文学賞、日本絵本大賞など受賞多数。

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