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インタビュー

『幻告』(講談社)/五十嵐律人氏に聞く 現役弁護士作家の最新作! タイムスリップで繰り広げられる法廷ミステリー

著者・五十嵐 律人



 弁護士で小説家の五十嵐律人氏の最新刊『幻告』(講談社)が7月25日に取次搬入された。2020年メフィスト賞受賞作である『法廷遊戯』でデビューして以来、様々な活躍を見せている五十嵐氏が、新作『幻告』で新たに挑むテーマはタイムスリップ×リーガルミステリー。本作について五十嵐氏に話を聞いた。(聞き手:B.B.B.編集部)


『幻告』 四六判/384㌻/定価1870円

特殊設定×リーガルミステリー

なぜ『幻告』は法廷でのミステリーとタイムスリップという設定を選んだのか。

 デビューから一貫して「法律×〇〇」というテーマの組み合わせでミステリーを書いてきたのは、法律や裁判だけをメイン要素として前面に出すと、読者に馴染みがない可能性もあると思っていたからです。

 法律と読者を繋ぐ架け橋的なテーマとして新しいギミックに挑戦したいと編集者に相談して、タイムスリップなど特殊設定×リーガルミステリーという提案を受けました。

 今までは現実的な路線で書いてきたので、リーガルミステリーとタイムスリップを掛け合わせることに不安はありましたが、どんなストーリーが魅力的だろうかと考えるうちに、実は裁判とタイムスリップは、親和性が高いのでは、ということに気がつきました。

 そのうえで、もし裁判官や裁判所職員が、過去に下した判決が間違っていると気づいたとしたら…という着想から、この小説を書きました。

 裁判官は記者会見を開くことはないし、どうして有罪あるいは無罪にしたのか、裁判官が自身の考えを表明する機会もない。また、宣告した判決を取り消す方法は基本的にはありません。

 例外として残されている手段が、「三審制」であり、「再審制度」です。

 現実の制度上だと裁判官自身が主体的に裁判をやり直すことはできませんが、タイムスリップをすることで、過去に戻り、その判決を書き換えていくという設定であれば、面白い作品が創れるのではないかと思い、物語を書き進めました。

自由度の高い裁判所書記官

主人公の傑は、花形の裁判官ではなく、一般には馴染みの薄い裁判所書記官という立場にしたのはなぜなのか。

 今回裁判官を主人公にしなかったのは、裁判官は公平中立でなければならないからです。

 裁判官は基本的に法廷で明らかにされた情報だけで判断しなければいけないという原理原則があり、中には、先入観や予断を排除するために、新聞やニュースにすら目を通さない裁判官もいます。

 それゆえ裁判官を主人公にすると、法廷内外での行動が制限されてしまい、弁護人や検察官に対しても、積極的に関わることが難しくなってしまいます。

 一方、裁判官をサポートする裁判所書記官という役職は、法廷でのやりとりの記録はもちろん、関係者のスケジュール調整、また「コートマネージャー」と呼ばれるように、事件を管理し、関係各所と連絡を取り合ったり、手続きが適正に行われていることを担保したりするなど、業務内容は多岐にわたります。そのため、裁判官に比べ、中立な立場でありながら弁護人とも検察官とも主体的に関わることができる、自由度の高い書記官を主人公に据えようと思いました。

作中に主人公の傑ら二組の複雑な親子関係が丁寧に描かれている。

 今までの作品では、「不遇な子どもに、突然現れた善良な大人が手を差し伸べる」構成が多く、家庭内の関係についてあまり書いてきませんでした。今回はストレートに、「歪んだ家庭環境の中で、どのように親と子供が向き合えば問題を解決することができるか」という話に挑戦しました。

 「親ガチャ」という言葉がありますが、子どもが親を選べないように、親も子どもがどのように育つのかは必ずしも選べません。でも親子関係はずっと続いていきます。やはり親と子の繋がりは、血が繋がっていても繋がっていなくても、唯一無二でかけがえのないものであってほしいと思います。血縁関係にかかわらず、自分を犠牲にしてでも親や子供を守りたいと思う関係性は、現実世界でも存在していると思います。それを今回の『幻告』を通じて、家族関係を掘り下げながら、いろんなパターンを書いたつもりです。

作品のキービジュアルを背景にした執筆用パソコン

変遷する裁判官像

もう一人の主要な登場人物、烏間裁判官は被告人に寄り添う裁判官として描かれている。それは五十嵐氏が思う、理想的な裁判官像でもある。

 登場人物は「こういう人がいたらいいなあ」という思いで、キャラクターを作っています。

 裁判官は実際に法律を使って人を裁く仕事なので、あまり感情を出さないように、あえて名前ではなく、「被告人」と肩書で呼んだりします。特に裁判員裁判制度以前は、職人気質で厳格な裁判官が多かったように思います。

 でも被告人からすれば、上から目線ではなく同じ目線で、一人の人間として裁いてほしいと思っているはずです。個人的には被告人に寄り添う裁判官が理想だとは思いますし、実際にそういった柔軟な裁判官が増えてきているのも事実です。多様な裁判官がいる中で、自分ならどんな裁判官が魅力的に感じるかといったことを考えながら、烏間信司というキャラクターを作りました。今回のタイトル決めは、これまでのどの作品よりも難航したと五十嵐氏は話す。

 このタイトルは今までで一番難航しました。最初は「〇〇法廷」など、わかりやすくリーガルミステリーだと伝わるタイトルにしようと考えていました。書き上がってから、短い文字数で内容が伝わり、なおかつ読み進めると意味が分かるものにしたいと考えたんです。

 今回はタイムスリップという要素が入っています。すでに現実で覆せない判決をタイムスリップによって変えるという意味で、「幻」という言葉を入れました。それに自分の罪を認める「告白」や「告解」、罪を言い渡す「宣告」など意味する「告」を組み合わせて、『幻告』というタイトルにしました。デビュー作の『法廷遊戯』以降、多くの読者、書店員を魅了する五十嵐氏。書店への想い、メッセージを聞いた。

 今回は初めてリーガルミステリー×特殊設定を書いてみました。今までの作品の中でも、いろいろな新しいことに挑戦した小説になったと思います。

 これまでは法律をメインに書いてきましたが、今回は血の繋がりとか、タイムスリップなど新しいテーマや要素を盛り込んだので、リーガルミステリーに興味がなかった人にもぜひ読んでほしいです。


五十嵐 律人 1990年岩手県生まれ。東北大学法学部卒業。弁護士(ベリーベスト法律事務所、第一東京弁護士会)。『法廷遊戯』で第6 2 回メフィスト賞を受賞し、デビュー。著書に、『不可逆少年』『原因において自由な物語』『六法推理』などがある。大胆なストーリーテリングとたしかな法律知識で読者の支持を集める。

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