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インタビュー

『エレジーは流れない』(双葉社)/三浦しをんさんに聞く

温泉街の男子高校生を描いた青春小説

「夢」や「努力」を強要しない物語

撮影:石田祥平

 3年ぶりの新作となる、三浦しをんさんの最新刊『エレジーは流れない』が、4月23日に双葉社から刊行された。さびれた温泉の街「餅湯町」を舞台に、どこにでもいそうな男子高校生のモラトリアムのような日常、未来に対する漠然とした不安や焦燥を、ユーモアを交えつつ描いた作品で、三浦さん自身、「きらめきのない青春小説」と評す。しかしなぜ、そんな「きらめきのない」作品を書いたのか―本作にかける想いについて話を聞いた。(聞き手 山口高範)

3年ぶりの新作となる本書。もちろん書店員や読者の期待値も高い。執筆を終えた三浦さんは今、どんな気持ちなのか。

 正直、読者に受け入れてもらえるか、楽しんでもらえるかドキドキするし、不安になります。今回に限らず、新作を世に送り出すときはいつもそうですね。
 でも新刊、既刊を問わず、本屋さんが店頭に置いて下さって、手書きのPOPを書いてくれたり、フェアコーナーで私の本をラインアップに入れてくれたりするのを拝見すると、「あ、仲間に入れてもらえたんだな」、「読者の方に伝えたいと思って下さったんだ」と思えてほっとします。

「ぬるま湯」のような温泉街が舞台

東海道新幹線のこだまが停まる、本作の舞台「餅湯町」。なぜ温泉街の商店街を舞台にしたのか。
 担当編集者から「商店街をテーマにした明るい小説を読みたい」と声をかけていただき、「面白そう」と思ったのが、執筆のきっかけです。
 でも単に「商店街」をテーマに、地元のコミュニティを舞台にすると、いわゆる「人情モノ」に偏ってしまう懸念があって。決してそういうものが描きたいわけではなかったんです。
 一方で「温泉街の商店街」であれば、地元民という「内部」に、観光客という「外部」の要素も加わって、居心地はいいけれど、どこか逃げ出したくなるぬるま湯のような、街全体が少しさびれてしまっているような、そんな商店街の雰囲気を出すことができるかなと。さらにそんな環境に身を置く地元の男子高校生が抱く、「漠然とした不安や焦燥」を描きたいと思って、温泉街の商店街を舞台にしてみました。

「商店街」、「家族」など、限られたコミュニティを軸に、本作の物語は進む。三浦さん自身、共同体やコミュニティについて、どう考えているのか。
 大小問わず、コミュニティというのはとても厄介で。もちろん安心も出来て、心強くもあるけれど、閉鎖的で、独自のルールを強要する部分もある。そこから抜け出して、新しい世界を見てみたいという気持ちと、一方で愛着があるがゆえに、完全には切り捨てられない気持ちとの揺れの中で、何とかバランスをとりながら、多くの人が暮らしているんじゃないかと思うんです。
 当然、一人で生きていくことは不可能で、誰しも何かしらのコミュニティ、しかも複数のコミュニティに属している。そこで互いに助け合いながら、生きていきはするんですけど、やっぱり息苦しいと感じるときも少なくなくて、コミュニティとの適切な距離感を見いだすのは難しいなと思いますね。

▲餅湯町の地図が書かれた三浦さんの創作ノート

10代特有の「自由」と「不自由」

この作品は全編を通じて、一貫した「明るさ」がある。どのような思いで、執筆していたのか。またなぜ男子高校生の物語にしたのか。

 男子高校生って、駅のホームなどで見かけると、本当に大人数で行動していることが多いですよね。何かくだらないことで笑いあったり、友達同士でこづきあったり、バカだなーとか思いつつも、とても楽しそうに見えます。
 そういう彼らを主人公に、肩肘張らずに読んでいただける小説を書いてみたいなと思いました。読書する時間ぐらい、現実のあれこれを忘れたっていいだろう、と。男子高校生同士の、他愛のない会話を考えているときは楽しかったですね。
 高校生って、「やらなくてはいけない」ことがたくさんあるように見えますけど、実は、それって「やらなくてもいい」ことで、校則をやぶっても、宿題を忘れても、学校をさぼっても警察に捕まるわけではない。いろんな義務から解放された自由な世代です。
 でもそれって、私たち大人から見た感想で、「自由」の最中にいる彼ら自身は、「不自由さ」を感じている。彼らはその不自由さの中で、精一杯生きている。楽しそうに見える一方で、不安や悩みも抱えている。
 10代のころって自意識過剰で、自分自身がこうありたいと思う姿や自己認識と、他人からの見え方が違うことに悩んだり、逆に周囲に期待されるキャラクターを演じようと、過剰におどけて見せたりする。各登場人物のそういう繊細な側面も描きたい、という思いもありました。

▲作中に登場する餅湯町のマスコット「もち湯ちゃん」のストラップ©嶽まいこ

「物語の型」を外す

主人公の怜は、勉強はできるが、具体的な夢や目標を持たない青年として描かれている。なぜ彼を主人公にしたのか。

 将来や目標に向かって努力することが推奨されがちな今、一方でそうでない人、それが苦手な人だって、一定数いるはずです。実際に私自身も高校時代、明確な目標に向かって努力するタイプでもなかったし、努力の強要を苦痛としてとらえる人だって、必ずいると思います。だからそういった人たちを追い詰めない、「夢」や「努力」を掲げない物語があってもいいかなと。
 もちろん、私も一つの目標に向かって努力することをテーマにした作品も書いてきました。
 それは、そういった目標に向かって邁進する人物への憧れというのも一つの理由ですが、「夢」や「努力」を主題にすると、物語を構成しやすいという側面もあるからです。
 ある種の物語の王道パターンや型にはめることで、ドラマを生み出しやすくなる。それは小説というフィクションを生み出し、受け止めてきた人たちからすれば、とても心地のよい物語の構造です。
 でも「俺は、ぐうたらして生きていきたい」、「夢も目標もない」という気持ちに寄り添うような、そんなフィクションがあってもいいと思う。だから今回はあえて、「夢」や「努力」を前提にした「物語のお約束」を取っ払い、「物語の型」からなるべく外れる展開の話にしようと試行錯誤して書きました。
 ですから本作は、地味で平凡で、ドラマティックな展開もなく、「きらめきのない青春小説」かもしれません。でも最後まで読んだ時、「面白かったな」、「読んでよかったな」と少しでも思っていただけるものになっていればと願っています。

最後に本屋大賞の受賞歴もある三浦さんに、書店や書店員への想い、メッセージを聞いた。

 いつも感謝の気持ちしかありません。今、大変な状況の中で、本屋さんが開いているということは、とても意義深く、すごいことだと思います。私自身、本屋さんに行って、いい本に出合えると気分転換にもなるし、生活の中での楽しみになっています。
 よろしければ、この本も並べて下さったらいいな、と思います。そうしてもらうことで、日常がちょっと大変だな、疲れちゃったなと思っている読者の方に、少しでも楽しい、のんびり肩の力を抜く時間を届けていただければうれしいです。


四六判/264㌻/定価1650円

 

三浦 しをん(みうら しをん)

1976年東京都生まれ。2000年『格闘する者に○』でデビュー。06年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、12年『舟を編む』で本屋大賞を受賞。15年『あの家に暮らす四人の女』で織田作之助賞、18年刊行の『ののはな通信』で島清恋愛文学賞と河合隼雄物語賞、『愛なき世界』で日本植物学会賞特別賞を受賞。他の小説に『ロマンス小説の七日間』『風が強く吹いている』『仏果を得ず』『光』などがあり、エッセイや共著も多数。

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