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インタビュー

『かいけつゾロリ スターたんじょう』(ポプラ社)/原ゆたか先生に聞く

4月5日からアニメ新シリーズがスタート!
本は娯楽!ゲームやマンガと同じ土俵に

 12月に最新刊『かいけつゾロリ スターたんじょう』を刊行した原ゆたか先生。シリーズ66作品目となる本書は、歌うことが好きな女の子が、ゾロリや妖怪たちに支えられながら、スターを目指すというストーリー。またこの4月からアニメ新シリーズ「もっと!まじめにふまじめ かいけつゾロリ」(NHK Eテレ)が、ゴールデンタイム(毎週日曜夜7時)でスタートした。「アニメ化が本を手に取るきっかけになれば」と期待を寄せる原ゆたか先生に、「ゾロリ」の創作秘話や児童書作家としての思いを聞いた。 (聞き手 山口高範)

「最初の読者」の存在

最初は挿絵画家として活躍していた原先生。
児童書作家として活動するきっかけは何だったのか。

 映画が好きで、挿絵で映画監督のような演出ができればと思っていました。お話をより楽しくするために、作家にいろいろと意見を出していたら、自分でお話も書いてみたらと言われ、児童書作家として活動するようになりました。だから実はどちらかというと本の書き方や文章は苦手で、むしろビジュアルから物語を作っていくタイプです。
 そのため妻(絵本作家として活動する原京子さん)に「最初の読者」として協力してもらい、文章の構成から子どもが読みやすい端的な表現など、読者目線でのアドバイスやサポートをしてもらっています。また、面白いと思って書き出した作品も、5回、6回と推敲しているうちに、自分では何が面白いかわからなくなってしまうこともあるので、妻に「面白い」と言ってもらえるとほっとします。

今作のヒントは「ボヘミアン・ラプソディ」

今作でゾロリシリーズは66作品目を迎え、現在67作目も創作中だという。
30年以上に渡り、書き続けることができたアイデアの源泉とは。

 自分が子どものころ好きだったものは何だっただろうと振り返ってみると、怪獣や恐竜が好きで、お化けや妖怪、食べ物や宇宙にも興味がありました。それを一つずつ作品にしていった結果、66作品まで書けたというのが、率直な感想です。
 また好きな映画作品を2、3本かけ合わせて物語を構成するなど、映画から影響を受ける部分もかなり大きいですね。ただ映画のように殺人事件や恋愛など、ハードなテーマ設定はできないので、それをいかに子ども向けに転換するかということを 意識しています。今回の『スターたんじょう』も、実は「ボヘミアン・ラプソディ」を観て感動し、これを子ども達に伝えるにはと考え始めました。「スターを目指す女の子」と、子どもが好きな「妖怪」を登場させて、妖怪ならではの「歌手の育て方」を描くことができれば、面白いんじゃないかと思いつき、作り上げました。

▲映画「ボヘミアン・ラプソディ」の1シーンをパロディ化したポスター

 

大人になってしまうことへのジレンマ

この作品に原先生はあるメッセージを込めた。しかし、ジレンマもあると先生は語る。

 私は小学生のころから絵が好きで、絵を描き続けて児童書作家になりました。だから自分が歩んできた人生から、常々考えている「好きなものをみつけよう」「嫌なことがあっても好きなことなら乗り越えられるよ」というメッセージを、今回の作品を通じて、子どもたちに伝えたいという思いがありました。
 一方で、お説教臭い話がとても嫌なんです。ゾロリを書き始めて30年以上。ずっと書き続けていると、「子どもたちに何かを教えてあげたい、心に残してあげたい」と、つい思ってしまう。でも、それは子ども達も自分の経験を通して感じるものです。だから自身の人生経験から物事を言う作家にはなりたくない、という思いもあるんです。

「成長」しないキャラクター

原先生にとって本とはどういう存在なのか。
またどういう思いで、ゾロリという作品を創り続けてきたのか。

 私は本も娯楽だと思っています。本もゲームもアニメもマンガも、全て同じ土俵に乗せて、遊びの選択肢の一つになってほしい。大人が勉強の一環として読書を強いるから、子どもも本が嫌いになるんです。 
 感動する本、ためになる本を読ませたがるけれど、その本が読者にとって意味があるかどうかは、本人が決めることで、他人や大人が決めることじゃない。読む人全員が「ためになる」本なんてないと思います。
 私は小学生のときに、植木等の喜劇映画が大好きでした。みんなに無責任男と言われていても、私にはどんなことがあってもあきらめない前向きな生き方に見えて、十分すぎるくらいためになったんです。
 「寅さん」も好きでしたが、いつもフラれてばかりで、本人は全然進歩しないのに、周りの人を成長させたり幸せにする。それが私には魅力だったんです。ゾロリにも同じことをさせたかった。周りはいつもそこそこ幸せになるのに、ゾロリ自身はいつも少し残念な目にあう。でも、次へ進んでいく前向きな姿を描きたいんです。
 また、時々ライバルを登場させますが、コミックによくある、主人公が敵に勝利して万々歳という話は、ゾロリにはない。ゾロリの悪者は憎めないところがあり、悪者には悪者なりの理論があるから、彼らの生きる場所も残しておいてあげたいなという思いがあるんですよね。

子どもたちと向き合う

ゾロリは小ネタとして登場するパロディも魅力 の一つだ。
今作もロックバンド・クイーンをはじめ、古今東西問わず、さまざまなアーティストやミュージシャンのパロディが登場する。

 パロディの元ネタを知らなくても、物語の大筋とは関係ないから、ストーリーを楽しんでもらうには問題ないんです。世代間のギャップもあるので、その「小ネタ」が、今の子どもたちにどこまで伝わっているのかはわからないのですが、親子で話すきっかけになってくれたらうれしいです。
 また作者である私も作中に登場させているのですが、かつて手塚治虫や赤塚不二夫など、往年の漫画家やヒッチコックがやっていたことが楽しくて、自分の遊びのつもりで描いていました。すると、子どもたちが探すことを楽しんでくれたので、どんどん難しい隠し絵になっていきました。
 どこまでできるかはわからないですが、子どもたちが楽しんでくれる色々な仕掛けをしていきたいと思いますね。

アニメからの影響

ハリウッド式のシナリオ本を参考にするなど、ス トーリー構成に余念がない原先生。
他者が介在するアニメ化については、どう考えているのか。

 本を描いている間、キャラクターをもっと動かしたいという思いがありました。アニメであれば、アクションや大立ち回りもできるわけですから、アニメ化はうれしいですね。
 また逆にアニメから影響を受けることもあります。例えばアニメから「ゾロリの横顔ってこんな風になっているのか」と気づかされたり、イシシとノシシのそれぞれのキャラクターが確立されていったり。
 アフレコの現場にも立ち会うことがあるんですが、 声優の方からその状況の登場人物の心理状況を尋 ねられるなど、本当にゾロリやその他キャラクターの ことを思って、愛してくれているということが伝わってきます。
 アニメの放送は、翌日に月曜日を控えたちょっと憂鬱な日曜日の夜ですが、ストーリーだけでなく、主題歌も元気が出るものになっているので、子どもたちに楽しんでもらって、元気に次の日に学校へ行ってほしいですね。今回のアニメ化がきっかけで、本を読まない子も本を手に取るきっかけになるかどうか、さらに次の層にも広がっていくのか、とても楽しみです。

▲創作時に使われるシナリオボード(右)とストーリーカード

A5判/104㌻/本体1000円

 原 ゆたか(はらゆたか)

1953年、熊本県に生まれる。1974年、KFSコンテスト・講談社児童図書部門賞受賞。代表作の「かいけつゾロリ」シリーズ(ポプラ社)は既刊66巻を数え、「朝の読書人気本調査」で小学生部門11年連続1位(朝の読書推進協議会調べ)になるなど、子どもたちに絶大な人気を誇る大ベストセラーになっている。他に、「イシシとノシシのスッポコペッポコへんてこ話」シリーズ(ポプラ社)「にんじゃざむらいガムチョコバナナ」シリーズ(KADOKAWA)など多数の作品がある。

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