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インタビュー

『やくみつるのエキセントリック・ジャーニー』(帝国書院)/世界各国のエピソードと数百の珍しいお土産を収録、「エキセントリック」な海外旅行エッセイ

A5判/176㌻/定価1980円 ※書影は編集中

 3月31日搬入で刊行される『やくみつるの エキセントリック・ジャーニー』。本書は、著者・やくみつるさんが訪れた開発途上国を中心に、35カ国と国内4地域のエピソードをイラストや地図を交えてまとめた、ユーモアあふれる紀行エッセイ。さらに、やくさん自身が購入・蒐集した数百点に及ぶ民芸品や土産物を写真で紹介する。これまでやくさんが訪れた国は100カ国以上。やくさんを旅行・蒐集へと駆り立てるものとは。

(聞き手:山口高範)


やくみつるさん

あふれかえったグッズを供養


 自宅にあふれかえる、蒐集したグッズや民芸品、土産物などをどうにかしてあげなくては、という思いが本書執筆のきっかけだという。

 旅先で買い集めたものをはじめ、あらゆる蒐集品が家の中にあふれてかえっていて、もうこれ以上はさすがに買い足すことはできないぞ、という段階まで来ていました。ですから一度、何かしらの形で「供養」してやらないと、と思っていた矢先に、コロナに見舞われて。海外への「新規開拓」が難しくなったこともあって、総括するにはいい時期ではないか、ということで帝国書院さんにお話したところ、快諾いただき企画が進みました。

 本書に収録している国やグッズは、ほんの一部です。その国を象徴するような、わかりやすい土産物を紹介しようと、かなり厳選して収録しています。これまで、たくさん買ってきましたけど、やはりそういう、ティピカルなものに魅かれますね。例えばペルーで買った、マチュピチュの置物なんて最高です。「ペルーと言えば“マチュピチュ”」みたいなものですね。こういうものと出会えると本当にうれしい。

 あとは買った量で言うと、キューバと南アフリカ共和国。完全にスイッチが入って、とにかく買い漁りました。キューバでは、カストロとゲバラの人形や置物がとにかく多くて。この二カ国は、購買欲がはじけましたね。

各国の土産物であふれかえるやくさん宅

求めている一品との出会い

 本書で紹介する土産物は、ジオラマから人形、絵皿など一見、統一感がないように見える。

 初の海外旅行先のニューヨークから始まり、その後も各国でいろいろなものを買っているうちに、だんだんとジャンルとして系統立ってきましたね。

 例えばフィリピンに行ったときに購入したペン皿に、国の形があしらわれていたんです。そうすると次の国に行ったときに、その国の形をした一品が欲しくなり…といった具合で、同じように国旗をあしらったもの、民族衣装を身にまとったペアの人形、絵皿、ミニ額絵、民家や動物の置物など、どんどんジャンルが増えていって、今では細分化すると50ジャンルくらいになっています。結局、それらを買い漁ることに奔走して旅が終わるということもよくあります(笑)。

 常にそのジャンルは頭の中にあるので、それに該当するものはすぐに目に入ってくる。インドに行ったとき、体育館のような広さのある店内で、数十万点という品がびっしりと並んでいて、その中から自分が求めていたものを、ぱっと見つけ出すことができる。それってもう、その一品が私のことを呼んでるんですよね。そんな経験はしょっちゅうあります。

 ボリビアの新婚旅行以降、妻と一緒に行っているんですが、私らは旅行会社が組んだツアーで行くことがほとんどで、そうすると土産店に行く予定は組まれていないわけです。ですから街をぶらつくときなんかに、土産物屋を見つけると、今後の予定からして、今、逃したらチャンスはないと判断し、わずかな間隙を縫い、さっと行って、さっと買う。そのときは、妻はちゃんとツアーの列に加わっていてもらう。二人ともいなくなると、「あの夫婦、どこいった?」ということになりますので、そこはチームプレイです。

海外で鍛えられた「食う力」

 土産物だけではなく、各国でその国ならではものを数多く食してきたやくさん。海外で「食う力」も鍛えられたという。

 本書にも収録していますが、ブラジルでの陸ガメピラフは、衝撃的でした。とても美味だったことは覚えていますが、かなり複雑な気分でしたね。

 今ではいろんなものを食べられるようになりましたが、私は小さいころから偏食で。でも海外で現地のものを食べることで、「食う力」が鍛えられました。

 その端緒となるのが、新婚旅行でボリビアに行ったとき。そのときのステーキが、とにかく固くて、筋張っているとかそういうレベルではない。昆虫専門誌『月刊むし』の昆虫採集ツアーとして参加したんですが、参加する男性陣は屈強な男たち。平気でその固いステーキをほおばっている。妻は私のことを「軟弱な男だな」と思ったでしょうね。

 でもボリビア以降、いろんな国に行くごとに、その固い肉がイケるようになってきている自分がいて、肉に限らず、あらゆるものが食べられるような嗜好になってきている。いつの間にか、周りが無難なメニューを食べている中で、わざわざその国ならではのものをチョイスするようになりましたね。

 いま海外旅行に行けない代わりに、各国料理のレストラン巡りをするんですが、その固い肉が恋しくなって先日、越谷のナイジェリア料理店に行きました。そういう店に行って、日本人が現地の話をすると、本当に喜んでもらえますよね。

 今、首都圏内にアフリカの人たちのコミュニティというのが実はたくさんあって、やはり彼らはどこか隠れるように生きている。もしかしたら日本国内で、見えない差別があるんじゃないか、と思ってしまう。埼玉県八潮市のパキスタンの人たちのコミュニティ「ヤシオスタン」みたいに、地域と一緒になって盛り上げて、明るく愉快なものにできれば面白いな、と思います。

 100カ国以上を訪れたやくさんがおススメする国はベネズエラだという。

 ベネズエラは、もうテーマパーク状態。まず気候の振れ幅が大きい。熱帯雨林もあれば、ステップ、カリブ海沿いにはプチ砂丘なんかもあり、しかもちゃんと大都市もある。その間の移動を航空機、船舶、車、丸木舟など、あらゆる手段を使って移動する。とにかく楽しい、愉快な国でしたね。でも今では治安の問題で、首都カラカスは素通りです。他にもアフリカのマリ、リビア、中東のイエメンも行けないですからね。

 コロナ解禁もあって、今はサウジアラビアに行きたいです。地図上での面積で言うと、サウジアラビアは押さえなければいけない国なので。王家独裁が批判されていますが、でも逆に観光で国際的に世間体を取り繕おうとしていて、むしろそういうタイミングこそが行き時なんじゃないかと。いつ行けなくなるかわからないですからね。あと赤道ギニア共和国にも行ってみたいです。

裏切られることの楽しさ

 幼少時の東京オリンピック、小学校高学年の大阪万博で、海外への興味関心が高じて、現在に至るというやくさん。やくさんを旅行へと駆り立てるものとは。

 私は幼いころから地理・地図好きで、地図帳はもちろん、どことも知れない小さい国や発展途上の地を紹介してくれる本をむさぼるように読んでいました。一方で東京オリンピック、万博でもたくさんの国を知った。加えて、海外の切手収集の趣味もあいまって、その少年時代に座学で知った知識、情報を大人になって、実際に足を運んで確かめたいと。

 でもその座学は、実際に行ってみると、想像していた通りなどという国は今まで一つもない。ことごとく見事に裏切られる。行って初めて、こういう側面もあったのかと知る。その裏切られに行くことの楽しさ。だから私は海外に足を運び続けるんです。



やく みつる
 早稲田大学商学部卒業。同大学在学中、漫画研究会同人。1981年「まんがタイム」誌にデビュー、1996年文藝春秋漫画大賞受賞。プロ野球を中心にスポーツ、政治、時事ネタなどの四コマ漫画、イラストを手掛ける。TVコメンテーターとしても活躍中。

<おもな著作>

『東大生も読めない!?やく式難読漢字ドリル』(双葉社)、『大人の漢字力』(祥伝社)、『サラリーマン川柳にんじょう傑作選』(NHK出版)※共著、『地理クイズ大全 地理トレ』(帝国書院)※一部作問

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