絵本制作をはじめ、イラストレーション、工作、ワークショップ、テレビ番組や舞台のアートディレクションなど、多彩な活動を展開しているtupera tupera。亀山達矢さんと中川敦子さんによるユニットで、2002年に雑貨ブランドとして活動を開始。独特の絵柄や世界観に魅了された人たちから「絵本を作らないのか」という声がけが多く、2004年から絵本を手がける。制作への思いや、クリスマスにまつわる話を2人に聞いた。
(聞き手:山口高範)
活動の幹は絵本
――創作活動について教えてください
亀山:テレビ番組や雑貨、広告、舞台美術など、ジャンルはいろいろなのですが、依頼してくれる方たちは僕たちに「何か面白いことをやってくれるんじゃないか」と期待してくださるので、プレッシャーはありますが、「びっくりさせちゃおう」とか「喜んでくれるかな!?」という遊び感覚を持ってアイデアを出していますね。
自分たちが予想をしていなかったような仕事の依頼もあるので新鮮で面白く、アイデアを思い付くのはそうした人との出会いがきっかけだったりします。
ただ、絵本の場合は、何のベースもない状態から考えることが多いです。「今日は絵本のことを考えてみようかな」という感じで、電車に乗っている時とかランニング中とかね。
中川:そういう意味で、絵本の制作は自分たちの活動の中で一番、自主的にやっているものかもしれません。仕事の幅は広がっていますが、絵本は自分たちの中でも特別で、活動の幹になっていると思います。
完成の喜びを分かち合う
――創作するうえで大切にしていることは何ですか
亀山:大事にしているのは、人と人との関係。僕らに興味を持ってくれて、「面白いことをしよう」と依頼してくださる方のことを、きちんと感じながら制作し、完成の喜びを分かち合うこと。だから間に第三者を入れるつもりがなくて、スタッフはいないんですよ。事務的なことも含め、細かいことも全て2人だけでやっています。
中川:できるだけ全部、責任をもって自分たちでやりたいですね。展覧会でも作品だけ貸し出してあとはお任せではなく、空間によって作品の見え方は全然違いますから、その地域や会場に合わせてプロデュースしていますね。
亀山:それから活動を始めて22年間ずっと、制作はパソコンを使わず手作業にこだわっています。
中川:モニター越しで何かを作るという感覚にはなれないんです。自分たちの体質ですね。手を動かして、目の前で出来上がっていく感覚を大事にしています。
亀山:原画は印刷と全然違って、展示したら見応えがあります。仕事でも完成した原画を見せたり、打ち合わせでラフをその場で手で書いたりすると、喜んでもらえる。手作業で作ったものは、やはり伝わり方が違うと感じています。
フルマラソン型と超短距離走型
――お互いにリスペクトしているところを教えてもらえますか
亀山:中川は、制作中のプロセスを継続して楽しめるところがすごいです。どんな仕事でも楽しかったり面倒だったり波がありますが、最後までフラットに楽しみながら考えを深めていける、フルマラソン完走型です。僕は10m走ならメダルをとれるかも(笑)。それかセパタクローみたいな変わった競技ね。
中川:亀山はアイデア人間なので、打ち合わせ中に急にポンと一言、面白いアイデアが出てくるのがすごい。一言なんだけど、皆が「それ、いいね!」って盛り上がるんです。私はその横で「それだったらこういうこともできるな」とか「それは現実的には難しいかな」など冷静に考えてしまいます。
亀山:僕は面白いアイデアを思い付いた時がピークで、あとはもう早く完成しないかなあって思ってる(笑)。中川はアイデアや構成を練って形にしていくのが好きなんですよね。
中川:2人でもそうですが、その仕事に関わっているいろんな方と打ち合わせを重ねて、皆の意見があわさって形になっていく過程は気持ちが盛り上がりますね。
食品サンプルで作ったサンタク“ロース”
――クリスマスの絵本や思い出についてお聞かせください
亀山:友人家族とのクリスマス会で、オーナメント交換を何年か続けたことがありました。大人も子どもも1人ひとつ自作して、歌をうたいながら回すんです。僕はたとえば、ロース肉の食品サンプルにお米を貼り付けたサンタク“ロース”や、小さくなった色鉛筆に顔を描いたサンタクロースなど、結構気合いを入れて作っていました。
中川:買ったものじゃなくて、その人のオリジナリティが出るので面白いし、その後もクリスマスツリーにつるす度に、楽しかったことを思い出します。
亀山:それから、クリスマスの絵本といえば『さむがりやのサンタ』(レイモンド・ブリッグズ作・絵)です。僕は絵本に全く興味のない子どもだったのですが、これは漫画のようなコマ割りになっているから読みやすかったのかな。
中川:私は『よだかの星』(宮沢賢治・著/工藤甲人・絵)です。祖母の家に泊まって、クリスマスの朝、枕元に置いてあったんです。絵も渋くて、それを見つけた時に何て言ったらいいのか、ぞわっとした感覚を覚えていますね
それから『まどからおくりもの』(五味太郎作・絵)。自分が作る側になって思うのですが、仕掛け絵本って「ここはちょっと無理があるから、ごまかしちゃおう」みたいなこともあるんですよね。でもこの絵本は全てのページがあっと驚く仕掛けになっているし、終わり方も含めて本当に秀逸だと思います。
絵本新作や企業とのコラボグッズを発売
――今後の活動について教えてください
亀山:絵本は新作を3年間出せていないのですが、ただいま絶賛制作中です。
中川:来春発売を目指しています。
亀山:それから『tupera tuperaのアイデアポケット(仮)』(ミシマ社)という、僕たちの過去の作品やアイデアの出し方について語った読み物が発売予定です。さらに、10年前に発売して絶版になっていた『12の星のものがたり 新装版』(Gakken)が間もなく発売されます。ギリシャ神話をもとにした星座物語の絵本です。
中川:装丁も新しくなって、キラっと光る星の感じが、クリスマスにもぴったりだと思いますよ。
亀山:本以外の作品でクリスマスといえば、「パズルチョコレートギフトボックス」(DEAN&DELUCA)と「すごろくリスマス」(nunocoto)が例年通り販売されます。
「パズルチョコレートギフトボックス」は、チョコレートの入った4つの箱を組み合わせて、サンタやツリーなどの絵を作って遊べます。
「すごろくリスマス」はツリーの絵が描かれたタペストリーなんですが、壁に飾ってアドベントカレンダーとして楽しんだ後、床に広げてみんなですごろくをすることもできるんですよ。
書店で発揮される絵本のポテンシャル
――書店・書店員へのメッセージをお願いします
中川:懇親会などで書店員の方にお会いする機会があり、お話を聞いていると、書店や本に対する熱い思いが伝わってきて、こちらも心がワーッと動きます。オンラインで購入するのはもちろん便利でいいのですが、やっぱり書店員の方から熱を持って本を薦めてもらったり、書店でしか生まれない出会いは確かにあると思っています。
亀山:絵本はすぐに読めて小旅行できちゃうのがいい。読んだ後に不思議な気持ちになったり、思ってもみなかった作品に心を奪われたり、幼少の頃のお気に入りを読み返してまた違った感覚になったり、年齢に関係なく楽しめるものだと思います。だから僕はぜひ絵本を大人にも読んでほしい。
僕らは絵本のポテンシャルの高さを信じているので、書店員の方々にも、絵本を子どもの本コーナーに置くのではなく、全ての年齢層をターゲットにおすすめしてほしいですね。
tupera tupera(ツペラ ツペラ)
ユニークなユニット名は、唱えると何か面白いことを思い付くような“おまじない”をイメージしているという。絵本をはじめ著書多数、さまざまな国でも翻訳・出版されている。『わくせいキャベジ動物図鑑』(アリス館)で第23回日本絵本賞大賞を受賞。2019年に第1回やなせたかし文化賞大賞受賞。他受賞歴多数。
亀山達矢(かめやま・たつや)
1976年三重県生まれ。武蔵野美術大学油絵学科版画専攻卒業。
中川敦子(なかがわ・あつこ)
1978年京都府生まれ。多摩美術大学染織デザイン科卒業。
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