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インタビュー

【著者インタビュー】『貴女。百合小説アンソロジー』(実業之日本社) 織守きょうやさん・円居挽さんに聞く

四六判304ページ/定価1980円(税込)

恋愛だけではない、女性同士の関係を描く
百合のイメージを刷新するアンソロジー

 青崎有吾、織守きょうや、木爾チレン、斜線堂有紀、武田綾乃、円居挽が執筆陣として名を連ねる『貴女。百合小説アンソロジー』が、6月27日に実業之日本社から発売される。前作『彼女。』に続く、百合小説の作品集第二弾だ。百合小説というと、一般的に性愛も含んだ女性同士の恋愛模様が描いた文芸というイメージが強い。しかし編集を担当した加藤翔さんは「『彼女。』を出したときに、百合小説ファンから厳しい意見ももらった。でも百合小説というのは、女性二人が出てくるフォーマットであればそれでいいし、それくらい自由でいいと思う」と話す。本作では恋愛感情だけではない、女性同士の特別な関係性・感情を描く。第一弾でも執筆している織守さん、円居さんにそれぞれの思いについて伺った。

(聞き手:山口高範)

織守きょうやさん(左)と円居挽さん

物語に頼ってはいけない

織守: これまでミステリやホラーを多く手掛けてきましたが、その場合、謎やストーリーという基本的な流れがあって、そこにキャラクターを当てはめていき、結果的に関係性が描かれるという手法でした。

 ですから結果的に女性同士の強い愛情や恋愛感情を描くことはあっても、登場人物の関係性をメインに書くというのは、第一弾収録の「椿と悠」が初めてでした。

 作品を仕上げるにあたって、起承転結がはっきりしているミステリやホラーのように物語性に頼りたくなるけど、関係性をテーマにした小説なら、あまりそこに頼ってはいけないというか、頼らないほうが潔いんだろうなという自覚はありました。

 ただ私の場合、これまでも、謎やストーリーを重視した内容でも、同時に人間関係も描いた作品が多く、その点を好意的に評価してくれている読者も多かったので、依頼をいただいたときは、単純に楽しく、スムーズに書けそうだと思いましたね。

円居: 第一弾の執筆依頼をいただく前に、実は女子高生が主人公のコミックのノベライズアンソロジーを手掛けていたので、お声がかかった理由もわかるんですが、それでも「自分じゃなくて、もっとふさわしい人がいるんじゃないか」と。百合小説というと、真面目に向き合っている作家さんが多いので、そこに私なんかが参入していいものかと思いましたね。

織守: でも私は円居さんや青崎さんがXで百合についてポストしたりしているのを見ていて、それぞれの作風は百合っぽくないけど、百合がお好きなんだろうなと。だからこのテーマであれば、お二人には声がかかるだろうとは思っていましたよ。

変化球な百合小説

円居: 自分が男性なので何をどう書いたとしても、この世に存在しないものを書いてしまいかねない怖さというか、いびつな欲望の結晶が生まれてしまう懸念もあったので、百合は極力避けてはいました。

 ですから前作も今作も、ストレートに百合と向き合ってはいません。個人的な印象ですが、ネットの百合文芸のメイン層は女性同士の性愛を描く方が多いと思っていたので、あえて女性同士の連帯というか、シスターフッドに寄せた変化球の百合小説にしようという意識がありました。

織守: 確かに第一弾のときもそうですが、この執筆陣ならみんな変化球で来るだろうなと。思った通り、みなさん変化球で書いてきて。性癖が出ていますよね(笑)。

 ですから私の場合は、あえて前作以上に王道に寄せて、さらに一歩踏み込んで、恋愛度を高くしました。そうなると、純粋に女性同士の関係性に軸足のある作品にしなくてはいけない。関係性一本で勝負しなくては、と。ただそれで読者を楽しませることができるか、少し不安な部分もあったので、多少ミステリとしてのギミックを挿入しましたが、やはり百合小説として関係性を描く、物語として読み応えのある作品にする、その狭間の匙加減が難しかったですね。

織守きょうや「いいよ。」扉絵/むっしゅ

円居: 織守さんの前作はストレートな女性同士の話でしたけど、割とミニマムでしたよね。今回はあれよりも長い作品ですが濃度はそのまま、つい最後まで読み進んでしまって、今まであまり感じたことのないような読後感でした。

織守: 円居さんの作品に出てくる二人の女性は、恋愛感情ではない、何とも説明のつかない感情を描いていますけど、読む人が読めば「この関係性って百合だよね」って思う人もいる。この作品を読んで、いろんな百合小説があってもいいと改めて思った。逆にこれくらいが丁度いいという人もいると思う。

円居: 作中に男性が登場するだけで、嫌悪感を示す百合ファンが少なからずいるのもよく知っているので、おそらく他の人はこういう書き方をしてこないだろうという考えもあって、意識的に男性を登場させ、ある重要な役割を担わせています。

 ただ織守さんも言うように関係性だけで書こうとするのは私も怖くて、だからミステリとしてのギミックを盛り込んでしまったわけです。結果的に犯罪小説の要素が濃くなってしまい、今回の収録作では百合小説としての純度が一番低いかもしれないなと思っております。

円居挽「雪の花」扉絵/高河ゆん

百合のパブリックイメージを裏切る

織守: でもミステリやサスペンスとしても読めるので、百合好きではない人にとっても、読みやすい面白い作品ですよ。今回、円居さんだけでなく、皆さん前作よりもパワーアップしているように感じました。

 武田(綾乃)さんも前作はそれこそ関係性のみの作品で、その姿勢がまたかっこいいなと思いましたけど、今回はもしかしたら、読み手のことも考えられて、サスペンスの要素も入れてきたのかなと。殺伐感もまた百合小説らしくて、とにかく面白かった。斜線堂さんの作品も、前作と比べると明るくて、葛藤してはいるけど重すぎなくて好きな作品ですね。

円居: 青崎さんの作品は、「やられた」と思いましたね。存在しないであろう職業と設定で、どこで落ちるのかがわからない。それなりにミステリを読んでいるので「まあ、この辺りが落としどころだな」というのが解る方だと思いますが、この作品のように少しずらされると途端に見えなくなって緊張感が出ますね。

 あとこのシリーズ自体が百合小説と謳っているだけに、読者もパブリックイメージとしての百合小説を思い浮かべて読むだろうに、そこをあえて裏切るかのように変化球を投げていく、その大胆さはさすがだな、青崎さんらしいなと。

織守: めちゃくちゃ青崎さんって感じですよね。今回初登場だった(木爾)チレンさんの作品も、今の時代の女の子とかアイドルのリアリティを感じる、いい百合でしたね。冒頭と終わり方の温度差もよくて。

書店、読者へのメッセージ

織守: 前作の『彼女。』を楽しんでいただけた方にとっても期待を裏切らない、期待を超えてくるアンソロジーになっていますので、ぜひ多くの読者の皆さんに届けてほしいですね。

円居: 今回は前作以上に書店で並んだときに目を引く表紙で、書店店頭に並ぶのがとても楽しみ。もちろん内容にも自信がありますが、皆さんの目に留まり、手に取ってもらいやすい本だと思います。


織守きょうや(おりがみ・きょうや)
 1980年ロンドン生まれ。2013年『霊感検定』でデビュー。15年「記憶屋」で第22回日本ホラー小説大賞読者賞を受賞。同作に始まる〈記憶屋〉シリーズは累計60万部を突破している。21年『花束は毒』が第5回未来屋小説大賞に選ばれる。他の作品に『黒野葉月は鳥籠で眠らない』『響野怪談』『花村遠野の恋と故意』『幻視者の曇り空』『学園の魔王様と村人Aの事件簿』『悲鳴だけ聞こえない』『彼女はそこにいる』『隣人を疑うなかれ』『キスに煙』など多数。

円居挽(まどい・ばん)
 1983年奈良県生まれ。京都大学推理小説研究会出身。2009年『丸太町ルヴォワール』(講談社BOX)で単著デビュー。著書に「ルヴォワール」シリーズ、「シャーロック・ノート」シリーズ、「京都なぞとき四季報」シリーズ、「キングレオ」シリーズ、『翻る虚月館の告解 虚月館殺人事件』『惑う鳴鳳荘の考察 鳴鳳荘殺人事件』などがある。

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