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インタビュー

『たんぽぽライオンのゆめ』(化学同人)/たなかようこさんに聞く

文字のない、モノクロームの世界
小さくも大きい、無限に広がる命を描く

 

 アメリカのアート界で評判を呼び、その後、絵本の挿絵画家として、海外を中心に活躍するたなかようこさん。昨年2月にアメリカで刊行された『たんぽぽライオンのゆめ』(原題『DANDELION’S DREAM』)が、4月上旬に化学同人から発売される。文字はなく、モノクロームのグラデーションとライオンのたてがみの映えるような黄色とのコントラスト、そのサイレント映画のような独特な世界観が読者を引きつける作品だ。(聞き手 山口高範)

幼いころから絵を描くことが好きだった、たなかさん。しかしアートの道を、断念したこともあるという。

 絵の素養があった母の影響もあり、幼少のころからとにかく絵を描くことが好きな子どもでした。そんな私を見て、母は、幼稚園の「海は青く塗りましょう、お日様は赤く塗りましょう」といったお決まりごとを嫌って、あえて私を幼稚園に通わせず、家で教育をしました。絵を描くのはその中心で、母が料理やお菓子を作るその同じテーブルでたくさんの絵を描いては、夜遅くに帰宅した父親に採点してもらうその繰り返しの日々は、今でも心が温かくなる思い出です。
 高校生になり、日本の美大への進学を考えていましたが、父が他界し、経済的な理由から、美大への進学はあきらめることに。代わりに総合大学に進学し、一般企業に就職もしました。しかしながらアートの世界に身を置くことをあきらめ切れず、多くの人との出会いや運命の巡り合わせで、アメリカの美大で絵画を学ぶ機会を得ることができました。17歳で絵をあきらめた私にとって、それはとても幸運で、このうえなく幸せなことでした。
 この頃のアメリカは景気が良かったということもあり、いくつかのギャラリーでたくさんの絵を売っていただきました。その売り上げと奨学金とで学費と生活費をまかない、卒業を目前にした頃、今の出版エージェントの方に絵本の挿絵の依頼を受けたのがきっかけで、挿絵画家として活動するようになりました。卒業後、夫(美大で知り合い結婚)の仕事の都合からバンコク、ロンドンに移住し、その間も引き続き挿絵画家として、たくさんの良い仕事に巡り合うことができました。

言葉を必要としない世界

挿絵画家として活躍する一方、自分の作品を創作できないことに、フラストレーションを感じていたという。

 挿絵の活動が大半を占める中、自分自身の創作ができない状態が長く続きました。まるで自分がなくなってしまったような感覚にとらわれ、フラストレーションを強く感じるようになったんです。それで自分の作品をもう一度創ろうとしたのですが、ロンドンの自宅には大きな絵を描くスペースはなく、思いついたのは絵本のフォーマットを使って、自分のアートを創ってみようという事でした。それが結果としてこの『たんぽぽライオンのゆめ』につながったわけです。
 最初にこの話を書いた際、英語で1000ワード越えの長い物語でした。当時から参加している絵本作家さんのグループでその作品を見せたところ「あなたは小説を書きたいの?」「含まれるメッセージが二つあるように思う」など、物語や文章についてのアドバイスをもらい、言葉をどんどん削って行きました。同時にスケッチ画も進め、ほぼ形づいたところでどうしても「自分らしくない何かがある」と感じました。そしてある夜、じっと絵を眺めるうちに「言葉が絵を説明してしまっている」ことに気づいたんです。どんな言葉を使っても、絵を邪魔してしまっている、と。
 そこで思い切って、言葉をなくしてみたところ、その瞬間「やっと自分の作品だ!」という確信を感じました。今でもその夜のことは鮮明に覚えています。
 その後、2020年2月にアメリカで出版することになり、化学同人の方とお会いしたのは、同じ年の9月のことです。この作品のことを深く理解していただいて、絵本のあり方やどういった作品を紹介していきたいかなどを含め、意味深い素晴らしいミーティングの時間を過ごさせていただきました。今回こちらの出版社から本を出させていただくことは、本当に幸せなことだと実感しています。

小さい生命が持つ強さ

本作はライオンとダンデライオン(たんぽぽの英名)をモチーフにしている。絵本の王道ともいえるライオンをなぜ起用したのか。

 実はオスライオンは、メスライオンに狩りをさせたり、絶滅の危機にある種も多く、意外にも勇敢でたくましいと言い切れない部分があります。一方、たんぽぽは深く根を張り、コンクリートのすき間からでも、踏みつけられても花を咲かす。さらに遥か遠くに種を飛ばし、また花を咲かせる。両者のその対比が面白くて。
 たんぽぽの種のように小さいものでも、人間や宇宙を超える生命が宿っていて、それがいかに大きい存在か。私は「強く見えるものが強いわけではない。不完全で小さくみえるものも皆、実はとても大きな強さを内に備えている」ということを信じたい。ロンドンに移った頃、自分の思うような創作活動が出来ず、自身の小ささを感じていたこともあって、当時の自分を投影している部分も、もしかしたらあるかもしれないですね。
 一方、ライオンは絵本の世界では頻繁に使われるモチーフで、しかも文章もなければ、色彩もモノクロに黄色だけ。マーケティングの立場にとっては頭を悩まされる絵本だと思います。けれども目先の売れやすさよりも本当に良いと信じるものを作りたい。その辺りの頑固さは、幼稚園に通わせず自分で教育しようとした母譲りかもしれません。またそのような本でもあるのに関わらず、出版を決めてくださった化学同人さんには心から感謝しています。

特殊な技法で創作

繊細なモノクロのグラデーションで、独特の世界観を演出する本作。どんな技法で描かれているのか。

 まずチャコールスティックをサンドペーパーでこすって、粉状にします。それを専用のスウェードに付けて、画用紙に優しく撫でていく作業をします。そうすると独特の美しいグラデーションができるんです。さらに塗った箇所を紙に定着させるために専用のスプレーをかけ、さらにまた同じ作業を繰り返す。その繰り返しの作業によって、濃淡をつけていきます。


▲チャコールスティック

 一方、白く残したい箇所は、マスキングシートや切り絵を画用紙の上に貼り、最後にそれをはがすと、きれいに白い部分が浮かび上がります。


▲マスキングシートをはがすと白い部分が綺麗に浮かび上がる

 非常に気の遠くなる手法で、実際にこの塗る作業だけで、4カ月間の歳月を要しました。これだけの手間と時間をかけて創作したのは、この物語やテーマが、色を必要とせず、この技法が合っていたからです。私はペインティングが専門なので、おそらくこの技法で絵本を仕上げることはもうないと思いますが、大きな一枚絵は描いてみたいという思いはありますね。


▲専用のスウェードなど、本作で使用した画材用品


▲黄色の箇所のみ、デジタルで制作

表現者として「生きる」

生きることと創作することは切り離せないと、たなかさんは言う。彼女にとって、「生きる」ということはどういうことなのか。

 アートを生業とする以上、生きることと創作することは切っても切り離せません。自分自身が正直に誠実に生きることで、初めて世に送り出す作品に対しても正直であり、誠実でいられる。それはあらゆる表現者がそうであると思います。
 アートの表現というのは、自身の中身をさらけ出すことです。それがどんなものであっても、誰かが守ってくれるわけでもなく、逃げ場もないわけです。他人に受け入れられないこともあるし、制作の過程ではつらく大変なこともあります。もっと要領よく生きることが出来るかも、とも思う。でも真摯に絵を描いている時、制作をしている時、自分の奥深くの何かが「これで良いのだ」と頷いている。自分自身に正直に誠実であることで、唯一無二の作品が生まれ、高いレベルの芸術に育つのだと信じ、自身そうありたいと思っています。そうして創作した自分の作品に対して責任を持って生きていくことが、表現者が表現者として生きる、ということだと思うのです。


34㌻/本体1900円

たなかようこ

 日本の大学を卒業・就職後、アートを学ぶため渡米。カリフォルニア州Art Center College of Design卒業後、15年間に渡りアメリカの児童書の挿絵を手がける。『たんぽぽライオンのゆめ』は、自身で話と絵を手掛けた初の絵本で、2021年度のケイト・グリーナウェイ賞にノミネートされている。スイス人の夫と、タイで保護した三つ子の猫達とともにロンドン在住。敬愛するアーティストはジャン・コクトー。

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