東京創元社は10月27日、東京・飯田橋のホテルメトロポリタン エドモントで、「第33回鮎川哲也賞」と今回が初となる「第1回創元ミステリ短編賞」の贈呈式を行った。鮎川哲也賞は、岡本好貴さんの『北海は死に満ちて』(刊行時、『帆船軍艦の殺人』に改題)が、同・優秀賞には小松立人さんの『そして誰もいなくなるのか』が選出された。
創元ミステリ短編賞には、小倉千明さんの『嘘つきたちへ』と水見はがねさんの『朝からブルマンの男』が、それぞれ受賞作として選ばれた。
鮎川哲也賞の選考委員・東川篤哉さんが選評を述べた。候補の5作は「いずれもレベルが高く、非常に楽しい選考だった」とし、候補作に選出されて5回目となる今回で晴れて受賞となった岡本さんについて、「5回も候補に挙がるのはすごい」としながら、「候補作5作の中でいちばんレベルが高く、これぞ本格ミステリー」だったと高く評価した。
受賞者の岡本さんは、自分は「ゲームばかりしていて、ほとんど小説を読んでこなかった」が、20歳のときに伊坂幸太郎さんの『オーデュボンの祈り』に出会ったと話し、今後の目標は、「小説をほとんど読んだことのない人にも面白いと思ってもらえる作品を書きたい」と声を弾ませた。また、小説のデザイナー、イラストレーターや関係者への謝辞を述べた。
小松さんの受賞作『そして誰もいなくなるのか』は現在改稿中で、2024年に刊行予定だ。
新人賞らしい個性突き抜けた作品
ミステリ短編賞の選評は、選考委員・辻堂ゆめさんが行った。候補作7作について3人の選考委員で意見が割れ、「とても難しい選考となった」と明かした。小倉さんの作品については、「3人の会話や故郷への郷愁を誘うような筆致が読んでいて楽しかった」とし、「非常に綱渡りなトリックを使いつつ、読者を騙すための道具にならずにフェアなものとして成立している」と受賞理由を語った。
水見さんの作品については「冒頭からの勢いが衰えることなく、またミステリー的な話の運びだけでなく、ストーリーの展開も『おっ!』と思わせるものがあった」とし、「ページをめくる手が止まらなかった」と評価した。2作とも「新人賞らしい、個性の突き抜けたいい作品だった」と結んだ。
受賞した小倉さんは学生時代からミステリーが好きで「人をあっと驚かせるような作品を書いてみたかった」と話し、「選んでいただいたことを、良かったと思ってもらえるように頑張りたい」と東京創元社と選考委員への謝辞を述べた。
水見さんは「両親の影響で推理小説が大好きな子どもだった」と話し、「就職後、読む機会が減っていたが、退職を機に再びミステリーに触れるようになり、創作活動を始めた」とし、「自分の書くものでミステリーのファンを一人でも多く増やせたら」と関係者へのお礼とともに述べた。
鮎川哲也賞にはコナン・ドイル像(正賞)と賞金として印税全額が、ミステリ短編賞には、懐中時計(正賞)と賞金30万円が授与された。
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