国内の出版市場が冷え込む一方で、海外でマンガをはじめとした日本出版コンテンツへの需要が高まっている。特にアメリカではコロナ禍の巣籠需要で日本マンガの市場が拡大して以来、その勢いが続いている。さらに、人気はマンガだけにとどまらず、小説などにも拡大。動画配信や動画SNSによってそのブームは世界に拡大している。その状況について、世界各地に店舗を展開する紀伊國屋書店で海外事業を担当する森啓次郎副社長に聞くとともに、電子書籍取次や翻訳サービス、縦スクロール化などのサービスで多くの作品を海外に販売する体制を整えているパピレスの事業を紹介する。
日本マンガの客層が拡大
紀伊國屋書店はアメリカと、台湾を含む東南アジア、オセアニア、中東に42店舗を展開。このうち市場が大きいアメリカで21店舗を運営する。これら店舗の顧客は現地の人々が中心だか、日本出版物の展開にも力を入れてきた。
そんな同社で長年、海外事業を担当してきた森副社長は、「ここ数年、アメリカで日本マンガの市場が広がっている」と述べる。
動画配信サイトでアニメの配信が増えたことによるインパクトが大きいという。これまでも日本マンガは売れていたが、『呪術廻戦』『スパイファミリー』『チェンソーマン』といった人気作品は、アメリカで定評のある出版専門誌『パブリッシャーズ・ウィークリー』の全米総合ベストセラートップ10に入るといった、これまでなかった売れ行きを示している。
「市場が広がるのに伴って客層も広がった」と森副社長。紀伊國屋書店の海外店舗には、これまでも日本コンテンツのファンが多く来店していたが、動画配信サイトでアニメを見て新たに作品のファンになったファミリー層が購入して売上が伸びているという。
また、アメリカで流行ったものは世界中に広がる。同社の主要店舗があるシンガポール、マレーシア、タイ、UAE、オーストラリアでも、アメリカと同様の作品が人気になる傾向があるという。
こうした売れ行き良好作品は、同社に限らず各国の書店チェーンと商品の取り合いにもなるため、一時は「棚がガラガラになるほど需要が逼迫した」そうだ。
『人間失格』もアニメ化でベストセラー
こうしたマンガの人気作品以外でも、日本の小説なども売れている。最近、太宰治の『人間失格』が「文豪ストレイドッグス」でアニメ化されたことで原作がベストセラーになっている。
「以前、海外で売れる日本の小説は村上春樹作品一色の時代もあったが、いまは川上未映子さん、村田沙耶香さん、多和田葉子さん、吉本ばななさんといった現代作家の作品が、文学のセクションでいつも売れ筋になっている」という。
アメリカの出版社クローバープレスが電子書籍で出した宇山佳佑『桜のような僕の恋人』が、動画配信サービスのネットフリックスでドラマ化され人気になったことで、紙版の書籍も出て売れたというケースもある。
「電子版が先行しても人気があれば紙版も売れ、派生する関連グッズも売れる。電子版先行のパターンはこれから増えてくると思う」と森副社長は新たな動きも歓迎する。
ミリオンセラーの火付け役“BookTok”
アメリカで本の売れ行きに大きな影響を及ぼしているのがBookTok(ブックトック)と呼ばれるTikTokでの作品紹介だ。「アメリカの店舗では、ニューヨークタイムスのベストセラーリストに入った作品の売れ行きよりも、ブックトックで紹介された本の回転が良いほど」だという。
世界的なミリオンセラーの多くもブックトックで紹介された作品で、必ずしも新刊に限られない。しかも、アメリカで紹介されれば世界中の英語読者に広がる。
「ヨーロッパに毎年行っているが、主要書店に並んでいるもの見ると、トレンドは同じだと感じる」(森副社長)。動画配信や動画SNSでの拡散ならではの現象といえるだろう。
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