出版情報をすべての人に

BookLinkニュース

連続テレビ小説「あんぱん」放送開始 やなせたかし氏の人柄と作品の魅力

写真提供:やなせスタジオ

 「アンパンマン」の生みの親やなせたかし氏の妻・暢(のぶ)氏を主人公とした連続テレビ小説「あんぱん」(NHK)が3月31日に放送を開始した。自分が幼いころであれ、自身の子どもに対してであれ、多くの人が人生のある時期を「アンパンマン」とともに過ごすことだろう。
 しかしその生みの親であるやなせ氏自身のことを、よく知らないという人の方が多いのではないだろうか。「アンパンマン」だけではなく、やなせ氏の絵本作品や自伝などを数多く刊行する出版社・フレーベル館で、「アンパンマン」などの編集を担当した近藤かほるさん・小池沙知さん・上総糸恵さんに、やなせ氏の人柄やエピソードなどについて話を聞いた。【山口高範】


―やなせ先生はどのような方でしたか

小池:「アンパンマン」のような方です。真面目で優しく、ご高齢とは思えないほどパワフルで、人に喜んでもらうことがなによりも好きな方でした。仕事を依頼すると、口では嫌がったり、できないとおっしゃったりするのですが、その後すぐに取りかかってくださり、締切より早く仕上げてくださることがほとんどでした。漫画家として売れなかったころ、テレビやラジオの脚本や舞台美術など、さまざまなお仕事を引き受けていたため、「困ったときのやなせさん」と呼ばれていたと先生自身が語られていますが、まさに「やなせ先生はきっと助けてくれる」という安心感がありました。

―やなせ先生とのエピソードについてお聞かせください

上総:『やなせたかし大全』という先生の多岐にわたる活動をまとめた作品集のインタビューに伺った際、やなせ先生は90代でしたが、膨大なご自身のエピソードを詳細に覚えていらしてびっくりしました。弊社刊行の『人生なんて夢だけど』や「オイドル絵っせい」シリーズなどたくさんの自伝を書かれていますが、やなせ先生の記憶力には驚かされます。やなせ先生はエンターテイナーの一面もあり、先生自身が主催したパーティーやコンサートで作詞作曲された歌を披露することもありました。仕事場でも、「新曲を作ったんだ」と振り付きで歌ってくださることもありました。

―やなせ先生の作品の魅力はどういったところにあるとお考えですか

近藤:まず、やなせ先生ならではのメッセージが込められていることかと思います。ご両親との別れ、戦争での苦しさ、漫画家としての焦り……先生が体験されてきたこと、そこから感じられたことが作品に活かされています。それが読者の心に響くのではないでしょうか。

小池:やなせ先生は、子ども向けだからとレベルを下げるのではなく、ご自身の考えをはっきり伝えるようにされていました。「アンパンマン」には、「正義とはなにか。傷つくことなしに正義は行えない」というメッセージが込められています。アンパンマンのマーチも「なんのために生まれて なにをして生きるのか」と、人生の核心をついた一見難しい歌詞になっています。子どもに媚びることなく、対等に向き合おうとするやなせ先生の姿勢とその信念が、子どもたちの心を動かすのだと思っています。

上総:漫画家、イラストレーター、デザイナーと多彩な仕事をされていたからこそ、絵の作風、タッチもさまざまです。作品ごとに違った楽しみ方ができるのも魅力です。

―作品を編集された際に心掛けていたことはありますか

上総:子どもと対等に向き合って考えられた作品の中には、絵本でも、難しいと思われることばを使われていたり、哀しい結末をむかえたりするものも多くあります。児童書の編集をしていると、どうしても対象年齢を意識してしまうので、その年齢の子どもに分かりやすい表現になるようにチェックをしがちになります。やなせ先生の作品では、一度年齢の垣根を取り払って確認をするように心掛けていました。また、詩人としてもご活躍をされていたので、ことばの表現や、句読点の一つずつに意味があるのでは、と考えながら作業をしていました。

―やなせ先生の作品でお気に入りがあれば教えてください

近藤:『やさしいライオン』です。やなせ先生の絵本作品の中では外せない1冊です。フレーベル館から、たくさんの絵本を描いていただくきっかけにもなりました。血のつながりではなく種族を超えた、離れていても変わらない愛の深さを感じられる内容で、やなせ先生らしいメッセージが込められた絵本です。この作品は月刊絵本「キンダーおはなしえほん」1969年5月号で発表し、1975年に市販化されました。現在、お楽しみいただいているピンクの表紙の絵本は市販版になり、1975年の刊行から2025年で50周年を迎えました。現在もたくさんの方々に愛されていると感じています。

―「あんぱん」についての感想をお聞かせください

近藤:やなせ先生と奥さまの暢さんをモデルにしたフィクション、ということで、ふたりが幼馴染という思いもよらない設定に。新鮮な気持ちで毎日楽しみに見ています。ところどころに交じる、聞き覚えのあるセリフや登場人物の名前には楽しく反応してしまいますが、嵩少年が弟といっしょに母親を田んぼの畦道で見送る『やなせたかし おとうとものがたり』を彷彿とさせるシーンは、涙無くしては見られませんでした。「あんぱん」の嵩とのぶが『あんぱんまん』にたどりつくまでの道のりを、編集部もいっしょに見届けたいと思っています。

―書店員、読者の方へのメッセージをお願いします

小池:5月16日にやなせ先生の初の伝記絵本『やなせたかし物語 ~なんのために生まれて なにをして生きるのか~』が発売されます。やなせ先生の94年にわたる生涯が、32ページの絵本でわかります!

上総:作者のやなせ先生がどんな人だったか、何を考えて生きてきたかがわかってから、改めて先生の作品を読むと、いろいろな発見があると思います。その発見も含めて、やなせ先生の作品を楽しんでいただけると幸いです。

『やなせたかし物語 なんのために生まれて なにをして生きるのか』(フレーベル館)

コメント

この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA


【OFFICIAL PARTNER】

最新記事

文化通信社からのお知らせ

【BookLink PRO】一般公開

販促情報ランキング(公開30日以内)

今後のイベント

注文書・販促情報チラシ

関連記事

TOP