大垣書店グループは11月24日、森ビルが同日に開業した東京・港区の大型複合施設「麻布台ヒルズ」内に「大垣書店 麻布台ヒルズ店」をオープンした。グループ50店舗目で東京都内に初進出となる同店は、麻布台ヒルズのタワープラザ4階に約300坪で展開。カフェやアートギャラリーも併設している。店長は赤井良隆氏が務める。
麻布台ヒルズのエリア内には学校、病院、文化施設のほかオフィス、住宅、ショップ、レストランなどが整備される。オフィスで働く人と、住宅に入居する人らをあわせると2万人を超える見込みだという。また、商業施設には海外の高級ブランドを含むアパレルショップや飲食店など約150の店舗が入る。
その一つとして入居した大垣書店の麻布台ヒルズ店は、こだわりの選書に加えて、店内に設けられた4つのギャラリースペース、カフェ「スローページ(Slow page)」を併設している。また、店内には音楽ライブができるようなイベントスペース、著者イベントなどが開ける個室など、本を通じた新たな発見や交流を生み出す店舗となっている。
開業前の22日に出版社らを招いたオープニングセレモニーで、大垣書店グループの大垣守弘代表取締役があいさつ。東京での出店に至った経緯などを紹介。「私たちは京都などで各地域に合わせ、地元の人たちの要望に応え、各地ごとに違うニーズをとらえながら書店づくりをしてきた。その経験を生かしてほしいということで話を進めてきた」と明かした。
そのうえで、「都内そして新しい『街』でどのような店づくりができるか。本当に試行錯誤となるが、これからもどういった品ぞろえ、商品展開をすればいいかなど、ぜひ皆さんからアドバイスをいただきたい」と呼びかけた。
オープニングセレモニーでの大垣代表取締役、大垣書店・大垣全央社長、来賓のトーハン・近藤敏貴社長、河出書房新社・小野寺優社長のあいさつ要旨は次の通り。
大垣守弘代表取締役
麻布台ヒルズは森ビルが36年の年月をかけてこの地域を開発された。ここに私たち大垣書店が出店できたのも、いろいろなご縁があったからこそだ。東京都内でこのような新しい街に出店するとは夢にも思っていなかった。
ここは新しい街全体をつくる計画で、約8・1㌶もの広大な計画区域には学校や医療施設、ショップ、レストラン、住居、オフィスなどが設けられ、人々の営みがシームレスでつながる。そういった街の住人に本という文化を提供してほしいという話だった。私たちは京都を中心に各地域に合わせ、街の人たちの要望に応え、それぞれ違うニーズをとらえながら店づくりをしてきた。その経験を生かしてほしいということで話を進めてきた。
森ビルの関係者が京都本店や堀川新文化ビルヂングをご存知で、それらを融合したような店舗をつくってほしいということで、今回はテイストも品ぞろえもこれまでと違ったものになった。ここにお集まりいただいた出版社の皆さんにはぜひ、これからもどういった形の品ぞろえ、商品展開をすればいいのかアドバイスをいただきたい。
東京に来てどんなことができるのか不安で一杯だが、長男、次男、三男そして赤井良隆店長をはじめメンバーにも恵まれており、少しずつ勉強しながら進めさせていただいている。初めてとなる東京都内でのお店で本当に試行錯誤だが、店内には4つのギャラリースペース、カフェも併設している。音楽ライブができるようなイベントスペース、著者イベントなどが開ける個室もある。
この新しい街には働く人、住む人などを合わせると2万人を超えるという。また、日本初の大規模なベンチャーキャピタル(VC)の集積拠点「Tokyo Venture Capital Hub」もできる。資産運用、お金を稼ぐことに一生懸命働いている人たちがオフィスに集まるので、彼らがホッとするような憩いの場所と、新しいことを発想できる思いがけない出会い、新しいビジネスが発見できるような店づくりも目指している。これからもぜひご指導、ご支援をお願いしたい。
トーハン・近藤社長「素晴らしいチャレンジを全力で応援」
ある記事で「この店が成功しなければ書店の未来はない。不退転の決意でやりきる」とおっしゃっていたのを読んだ。もしかすると、これだけの商業施設で、これだけの人が集まる新しい場所の中に「書店」がない可能性もあった。いつの間にか私たちは、それを当たり前のように受け入れるようになっているが、それではだめだ。だから大垣書店のチャレンジは本当に素晴らしいと思うし、本気で応援しなければならないと考えている。
大垣書店の社是には『地域に必要とされる書店であり続けよう』とある。しかし、この新しい街ではまだ「地域」とは誰か正直あまり想像できない。それは地元京都のお客さんでもないし、大きなモールに出店する書店でもない。全く別のお客さまに必要とされるお店をつくらなければいけない。とてもチャレンジングなことだが、今それが実現されていると感じている。
このお店には非常にハイソサエティで、おそらく教養もあり、お金持ちで、外国人の方もたくさん来店されるだろう。そういった「地域」の人たちに向けて素晴らしいお店を作られた。日本はもっとそういった人たちを相手に商売をして、文化を作っていかなければならないと考えている。そういう意味で、この店が成功されることを心より祈っている。
河出書房新社・小野寺社長
これほど華やかな書店の開店はいつ以来だろうか。大垣書店グループの50店舗目、都内初出店ということで、なみなみならぬ気合いを感じるし、お店を拝見して私たちもうれしくなる。
今、書店の閉店が相次いでいる。全国で「書店ゼロ」の自治体も増えている。それはつまり、私たち出版社が精魂込めてつくった本と読者が出会う場所が日々失われているということだ。そのような中で、大垣書店がこのような場所に、こんな本格的なお店をオープンしていただけることは、私たち出版社にとっても大変な喜びであり、そして希望だ。
大垣さんはこれまで、どれだけ店舗を増やされても、一貫して本の価値を信じ、それを一人でも多くのお客さまに伝えようと努力なさっている。私たち出版社もその思いに応えて、この麻布台ヒルズ店で一人でも多くのお客さまが新しい本から喜びを見出し、かけがえのない一冊との幸せな出会いができるよう、全力で応援していきたい。
近藤社長が言うように、ここにどういう「地域」が生まれてくるのか。麻布台ヒルズ店がこの地域にとって、そして東京都や港区の人々にとって大切な文化拠点として育ち、大成功をおさめられることを祈念している。
大垣書店・大垣全央社長
先日、ある大学の偉い先生に「毎日苦しくて本屋は大変です」と話したら、「苦しいと言うばかりでなく、それを楽しむことが大事。これまで築いてきたしっかりとした土台があるのだから、思い切って、楽しんでやってみること。そしたら違った結果が出る」と教えていただいた。確かにそうかと思う。
この麻布台ヒルズ店もそうだが、社員や働いている人を信用して、「いつもありがとう」「これから一緒に頑張っていこう」という思いを伝えることが大事だとあらためて考えている。
この業界ではあまり良い話を聞かないが、この出版・書店業界の中に大垣書店がある、出版・書店業界のために大垣書店があると思われるように、これからもしっかりとやっていきたい。この新店舗はスタートしたばかりで、これからまだまだ成長するお店だ。ぜひご支援いただきたいし、それと同時に皆さんやお客さんに応援されるお店、会社になっていきたい。
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