新潮文芸振興会は、第37回三島由紀夫賞に大田ステファニー歓人『みどりいせき』(集英社)、第37回山本周五郎賞に青崎有吾『地雷グリコ』(KADOKAWA)を選出。また、川端康成記念会は第48回川端康成文学賞に町屋良平「私の批評」(「文藝」2023年春季号)を選出。併せて6月21日に贈呈式を開催した。
新潮文芸振興会・佐藤隆信理事長は、三島賞・山本賞を受賞した2作を「とてもパワフル」とし、出版物の売れ行きが低迷している現状にもふれて「厳しい時ほど出版の本分に立ち返って人の心を打つ作品を創っていきたい」と述べた。
続いて、中村文則・三島賞選考委員が「大型新人に出会えてすごく嬉しい気持ちになった。こういう確かな力がある人に賞をお渡しすることで背中を押すことができた」と文学賞の意義と喜びを口にした。
その言葉を受け、大田氏は「自分が書いたものを憧れていた人に読んでもらえた」と笑みを浮かべた。現在は子どもが生まれたばかりで夫婦で育児にいそしみ、「妻と一緒に暮らしてめっちゃときめいているんで、作家辞めてなければおすそ分けできたらなって感じ」と愛あふれる日常を伺わせた。
続いて、今野敏・山本賞選考委員は、最終候補4作は「傾向がバラバラでなおかつそれぞれに見所がある」なか、受賞作は「ゲームの理論だけでミステリーを構築していくチャレンジ精神だけでなく、全体を通すと見事な青春小説」と絶賛した。
青崎氏自身はゲームを素材とした小説を書いたものの自分ではゲームはしないと説明し、「古典的なプロセスや論理が好きで、“フェアな世界に対する憧れ”がある。フェアな世界への願いを込めて書いていきたい」とした。
また辻原登・川端賞選考委員は、本作がとっつきにくいし読みにくいと感じたことを告白。しかし「始めから終わりまで声に出して読んでみると、実にわかりやすい腑に落ちる小説」だと選考委員の一人・村田喜代子氏に伝えたところ、村田氏も本作を音読。その結果、全員一致での授賞となったという。
それに対し、町屋氏は「私の作品とここまで向き合って、誠実な言葉をいただけたということが創作の励みになる」と謝意を示した。また川端作品や大江健三郎作品にふれ、文庫あるいはデジタル化によって若い人たちにも手に取りやすい形で「一冊の本として形のあるものを残してほしい。自分も全力を投じて頑張ることが大きな歴史を作っていくのではないか」と語った。
そして最後に登壇した川端康成記念会・川端あかり代表理事は、中国ではパブリックドメインとなって各社から川端作品が出版されたこと、トルクメニスタンからは銅像建立の申し出があったことなど、海外での受容について紹介。本という形で広く読まれ続けることの大切さに思いをはせ、贈呈式を締めくくった。
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