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【光和コンピューター】第32回セミナー開催 書店によるDXの運用とその効果

多田取締役

AI返品・発注システム、ポイント会員
アプリ、出版社による自動補充の事例報告

 光和コンピューター(東京・千代田区)は10月16日、東京・千代田区の出版クラブビルで「第32回光和セミナー―書店のDXへの取り組み報告―」を開催した。セミナーには、オンライン視聴をあわせて94社151人(出版社56社79人、書店22社37人、出版関係者16社35人)が参加。はじめに、光和コンピューター・多田元晴取締役が登壇し、「厳しい書店不況の中、DXへの取り組みと効果を知ることで書店様に元気になっていただきたい」とセミナー開催の思いを表した。続いて、AIを活用した自動在庫最適化・発注システム「BOOKS-TECH.COM」、ポイント会員アプリ「BookStore」、自動補充システム「たなづくり」について、各社の担当者が登壇し、システムの運用とその効果について説明した。

書店MDシステム「BOOKS-TECH.COM」活用
補充仕入れと返品推奨による効果

 第1セッションでは、ACES・與島仙太郎取締役/COOが登壇。同社は業界で横断的に使える、仕入れ・販売最適化AIシステム「BOOKS-TECH.COM」を開発。今井書店を検証の場としてシステムの運営を行い、①追加仕入れ最適化、②返品最適化、③トップダウン仕入れ最適化―それぞれの効果について説明した。

 「BOOKS-TECH.COM」は、店舗ごとの理想の在庫構成比を人が設定したうえで、AIによって仕入れ・返品を補助・代替し理想の在庫構成比を維持し続けていくシステム。売上・在庫・返品・仕入れなどの経営情報がコックピット形式で表示され、エクセルなどを使わずプロダクト画面上ですべて確認できる構成となっている。

 與島氏は「書店にとって委託販売の利益率を上げることが大きな課題でありながら、本のアイテム数が多いゆえ人手では在庫を最適化するのが難しい状況。AI導入によってこれらの問題解消を目指したい」と語った。

 ①追加仕入れについて、現状では「仕入れすぎて売れ残りが多くなってしまう」「仕入れるべき本を仕入れず機会損失してしまう」という課題があるため、売上げ推移から今後の需要を予測し、仕入れを推奨するタイトルとその冊数を毎日出力するシステムを実装した。

 今井書店における実証実験の結果、売り切れが起こる前に追加仕入れが可能となり、機会損失の削減を実現。また、在庫数ゼロの状態で追加仕入れされた商品の消化率は、従来の方法に比べ、AIによって仕入れられたもののほうが約20%高い結果となった。特にビジネス書や新書など回転が速いものに関して、より精緻な予測をして最適化することができるという。

 ②返品最適化について、返品業務においては「返品すべき本が分からない」、「探すのに時間がかかり業務の非効率化が起こっている」と認識。そこで在庫の保持優先順位をランク付けするAIを作成。また、返品作業時に返品対象の位置が特定できるシステムを構築し、返品作業全体の業務効率化を目指した。その結果「現場から、売上増加、回転率の向上を実感する声が上がっている」と報告した。

 最後に③トップダウン仕入れについて、どのような店舗にしたいか店ごとに考慮したうえで、ジャンル別に適正在庫数、適正SKU数を設定し、それらが満たされるように仕入れを行う機能を導入。「今年4月から今井書店全店に導入を広げており、多くの店舗において昨対比で回転率と売上が向上している」と効果について言及した。

スマホアプリ「BookStore」
マーケティング施策とその効果

與島取締役(左)と榮氏

 第2セクションでは今井書店・榮健太氏が登壇。スマホアプリ「BookStore」を活用したマーケティング施策とその効果について、今井書店での実証データをもとに講演した。

 「BookStore」は、会員カード、ポイント付与、EC、店舗の在庫確認、チャージ、プッシュ通知の機能を備えた、書店での営業活動をフルサポートする会員向けアプリ。販促用にポイントキャンペーンとクーポンキャンペーン機能を装備しており、どちらも会員ランク別など任意の対象者や、商品・冊数・金額などの条件も指定して実行できる自由度の高い設計となっている。

 今井書店で検証した結果、アプリによるポイントキャンペーン期間の売上は、キャンペーン非開催に比べ35%増加。告知期間に買い控えは3~4%あるが、告知期間とキャンペーン期間を合わせた売上も4~5%増加、粗利で1~2%増加が確認されている。クーポンキャンペーンでは、期間中の売上が47%増加。告知期間とクーポン期間を合わせた売上が4・8%増加、粗利で3・9%の増加となった。

 また、過去のプラスチックカード会員と現在のアプリ会員に対するキャンペーンを比較すると、売上影響は誤差程度にとどまったが、費用面でアプリが60・2%減少と大きな改善を実現することに成功。「アプリのプッシュ通知での集客と、キャンペーンへの意識を高く持つお客様がアプリクーポンを使ったことが要因」と分析した。

 さらに、本屋大賞の銘柄について続編との同時購入を促進するクーポンを発行することで、同時購入者が22・7%増加。クーポン配布数に対する利用率は76・9%で、クーポン発行とプッシュ通知による促進効果が見て取れた。

 購入した週の翌週以降に利用できるクーポンをプッシュ通知で配布し再訪を促す施策では、986名が再購入。月間アプリ購入者数は2・7%増加した。

 アプリ会員数についても、4月にアプリをリリース後、約6カ月で7割強の移行が完了。利便性を高く評価されている。また、非会員に比べアプリ会員の客単価が平均で18・7%増加。プラカード会員と比較しても4~4・5%の増加が確認できた。

 榮氏は「書店が自力で成長するためには、とにかく数字を徹底的に分解し、時系列で丁寧に見ていくことが大切」と強調。「それにより売上構成要素の指標を捕捉することが不可欠」とし、今井書店では会員と販売データをしっかり紐付けてツリー状にし、適時数字を見られる環境をつくっていると明かした。

 「数字の記録は日別で、見る単位は日単位、週単位、月単位の推移で見るといい。単月前年比で見がちだが、それで分かるのは業績だけなので注意」と提言し、「手段はアプリでなくともPOSデータで可能なので、現在の環境下でもトライできる。状況が変わればKPIも変わるので、まず軽い気持ちでやってみてほしい」と呼びかけた。

自動補充システム「たなづくり」の運用と成果

藤森課長(右)と堀内課長

 第3セクションでは、岩波書店・藤森崇営業部課長と堀内雄太同課長が登壇。「たなづくり」の運用と成果について報告した。

 「たなづくり」は、書店が出版社と話し合ったうえで自動発注書目を取り決め、棚の在庫がそれらの書目の設定冊数を下回ると自動で発注されるという、既刊書に特化したシステム。

 藤森氏は開発の背景について「弊社では稼働率、売上占有率ともに既刊書が高く、中でも岩波文庫や児童書などは特に高いため、棚に並ぶ既刊書をいかに安定的に売るかが生命線となる。そのため、顧客が『ほしい』と思った時にその本が棚にある状態を維持することが肝であり、棚の整備が何より重要になる」と説明した。

 堀内氏はくまざわ書店での運用結果を報告。くまざわ書店では岩波文庫は88店舗、岩波新書は140店舗で「たなづくり」を導入しており、「くまざわ書店全体の店頭売上は実質的にシステムが稼働した24年3月から8月までの半年間で、岩波文庫は昨対比で104・4%、岩波新書は111・9%となった。また、たなづくり導入店舗のうち岩波文庫は59店舗、岩波新書は96店舗で昨年より売上が増加した」と成果について語った。

 「今後は導入店舗を増やし、児童書などにもジャンルを広げ、取り組みを進化させていきたい」と締めくくった。

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