小学館と日本児童教育振興財団は11月14日、第73回「小学館児童出版文化賞」の贈呈式を東京・千代田区の如水会館で開催した。受賞したのは、最上一平さんの『じゅげむの夏』(佼成出版社) と、二人組の絵本作家であるザ・キャビンカンパニーの『ゆうやけにとけていく』(小学館)の2作品。
同賞は、児童出版文化の向上に貢献すると認められる作品および作家を顕彰するもので、2023年3月から24年2月までに発表された、絵本、童話・文学、その他(ノンフィクション・科学絵本・図鑑・事典など)の出版物を対象として選考が行われた。
『じゅげむの夏』は、筋ジストロフィーの少年を含む4人の小学4年生男子の「夏休みの冒険」をみずみずしく描いた物語。『ゆうやけにとけていく』は、沈みゆく太陽を背景に人々の生活の情景とさまざまな感情が描き出される絵本。
はじめに、あいさつに立った小学館・相賀信宏社長は「今年の受賞作は、どちらも読み終わったあとに風景が浮かぶような、臨場感のある作品」と評価した。また、小・中学生、高校生の読書量が微増傾向にあるなかで、「大人たちにもぜひ児童書を読んでいただき、その感動をお子様たちに伝えることで読書のきっかけを作ってほしい」と呼びかけた。
続いて、荒井良二審査委員が審査過程について「受賞作品はすんなりとは決まらず、しかし、さまざまな視点に気づかされた有意義な時間だった」と明かし、「最上さんの『じゅげむの夏』はどこか懐かしい、ひと夏の大事な通過儀礼の風や光のような感覚を呼び覚まし、『ゆうやけにとけていく』は大胆さと繊細さの歯車がうまくまわっていた」など、どちらも心を動かされる作品だったと総評した。
また、舘野鴻審査委員は『じゅげむの夏』について「五感にストレートに訴えてくる作品」、富安陽子審査委員は『ゆうやけにとけていく』について「絵と言葉が響き合って、ひとつの美しい世界を作り上げている稀有な絵本」と述べ、それぞれ高く評価した。
受賞者の最上さんは、「今回の作品に描いた小学校時代の夏休みというのは、誰にとっても大切な時間」と語り、自身の小学4年の夏休みの思い出として、綴っていた宿題の日記をなくしてしまい、最後の1日で一気に書き直したエピソードを交えながら受賞の喜びを表した。
ザ・キャビンカンパニーの二人は「『ゆうやけにとけていく』は悲しみの淵にいる人に寄り添い慰められるよう祈りをこめて描いたもので、賞を受けて、その思いが誰かの心に届いたのだと感じた。これからも絵本とは何かを考え続け、作り続けていきたい。」と語ったうえで、関係者への感謝を述べた。また、「今回、ともに受賞できた最上さんとは、実は賞が決まる前から一緒に本を作る準備を進行中で、来年出版する予定」と話し、会場を沸かせた。
コメント