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【寄稿】「わたしのタカラモノ」 医学書院代表取締役社長 金原俊氏 〝キューハチ〟と歩んだ電子出版の道

 古くからモノを収集する趣味のある人はいて、コレクター、趣味人、好事家、通(つう)など、彼・彼女らを表す言葉は数多くある。そんなさまざまな人々が集める品々を『わたしのタカラモノ』と題して紹介。医学書院代表取締役社長・金原俊氏に、ファン垂涎のなつかしい〝機械〟の数々について紹介していただいた。(杉江しの)


金原俊(かねはら・しゅん)氏 医学書院代表取締役社長。1954 年生まれ。80 年医学書院関連の印刷会社(学術図書印刷)に勤務、84 年医学書院の米国子会社(Igaku-Shoin Medical Publishers,Inc.)に勤務、87 年医学書院の電子出版の調査・開発に着手、93 年医学書院常務取締役、2012 年取締役副社長、18 年より代表取締役社長。日本電子出版協会副会長、日本医書出版協会理事長、自然科学書協会理事

自他ともに認める〝機械マニア〟

 私はモノを収集するのが好きな性分で、子供の頃からさまざまなモノを集めてきた。そしてそれらのほとんどが、周囲の人から見れば「それ、どうするの?」と言われるような代物ばかりだが、集めてしまうのである。こうした傾向は男性にはよく見られ、収集癖は女性よりも圧倒的に男性に多いという。

 そういえば、テレビ番組の『開運!なんでも鑑定団』に登場する依頼人はほとんどが男性である。なんでも太古に男性が狩りをして、獲物を収集していたのに起因するらしく、そのDNAが残っているから、とのことだ。

 などなど、もっともらしい言い訳はこのくらいにして、なかでも特に私がせっせと収集してしまうのが機械類である。私は自他ともに認める機械マニアで、慣れ親しんだ機械には愛着を感じ、もう出番が終わった後でも手元に置いておきたい、と思ってしまう。

非常に高価だった80年代の〝キューハチ〟

1987年に発売された「NEC PC- 9801VX41」

 ここではそうした(私にとっての)愛らしい機械たちの中から「PC-9801」というパソコンをご紹介したい。そう、あの「98(キューハチ)」である。「タカラモノ」というよりは「ジャンク」の方が適切かも知れないので、頂いたお題には合わない面もあるが、あえて「わたしのタカラモノ」として述べさせて頂く。

 正しくは「NEC PC-9801VX41」と言う。発売されたのは今を遡ること36年前の1987年6月で、当時の価格は63万円。これにモニター、プリンターの周辺機器を含めるとハードだけで100万円を超える。これにはOSであるMS-DOSもアプリケーションソフトも一切含まれないので、それらも加えると150万円程で、今の価格で言えば200万円程であろうか。当時は立派な「タカラモノ」であった。

 価格は立派だが現代のパソコンが備えるウインドウズ(のようなGUI)も、インターネットも、CD-ROMドライブもない、極めて原始的な機械で、操作するにはMS-DOSの「文法」「コマンド」などを理解する必要があった。そのため一般のビジネスで使いこなすのはほぼ無理で、実際には一部のマニアが動かして喜ぶ程度のものだった。

パソコン黎明期に発売したCD-ROM製品

医学書院初のCD-ROM製品「今日の診療CD-ROM Vol.1」と外付けのCD-ROMドライブ

 このような当時の、値段が高い割に機能の低いパソコンで稼働する、当社初のCD-ROM製品の「今日の診療CD-ROM Vol.1」を発売したのは1991年の8月のことであった。この時、どうにか秋葉原の一部のお店でパソコンは購入できたが、必須となる周辺機器の「CD-ROMドライブ」は、15万円程度でメーカーから直接購入する必要があった。ユーザーからの「秋葉原でCD-ROMドライブが買えるか」との問いに「買えません」と苦しい返答をしたのを覚えている。

 今考えると、よくもこんなパソコンの黎明期に8万5000円もする出版物を発行したものだと思う。無謀と言ってもいい。しかし、当社初のこのCD-ROM製品は生産部数を完売し、その後も現在まで32年にわたり毎年発行を継続し、今では定番のネット上のサービスとして、日本の医療現場に定着することとなった。

電子書籍の道を拓いたデジタル機器の台頭

SONY「データディスクマンDD-1」(写真:長谷川秀記)

 この頃、専門家の間では、「電子出版が普及するにはパソコンに代わる安価な専用機が必要条件で、同時にそれが十分条件だ」との意見が大勢だった。論拠として「OASYS」に代表されるワープロ専用機や、「Walkman」などの携帯音楽再生機の大成功があった。

 それらに続けと電子出版の専用機が複数台登場した。ソニーの「データディスクマン DD-1」、NECの「デジタルブックプレーヤ DB-P1」などである。ソニーのDD-1は「世界初の電子書籍専用端末」として登場し、値段も5万8000円と手の届く範囲だった。NECのDB-P1はさらに安く2万9800円で、「読書の新しいスタイルの創造」を謳い、グッドデザイン賞も獲得した。どちらもパソコンの知識など不要で、誰でも電池さえ入れればすぐに電子出版物を読むことができた。

伊達公子を起用したデジタルブックの広告(写真:長谷川秀記)
NEC「デジタルブックプレーヤ DB-P1」(写真:長谷川秀記)

ノイマン型パソコンに将来性を感じて

 それらは単体で見ればハンディで使いやすい機械ではあるものの、目的毎に複数の専用機を持ち歩いたりするのは、私にはどうも合理的と思えなかった。それより優れたパソコンが1台あれば、ワープロだってリレーショナルデータベースだってこなせて、おまけに音楽も聞けるし本も読める。その方が合理的では、との思いがあった。専門的になってしまうが、それこそがノイマン型のコンピュータの本懐、と考えていた。パソコンはその名のとおりパーソナル用で小粒だが、立派な汎用コンピュータで、素晴らしい可能性を秘めていた。

 確かに当時のパソコンは低機能かつ高価だったが、それは量産化と技術革新で克服できるものと考え、当社の電子出版はパソコンありきを前提に推し進めた。

 今、インターネットの時代を迎え、パソコンやスマホがまさにその役割を果たしているのを見ると、当時の無謀な決断は間違ってなかった、と感じる次第である。

探求心と実益を満たしてくれた相棒

 この電子出版の方向性と可能性を私に示唆してくれた「キューハチ」は、まさに私の探求心と社の実益を満たしてくれた「タカラモノ」である。

 暫く前にこのタカラモノに電源を入れた時には正しく起動し、1991年に発売した「今日の診療CD-ROM Vol.1」を見事に稼働して見せてくれた。ところが、今回、久々に電源を入れたところ、うんともすんとも言わないのである。何とも残念だが、冷静に考えれば動いても動かなくても実用にはならず、「ジャンク」に変わりはないだろう。だが、私にとっては永遠の愛らしい相棒であり、「わたしのタカラモノ」として終生大事にしていきたい。

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