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【ソウル通信】30 韓国、再販制(図書定価制)に初の「合憲」判断(白源根)

 「決定主文:この事件の審判請求を全て棄却する。」

 去る7月20日、韓国の憲法裁判所は、電子小説作家が提起した職業の自由侵害など「違憲確認審判請求」を全て棄却すると宣告した。すなわち、紙の本はもちろん、電子書籍にも図書定価制(日本の「再販制度」)適用を義務付けた現行の出版文化産業振興法が合憲だと決定した。

 これは図書定価制を規定した出版文化産業振興法が出版物の販売者などの基本権を侵害するかを判断した初めての事例として注目を集めた。司法府の最高機関である憲法裁判所の判決という象徴的な意味が非常に大きいからだ。

 出版社と書店の業界団体では直ちに歓迎声明を発表して喜んだ反面、一部の消費者団体や図書定価制反対論者たちは宣告を非難した。

長年の議論に終止符を打つ契機となるか

 今年1月12日、憲法裁判所の大審判廷では、図書定価制の賛否に関する公開弁論が開かれた。図書定価制に賛成する側(法律を執行する政府による合憲の主張)と反対する側(違憲審判を請求した電子小説作家)の主張が激しく対立した。

 それから約6カ月で下された今回の宣告で、図書の定価販売義務と価格割引制限を規定した現行の図書定価制条項に対し、裁判官全員一致の意見で「合憲」決定が下されたのだ。

 これにより、図書定価制をめぐって長期にわたり繰り広げられてきた消耗的な議論に終止符を打つ契機になることが期待される。何よりも、今年11月まで、政府の文化体育観光部(日本の文部科学省に当たる)が決める今後3年間の図書定価制政策の方向に大きな影響を与えると見られる。韓国の出版文化産業振興法は、規制の見直しのため文化体育観光部長官が3年ごとに図書定価制を再評価し、維持するかどうかを判断するからだ。

 憲法裁判所は「合憲」決定の理由として次のような点を挙げた。図書定価制が過度な価格競争による流通秩序の混乱を防止して著者と出版社を育成し、多様な書店の維持を通じて読者の図書接近権を拡大し、文化的な多様性を保護、出版産業と読書文化の好循環生態系の造成などの役割をするので出版文化産業振興法の立法目的が正当だとした。

 特に紙の出版物と相互補完関係である電子出版物に対する図書定価制適用の妥当性を認めた点が注目に値する。

 また、図書定価制の適用に伴う「消費者利益」の制限の程度が、その効果に比べて大きくないと判断した。消費者の利益を経済的利益だけではなく、多様な出版活動や書店の存立を後押しするなど「図書選択権」を増大させるという「読者の利益」に重点を置いたのだ。

 特に図書定価制を「独寡占防止装置」と見たのは卓見と言える。韓国の図書定価制は1977年に出版団体が書店団体との協約として始まって以来、80~90年代の公正取引法時代(日本のように、独占禁止法で禁ずる再販売価格維持制度の適用除外制度だった)、続いて2014年に改正された現行法によって公正取引委員会が関与できない独立した法規定が設けられるまでは、事実上、公正取引委員会などの影響で廃止の直前まで追い込まれた。

 このように波乱万丈な図書定価制の経過を反芻してみれば、「独寡占防止装置」という憲法裁判所の法理解釈は非常に痛快でさえある。

出版についての法改正はまだ必要

 図書定価制が憲法違反ではないという判決が下されたのはせめてもの救いだが、この後も関連法条項の改正努力が必要な状況には変わりがない。

 まず、出版文化産業振興法にまともな名称さえない「図書定価制」を明示し、現行の直間接割引限度(定価の15%まで)の条項を制限していかなければならない。

 該当条項によって、一般的に大型オンライン書店では10%の割引と5%のマイレージ積立(ポイント)を提供しているため、出版社はやむを得ずこれを反映して定価を決めざるを得ない。このため、15%割引をしても読者は本当の割引を受けるわけではない。これを「法定バブル価格」問題と見ることができるのだ。

 また、割引限度にオンライン書店などの送料が含まれていないという問題もある。

 昨年、公正取引委員会が談合と判断した民間の出版流通協約が空中分解したことにより、この協約も法制に反映する必要性が生じた。協約では、企業型中古書店での新刊販売期間制限(6カ月以内に発行された本は販売禁止)、第3者(カード会社)の追加割引提供制限(追加割引を15%以内に制限)、オンライン書店のイベント商品券提供の問題など、法制化が求められる事項が定められていた。

 今回の合憲の決定は、韓国の図書定価制の歴史でこれまでと一線を画す重要な事件だ。個人的なことであるのだが、筆者も憲法裁判所で図書定価制の必要性について参考人として陳述をしたためなおさらだ。

 出版市場の困難が大きくなるなか、万が一、図書定価制に「違憲」判決が下されたとすれば、その混乱ぶりは計り知れなかっただろう。今や図書定価制の強化による流通秩序の安定化を基盤に出版市場を活性化する本当の課題が韓国の出版書店界の前に置かれている。


白源根(Beak Wonkeun 本と社会研究所代表) 1995年から韓国出版業界のシンクタンク「韓国出版研究所」責任研究員、2015年に「本と社会研究所」を設立し代表に就任。文化体育観光部の定期刊行物諮問委員、出版都市文化財団実行理事、京畿道の地域書店委員長、韓国出版学会の出版政策研究会長、韓国出版文化産業振興院のウェブマガジン「出版N」編集委員、ソウル図書館ネットワーク委員長、韓国文学翻訳院「list-Books from Korea」編集諮問委員、出版評論家、日本出版学会正会員など

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