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サンマーク出版・黒川精一社長に聞く 3部署連携で営業の好循環生む 仕組みで社内コミュニケーションを活性化

 コロナ後に出版市場の低迷が続いているが、サンマーク出版は営業の体制・方法を大きく見直し、編集、プロモーションとの連動を進めることで、むしろ新刊の配本総数が増加。また、積極的に進める海外展開も売り上げに貢献し好調を維持している。昨年、代表取締役社長に就任した黒川精一氏は、これまで数々のミリオンセラーを手掛けた編集者として知られる。社長就任と同時期に1フロアの現オフィスに移転。今後は本好きを増やす取り組みにも力を入れるという。黒川社長に話を聞いた。

【星野渉】


海外展開している書籍が並ぶオフィス入り口に立つ黒川社長

営業改革で新刊部数前年比20%増

──前期の業績はいかがでしたか。

 夏以降、中野信子さんの『新版科学がつきとめた「運のいい人」』が25万部になるなどヒットに恵まれたこともあって、売上、利益とも目標を達成できました。

──いまは本が売れにくいといわれていますが。

 部数が伸びにくくなってることは間違いないと思います。なので以前と同じ営業、宣伝広告を繰り返していると規模が縮小していくという危機感があります。

 当社は編集者14人で年間の新刊点数は75点ぐらい。昨年度はこのうち4点が10万部に達しました。新刊点数と10万部を超える点数は毎年同じぐらいですが、昨年は新刊全体の初版部数の合計が前年に比べて20%以上増えました。

──どのような取り組みでそうなったのでしょうか。

 コロナ禍に突入した4年ほど前から営業体制を縮小したり、広告出稿量を減らす出版社もあったようですが、私は書店さんへの流通と広告出稿量の2つが大きなキーワードだと考えました。

 コロナ中も営業担当者を減らすことはせず、逆に数名増やして15人体制にしました。そして「営業改革」という強い言葉で営業を根本的に変えています。41歳と36歳の中堅2人を責任者に抜擢し、新刊受注や仕掛け販売の仕方を変え、1回の書店訪問でご提案するアイテム数も大幅に増やしました。

 新刊をきちっと流通させるため、基本的に取次さんの配本には頼らず、営業担当者が注文をいただいてくる指定配本の割合を増やしています。その結果、配本の95%ぐらいが指定配本になりました。その施策がうまくいって、初版部数が増えました。

 広告の出稿量も減らさず、むしろ23年度は新聞広告を出さない週がないほどまで増やしました。広告1回の効き方が弱くなっていますが、コストをコントロールしながら出稿量を増やすことで、売上のスケールがダウンしなくて済んでいます。

編集、営業、PRの連携生み出す

──新聞広告は効きにくくなっているのに増やしているのですか。

 たしかに5年前に比べたら、感覚的に新聞広告の効き方は70~60%ぐらいですが、アイテムと量を間違えなければ一定の効果はあるので、十分に選択肢に入ります。

 また、店頭展開の仕方で広告の効き方も変わるので、効きが弱くなるなら営業を強くしなければなりません。全ての部署が連携しながら改革する情熱が必要になります。

 そのために、組織的には編集部と営業部に加え「PR戦略室」を作りました。この部署は広告出稿や、メディアプロモーション、Web発信などPRを全て担当します。

 編集者によってプロモーション意識のあるなしは分かれます。最高のものを作れば売れると考える編集者もいれば、一方で最終的な出口、テレビやWebでキーになるビジュアルが見えた状態で本を作る編集者もいます。

 どちらが正解というわけではないので、その役割を1人の編集者に負わせるのではなくて、編集者と営業の媒介役としてそれを考える部署がPR戦略室です。

 この3つの部署を中心に、すべての部署が日常的に会話できる状態を作るためにもオフィスのフロアを1つにして、会話が生まれるよう設計しました。また、営業とPR戦略室を兼務する担当者を置いて常に橋渡ししています。

 私自身、以前在席した出版社で営業やプロモーションも兼務した経験から、兼務は重要だと思っています。兼務の担当者をどう配置するかによって、全体の連携がスムーズになります。部署同士の連携をどう作るかが、マネージメント的には1番大きかったと思います。

──属人的にせずに組織化するということですね。

 個人で解決することと、仕組みで解決できることがあります。「やる気を出せ」と言わなくても、仕組みで解決して進む状態が理想だと考えています。

 以前であれば根性論ですんだものが、すまなくなっています。そして、最終的に「やる気」は「好き」に勝てません。「好きになる」、「楽しくなる」を仕組みで実現できれば、全体をスケールしやすくなると考えて取り組んでいます。

編集者に「年間1冊は目玉企画」求める

──編集者にはどのようなことを求めていますか。

 編集者には少なくとも年間1冊は勝負する目玉企画を作るように話しています。プロモーションも含めて、その本を必ず売るという強い決意で作る企画です。

 編集者が目玉企画を持つことによって、営業担当が書店さんに話す内容も熱量も変わります。

 また、編集者にとっては目玉企画でも、営業担当はピンとこないことも起こりがちです。本来、目玉企画とは内容を一切説明しなくても、仮タイトルと著者を見たら営業部や書店さんがわかる企画です。

 書店さんがわからないものが読者に通じるはずがありません。いちいち説明しなきゃいけない時点で、ヒットはしにくいでしょう。パッと見て本の良さが伝わるまで、企画の段階で練り込んで作り始める。編集者としてそこが1番重要だと思います。

書店減らさぬため本好き増やす

──御社は販路として書店を重視しているようですが、その書店が全国的に減っています。何か対策などをお考えでしょうか。

 書店が減る原因は、やはり本を買わない人が増えていることが大きいのではないでしょうか。以前に比べて本を紹介するテレビ番組なども減って、本の新しい体験とか、出会う場所が減っています。

 書店さんのことを考えると、本好きを増やすことに取り組まなければなりません。本の楽しさを知ってもらい、体験してもらう努力は、まだまだできることがいっぱいあると思います。本を愛する人の数を増やすために何ができるのかが、当社がこれから進んでいく根幹になると思います。そのための事業を始めます。

 もちろん単独ではハードルが高いので、他の出版社と組んでやりたいと思っています。ただ、他社と組む前に自分たちで結果を出し、可能性を示す必要があると考えています。今春からいくつかの事業を立ち上げていく予定です。

──収益事業ですか。

 はい。収益がない事業は続かないと思います。

 また、プロモーションとして考えた場合、プロモーションは常に相手の土俵で仕事をしなければならないという課題があります。新聞書評も載せるかどうかは新聞社の判断ですし、テレビ番組もプロデューサー次第です。

 新聞は部数が落ちていますし、テレビも本を紹介する番組がどんどん減っている。これを解決するには「自分の土俵」でプロモーションができる状態を作るしかないと思います。

 その1つとして、先日「SunmarkWeb(サンマークウェブ)」という媒体を立ち上げ、自分たちで本好きが集まるコミュニティを作って、そこで本の新しい体験を伝えたり、告知したりしていく体制を整えました。

求める人材は「やりきる人」

──採用する人材にはどのようなことを求めていらっしゃいますか。

 少し前まで50人に満たなかった会社ですが、いまは総勢55人です。求める人材は「やりきる人」です。

 出版社にとって最大のポイントとなる編集者の採用は、中途採用の場合、もちろん他社でヒットを出したことは重要ですが、そのヒットがどうやって生まれたのかまで見なければなりません。そのために結構長い時間をかけて話を聞いて判断します。

 また、中途採用はモチベーションと実績、そして周りへのいい影響が重要になります。10万部を超える本をたくさん出してはいたとしても、周囲の人に悪影響を及ぼす人は難しいです。

 ファミリーさとストイックさを両立させることが、当社の文化であり強さです。先代社長の植木(宣隆氏)が社員に稲盛和夫先生の教え根を付かせ、「人として正しいことをする」、「人に優しくする」、「人を傷つける本は作らない」、「仕事はやりきる」といったシンプルな文化が浸透しています。

 私も他社にいた時に、独特の雰囲気がある会社だと思っていましたが、その文化が採用の基準にもなっています。

『コーヒーが冷めないうちに』世界で500万部に

──海外展開にも力を入れていますね。

 海外の売上比率は、昨年度で全体の6分の1ぐらいになりました。

 もともと稲盛さんの『生き方』が中国で大ヒットして、その後、コンマリさんの『人生がときめく片づけの魔法』、さらに川口俊和さんの『コーヒーが冷めないうちに』と、ヒットが途切れてないことが、刊行される国が広がり、海外事業が成長している要因だと思います。

 『コーヒーが冷めないうちに』は、シリーズで世界45~50カ国、500万部に達しました。シリーズミリオンセラーになったのは日本とイギリスとイタリアの3言語で、アメリカやフランスなども十分狙えると思います。さらにこれを1000万部にすることをミッションに動いています。

 これだけ広がっている背景には、著者の川口さんがプロモーションのため、積極的に海外へ出ていただけていることがあります。

 去年だけで何カ国も訪問していて、行けるとこは全て行くという姿勢です。こうした著者によるプロモーションは非常に助かっています。

 海外ではプロモーションの仕方などが日本とはだいぶ違いますが、本が売れたことによって知見が溜まります。ヒットは偶然もありますが、要因の半分以上は情報の蓄積によるノウハウのおかげだと思います。

 また、海外に売り込みたいと決めた企画は最初に英訳します。海外のエージェントや編集者に日本語のスクリプトを渡してもなかなか読んでもらえませんから、全訳して渡します。昨年は新刊のうち5点ぐらい英訳しました。

──海外担当は何人ですか。また、収益への貢献度はいかがですか。

 ライツの担当は2人です。1名は管理業務で、もう1人が版権を売り込む営業です。フランクフルト・ブックフェアにずいぶん長く出展していて、担当編集者もよく海外に行っています。

 売上面の貢献もさることながら、そういう本があると会社が盛り上がります。「我々は世界で戦っている!」のだと。小さな規模の出版社にとっては大きな太陽のようなものです。

 編集者は世界で売れるものを作りたいという気概を持ちますし、ライツ担当者は次に世界的ヒットを狙える本はどれかという視点で社内を見ます。他の部署の人たちもこの会社にいることが誇りになります。そこは非常に大きいですね。

「著者を勝たせる」から「会社を勝たせる」へ

黒川社長

──トップとして会社を率いていくことについてどうお考えですか。

 全責任を負うということをまざまざと感じます。ただ、編集者としての姿勢はあえて変えないようにしています。これまでは著者を守りながら勝たせていく仕事でしたが、いまはその著者がサンマーク出版という会社に変わったという感覚です。

 サンマーク出版を勝たせるために、社員の配置や会社のプロモーションなどが重要なので、オフィスを移転したり、デジタル事業にも積極的に取り組んでいます。

──ご自身での本作りは続けますか。

 年間1冊ぐらいは作ろうと思っています。去年は大﨑洋さんの『居場所。ひとりぼっちの自分を好きになる12の「しないこと」』を作りました。今年も1冊ぐらいは出したいと思っています。もちろん出す以上はミリオンセラーを狙っています。

 社内でも、とにかく大きなことをやろうということで、今年、編集部は年間2冊ミリオンを出すことを目標に掲げています。ミリオンの難易度は高くなってますけど、そういうことに挑戦しようという空気になっています。

──ありがとうございました。


くろかわ・せいいち氏略歴

 1971年東京生まれ。93年成城大学経済学部経済学科卒、同年株式会社高橋書店に入社。2005年株式会社アスコムに入社、15年6月株式会社サンマーク出版に編集長として入社、18年取締役、20年常務取締役、22年専務取締役、23年代表取締役社長に就任。主な担当書籍は『どんなに体がかたい人でもベターッと開脚できるようになるすごい方法』(16年、100万部)、『ゼロトレ』(18年、86万部)など。

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