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早川書房は7月23日、コミックサイト「ハヤコミ」をスタートした。国内小説のコミカライズでは逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』、海外ミステリ・SFの名作からはアガサ・クリスティー『そして誰もいなくなった』やスタニスワフ・レム『ソラリス』などの連載が始まり、国内外で大きな注目を集めている。コミック事業の立ち上げについてハヤコミ編集長の吉田智宏氏から話を聞いた。
(鷲尾 昴)
原作の魅力を引き出し、国内・海外でコンテンツを広げる
――コミックサイト「ハヤコミ」を立ち上げた理由を教えてください。
コミック事業を始めたきっかけは、大きく二つあります。
まずコミカライズされた漫画媒体には、原作小説の魅力を引き出し、新しい読者に伝える効果が期待できます。
創業79年の早川書房はSF・ミステリ名作を出版してきた老舗の出版社ですが、漫画分野では後発です。最近では漫画作品をインターネット上に公開し、読者を獲得する電子出版サービスが広がっています。以前から“原作小説を生かすための漫画作り”を事業の核として、コミック媒体立ち上げの会議を重ねてきました。
そうした背景もあり、今回リリースしたコミックサイト「ハヤコミ」は早川書房の原作小説を読んでもらう入り口と位置付けています。
また、もう一つのきっかけは、海外での需要に応えることです。海外読者に良質なコンテンツを届けるために、漫画は大きな強みになります。
早川書房は海外との版権売買が活発で、取引先から「漫画をやらないのですか?」という声がありました。日本の漫画は海外で深く浸透していて、世界の共通言語となりつつあります。早川書房はたくさんのコンテンツを持っていながら、漫画という形で海外読者にアプローチができていませんでした。
国内と海外、双方の市場で早川書房のコンテンツを広げるために「ハヤコミ」がスタートしました。
――コミック事業の構想はいつ頃から始まったのですか。
本格的な動きは4~5年前からです。ただ、それ以前にも企画案は何度も上がっていました。コミック事業の構想は十数年前からあったのですが、当時はまだ紙媒体が主流で、今ほど電子出版が普及していませんでした。
採算性の面から足踏み状態でしたが、電子出版のコミックサイトであれば、十分に見込みが立つと判断し、コミック事業がスタートしました。
サイトの構築ではコミチのマンガSaaS「コミチ+」を導入しています。共通のログインボーナスが入る機能があり、有名なコミック出版社のマンガ読者がボーナスポイントで「ハヤコミ」に入って来てくれます。コスト面からも紙の週刊誌・月刊誌を必要としない電子出版サービスの役割は大きいです。
強みはレジェンド作品のコミカライズ
――「ハヤコミ」の特色や強みを教えてください。
なんといっても早川書房には海外展開の強みがあります。あくまで目標ですが、刊行した全コミックスを海外に輸出していきたいです。最初のマーケットとして日本の漫画市場、さらに海外市場という二つのマーケットを意識したプロモーションをかけています。
また、“ミステリの女王”として有名なアガサ・クリスティー作品やSF作家スタニスワフ・レムの『ソラリス』など名作の版権取得は、早川書房のような海外との繋がりが深い歴史ある出版社に有利となります。
ミステリとSFの二枚看板を生かし、レジェンド作品のコミカライズを展開できるのが「ハヤコミ」の大きな優位性です。
――実際に初めてみて海外市場からの反応はどうでしたか。
アガサ・クリスティーのコミカライズはすでに7カ国で版権が売れました。英語圏だけでなく、フランス、中国、ブラジルなどで売れています。
――吉田編集長は小説編集部の主任も兼任されていますが、これまでの経歴を教えてください。
早川書房に入社した1999年は翻訳部署の所属でしたが、その後に日本人作家の担当に移動し、雑誌『ミステリマガジン』の編集も兼任するようになりました。
その間に、アンソロジーやシリーズの漫画を編集する機会があり、当時から漫画に対する思いは強く抱えていました。早川書房としても、個人としても、今回のコミック事業の立ち上げは悲願でした。
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――コミック事業の体制はどうなっていますか。
事業体の中核は私を含む2人です。私がコミックの編集管理を担当し、もう1人が海外版権の担当です。海外との版権交渉だけでなく、海外原作のコミカライズでは権利者への許可取りもしてもらっています。
もちろん、2人だけで全ての業務をこなしているわけではありません。実務の部分では編集プロダクションの多大な御協力や、原作小説の編集担当者にコミカライズの内容確認など、部署横断で推進しています。
ファンとコミュニティに寄り添いながら
――読者からの反響について教えてください。
「ハヤコミ」を始めたことで、これまで縁がなかった漫画家さんがX(旧Twitter)で「早川書房のこの作品を漫画化してみたい!」と反応したり、国内だけでなく海外の読者も興味を抱いてくれているようです。
また、展示即売会イベントのコミティアに出展した際は、「原作のファンなので、ぜひコミカライズをしたい」とわざわざブースを訪ねてくれた漫画家の先生もいました。
こちらから漫画家にコミカライズを打診するケースが多く、一歩一歩を地道に進みながら、今のコミュニティを育てていく方針です。
すでにジャンルを確立しているリイド社のWebコミック誌「トーチ」、マガジンハウスのWebマンガメディア「シュロ(SHURO)」を目標にして、競うのではなくオンリーワンの漫画作品を世に送り出していきます。
――国内原作のコミカライズで一番勢いがある作品を教えてください。
2022年に本屋大賞を受賞した『同志少女よ、敵を撃て』(原作:逢坂冬馬)のコミカライズですね。「ハヤコミ」で一番PVの高い人気作品です。メディアから著者・鎌谷悠希氏への取材依頼、読者からは単行本化がいつになるかなど、問い合わせが多く寄せられています。
現状はコミカライズが中心となっていますが、今後は大ヒットした作品だけでなく、プロモーションの一環として、新人作家さんの小説をコミカライズした作品も発表できる場所にしていきたいですね。
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原作:逢坂冬馬
漫画:鎌谷悠希/監修:速水螺旋人
発売:2024年12月11日
――ありがとうございました。
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