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インタビュー

『こども聖書』(すばる舎) /鈴木秀子先生に聞く

シスターが贈る「生きる教科書」
子どもたちに伝えたい“本当の言葉”の大切さ

これまで約160点に及ぶ著作を持ち、近代文学研究を専門としながら、カトリックのシスターとしても活動する鈴木秀子先生が、12月にすばる舎から刊行した『こども聖書』。本書は、聖書を子ども向けにわかりやすく解説しただけの本ではなく、聖書の言葉を手助けに、自分を見つめ直し、具体的な行動を起こすための実践書だ。鈴木先生の話は聖書やキリスト教の話にとどまらず、読書体験がもたらす人生の在り方にまで及んだ。 (聞き手 山口高範・野中琢規)

「人生の基本」を伝える教科書


聖書が自身の生きる根底にあると話す鈴木先生。今回、子ども向けに本書を書いた意図とは。

 聖書には人間すべての本質が描かれています。でも聖書は難しいし、聖書の本なんて書こうとすると、偉い神学者の先生がいっぱいいらっしゃるから、「それは神学的には間違っている」とか、いろんな批判を受けてしまうと思うの。だからこれは聖書について書いた本ではなく、聖書の中で大事だと思う部分を取り上げて、それを実際の生活の中でどう実践していくか、実行するか、ということを書こうと思って作った本なんです。だから聖書というよりかは、「人生を生きていくうえでの基本の教科書」みたいな本だと思います。
 基本的なことを身に着けた人は、世界中どこに行っても、どんな立場になっても通用する人間になると思う。だからどんな小さなことでも、基本的なこと、当たり前のことを身に着けさせる。親がそれを手助けしてあげることが必要なんじゃないかしら。

聖書は特に日本人にとって、敷居が高く、縁遠い存在かもしれない。しかし本書は子どもだけでなく、大人からも支持されているという。

 この本は、みんなが当たり前だと思っていることでも、普段の生活で忘れてしまいがちなことをまっすぐに突いてきます。けれど、子ども向けという前提があるから、自分が怒られているとか、叱られているとか、そんな説教臭さはない。だからこそ、大人でも素直に受け入れられるような、そんな力がこの本にはあるかと思います。大人の場合、いろんな事情があるから、子どもみたいにわかりやすく謝ったりできないじゃない。子どものほうが人間の本質を表しているようなところがあるから、それに大人がはっとさせられるのかもしれないですね。この本に書かれていることは大人にとっても、子どもにとっても大切なことだから、親子一緒になって読んでほしいと思います。

▲ 聖書のエッセンスと今日やってみることが、31日分見開きで掲載されている

人を支える「本物」の言葉

聖書の一節「若き日に神のことを覚えよ」を引用し、子どものころに、親や恩師の助言、文学作品の一文など「本物」の言葉に触れることが、その後の人生を豊かにしてくれると鈴木先生は言う。

 神や聖書でなくても、親や先生、文学でもいいのだけれど、小さいころに自分の人生を豊かにしてくれる言葉や人、本に触れることはとても大切なことなんです。
私の親しい方に、あるお坊さんがいます。彼は昔、将来実家の寺を継いでお坊さんにならなければならない圧迫から逃れるために、学校にも行かなくなって、とにかく軌道から離れるようなことを散々した。けれど、三十歳くらいでとうとう疲れ果てちゃって、さてこれからどう生きようと思っていた時に、自分が子どものころ、通っていた幼稚園のシスターたちを思い出したというの。そのシスターたちは決して難しいことを教え諭すのではなくて、子どもたち一人ひとりを本当に大事にして、人を大切にすることを教えてくれたそう。そして、シスターが言っていた「あなたが叩くとお隣の人も痛いんだよ」というような言葉が心に深く残って、生きる根源を成しているというの。人生の中でふと必要なときに立ち現れてきて、自分の人生を変えてくれる。そうして彼は、お寺の修行に戻って、今はとても立派なお坊さんになっています。
 結局、「本物」の言葉は、すべて聖書に通じるんですね。でも聖書は易しいところもあれば、理解が難しい部分もたくさんある。そういう中で、自分にとってこれだと思う1行に出会えれば、私はそれでいいと思う。だからその大事な1行、自分にとって印象深い1場面に思いを巡らす、そういうことが大事だと思います。

近代文学研究者としても活躍する鈴木先生。話は先生が講座で体感した「本が持つ力」に及んだ。

 私の専門は近代文学だから、作品を通しながら、自分の人生を考える講座などもやっています。本を読んで、感じたことを話すことで、普段自分では考えているけども、直面したくない問題や課題などを、みなさん話されるようになる。聞く人も静かに聞いてくれるものだから、自分が避けていた内面の問題を受け入れることができる。そうすると自分の中でも変化が起きて、問題を自分で解決していけるようになるのね。
 つまり小説や文学に限らず、人間誰しもが共通する深い問題などを秘めたものが、いい本なんだと思います。私は小さいときから本が大好きで、私にとって本の力は、なにものにも代えられないものです。いやなことがあって相手を責めたくなるときも、「あの人は何を考え、求め、何を伝えようとしているのか」と、ふと立ち止まり、視点を変えて考える力も本で養えると思うのです。
 そういった本などに数多く触れることで、自分の中での軸、私は「中心軸」と言っていますが、それを育てることが大切です。人からなんと言われてもふらふらせず、人と違ってもいいと受け入れられる。自分は自分、他人は他人であっていいと思えることで、初めて相手を尊重することができる。でも「中心軸」がお互いにあるからこそ、協力しあえる関係になるのだと思います。


▲研究室には近代文学全集が並ぶ。

本屋は作家の思いを「後押し」する

子どものころから本屋が好きだったという鈴木先生。本屋における代えがたい体験とは。

 本屋さんで本を買うと、温かい気持ちになりますよね。やはりそこで感じた人間関係ややり取りもひとつの思い出となって体験できる。本屋さんは良い本を届けるときに、そういった体験も提供することで、作家が込めた作品への思いを、何倍にもして後押ししてくれる大事な存在です。その体験、思い出とともに読む本は、格別なものです。それが本屋さんで本を買うことの大きな存在意義だと私は思います。


B5変/80ページ
本体1500円

鈴木 秀子(すずきひでこ)

聖心会シスター。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。文学博士。聖心女子大学教授(日本近代文学)を経て、国際コミュニオン学会名誉会長。聖心女子大学キリスト教文化研究所研究員・聖心会会員。日本に初めてエニアグラムを紹介。著書に80万部突破の『9つの性格 エニアグラムで見つかる「本当の自分」と最良の人間関係』(PHP研究所)など。

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