『六法全書』をはじめとした法律書で知られる有斐閣は、5年後には150周年を迎える老舗出版社だ。『ジュリスト』など専門雑誌や大学教科書・法律実務家向け書籍など多くのシリーズを刊行するほか、これら出版資産をデジタル化し電子版やウェブでの提供にも力を入れている。
同社は1877年に古書店として創業。法律を中心とする学術分野でおよそ1万3000タイトルの書籍を刊行してきた。「法律の出版で六法全書と雑誌、書籍の3つとも刊行しているのは当社だけでしょう」と土肥賢常務取締役は同社の特徴を説明する。
現在の年間新刊発行点数は180タイトルほど。稼働点数は約2000タイトル。主な4分野の点数比率は法律が53%、経済・経営が25%、人文・社会が17%、政治が5%。金額的には7割ほどを占める法律が圧倒的だ。
【本紙増刊B.B.B 8月号掲載】
大学教科書
「当社の社名を読めるのは、きっと法学部の学生か出身者だと思います」と笑うのは、今年7月に就任した伊丹亜紀営業部長。というのも同社には、大学での教科書採用を想定して作られているシリーズが多いからだ。
裁判官や弁護士など法曹界・法律実務家に向けた「有斐閣コンメンタール」、「法律相談シリーズ」などもあるが、「有斐閣双書」、「有斐閣ブックス」、「有斐閣大学双書」、「有斐閣Sシリーズ」、「有斐閣アルマ」、「有斐閣コンパクト」、「New Liberal ArtsSelection」、「LEGALQUEST」、「テキストブックス[つかむ]」、「有斐閣Insight」、「有斐閣ストゥディア」などの大学教科書向けのシリーズが多い。
これらシリーズは時代のニーズに対応したり、執筆者を入れ替えながら、15年ほどのサイクルで入れ替わるものが多く、こうしたシリーズが常に4本ぐらい並行して走っている。
一般書店での売れ筋も
一方で、2013年に高校生にも読めるようにというコンセプトで刊行した一橋大学経済学部編『教養としての経済学』は、一般書店での売れ行きがよく累計13刷4万5000部と、「教科書採用が少ない書籍で、これだけ短期間に部数が伸びたのは当社初」(伊丹部長)という売れ行きになった。
このほかにも2016年刊で13刷1万6500部の『質的社会調査の方法』、2017年刊で10刷1万9000部の『大人のための社会科』、2018年刊で2刷8000部の『社会学はどこから来てどこへ行くのか』、2020年刊で3刷6000部の『BLの教科書』など、広く読者を獲得する単行本も少なくない。
2015年には、同社最大の売れ筋『ポケット六法』のタイトルの言い間違えから、公式キャラクター「ろけっとぽっぽー」が誕生。2018年の同書刊行40周年ではキャラクターグッズも発売。いまも『ポケット六法』初回注文特典として、書店にクリアファイルを提供するなど、同社の顔として活躍している。
さらに、同社は『ジュリストDVD』『判例百選DVD』『法学教室DVD』『六法全書復刻版DVD』など,出版資産のデジタル提供も積極的に展開。「有斐閣オンライン・データベース(YODB)」でのWeb配信も行っており、今年秋には法律分野の実務家や研究者を対象に、有料のコンテンツ配信サイト「有斐閣Online」のオープンも予定している。
新システムに営業資産を引き継ぐ
同社はかつてシステムを自社開発していたが、2011年に新システムの導入を検討。光和コンピューターの出版ERPに決めた。これに合わせて、それまで各部署がそれぞれのシステムで利用してきたデータを営業部で取り込むことなども目指した。
物流業務は、複数あった倉庫を1997年に埼玉県朝霞市の有斐閣サービスセンターに集約。その後、他社の物流業務も受託するようになり、別のシステムを導入した。
営業部・大石直人課長は「受注から商品管理までは光和の販売管理システムで、入出庫を別システムで管理し、データを連携しています」と説明する。
また、開発に当たってはカスタマイズが必要だった。特に各大学、教員ごとの教科書採用実績など30年以上蓄積したデータの引き継ぎに手間がかかり、稼働まで当初の予定より時間を要したが、「このデータは営業担当者の出張準備などに欠かせない資料にもなっています」と土肥常務は述べる。
株式会社有斐閣
代表者:江草貞治
創 業:1877年(明治10年)
資本金:1億円
所在地:東京都千代田区神田神保町2-17
(〒101-0051)有斐閣本社ビルおよび神田神保町ビル
従業員:85名
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