中央公論新社は10月19日、第59回谷崎潤一郎賞、第18回中央公論文芸賞の贈呈式を東京・丸の内の東京會舘で開催した。受賞作は、谷崎潤一郎賞が津村記久子さんの『水車小屋のネネ』(毎日新聞出版)、中央公論文芸賞が川越宗一さんの『パシヨン』(PHP研究所)と佐藤賢一さんの『チャンバラ』(中央公論新社)。中央公論文芸賞で2人が受賞するのは、2015年以来3度目となった。
選考委員の川上弘美さんは『水車小屋のネネ』について、「口には出さなかったけれど選考委員は皆この作品が好きだった」とし、「もし、世の中がこの小説に出てくる人たちで構成されていたら、どんなにいいか」と高く評価した。
受賞した津村さんは、1年間の新聞小説を書くのは辛くなるだろうと思い、「本当に自分のために、好きなことを書いた」と話し、「賞をもらえるとは思っていなかった」と今回の受賞を驚くとともに、「これまでの人生で関わった人たちに感謝している」と語った。
選考委員の村山由佳さんは『パシヨン』について、江戸時代のキリスト教弾圧の「迫害する側とされる側の両面を描き、ラスト近くの拷問のシーンなど素晴らしい筆致だった」と称えた。
受賞者の川越さんは、「今作は新聞連載の独特の緊張感のなかで書いたので、それが良かった」とし、「ゆっくり書いたら書けなかったと思う」と吐露した。また、「(この小説は)自分一人で書いたのではない」とし、過去を一生懸命生きた人々への畏敬の念と尊敬を込めて感謝の言葉を述べた。
選考委員の林真理子さんは、『チャンバラ』について開口一番、「あらすじを言いたいけれど、〝ない〟です」と言って会場から笑いがこぼれた。「とにかく斬って斬って斬りまくる小説」だったと話し、斬るだけの話だが、「斬り方がすべて違う」とし、「非常に爽快感があり、粗雑なところが全くない」と高く評価した。
受賞者の佐藤さんは、今作は「自分自身と〝今の文芸〟に対する挑戦だった」と明かし、「昔のようなチャンバラ小説が書きたかった」と話した。読む人を圧倒した斬り方については、高校3年生の息子さんの協力で、おもちゃの刀で斬るところを実演しながら書いたと笑顔で話した。
最後に中央公論新社・安部順一代表取締役社長が登壇し、同社発行の小説が受賞したのは06年以来、17年ぶりのことで、「(われわれ)出版界は、良い作品であれば自社のものでなくても表彰したい」と話した。また、コロナ禍でできなかった懇親会を4年ぶりに開催できることを喜んだ。
受賞者には正賞(賞状)と副賞(100万円)のほか、ミキモトからオリジナルジュエリー、芦屋市長からクリスタルトロフィーなどが贈呈された。
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