秋の読書推進月間「BOOK MEETS NEXT」期間中に京都で開かれた「KYOTO BOOK SUMMIT」(11月8、9日)では、「図書館と著者・書店・出版社の未来」をテーマにしたシンポジウムも催された。
登壇者は、自民党の「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」が出した提言を受けて、文部科学省担当者らと共存・共栄の道を探る「書店・図書館等関係者における対話の場」の会合にも参加する久美堂・井之上健浩社長、作家の今村翔吾さん、日本図書館協会・岡部幸祐専務理事兼事務局長、原書房・成瀬雅人社長。進行役は出版文化産業振興財団・松木修一専務理事が務めた。登壇者の主な発言要旨は次の通り。
予算問題/新しい図書館像
岡部 図書館の半数以上が80~90年代に建てられ、老朽化の問題がある。さらに、資料費はこの20年で市区が半分、町村も4割減、年間図書購入冊数は3割減。安価な図書を購入し、冊数を維持している。図書館利用(貸出)者は設置地域の約2割というデータがあり、8割は図書館に来るかもしれないが、本を借りていない。
山梨県の「やまなし読書活動促進事業」、千代田区立図書館が館にない本をどこで購入できるか、新刊書店や古書店を案内する「コンシェルジュサービス」、図書館と書店が同じ建物に構える事例も出てきている。今後、これまでと違う運営や形態が増えていくかも知れない。
「複本問題」前進を
松木 複本問題でいつもエキサイトする。非公開だった2回目の会合は激論が交わされた。
成瀬 平均値で複本の影響可否を議論しても解決しない。書店がない自治体と大都市の図書館では状況が違うし、小さな出版社の初版部数と今村作品では2桁違う。根本的に本が売れない今、少ない読者を図書館と書店で奪い合っている場合ではない。どうしたら連携できるか、具体的で丁寧な議論が必要。
岡部 出版・書店の危機は、図書館の危機でもあることを図書館関係者も認識しなければならない。図書館側は利用者のリクエストに弱く、複本問題につながる。しかし、「ベストセラーを読みたい」と言う利用者は一部。もっと幅広く、図書館を利用しない8割の人に向けて動く必要がある。
本のプロが選ぶ賞
今村 8割の人も本と出合えば好きになるし、作家を応援したくなる人もいるはず。高校野球の「甲子園」のような「図書館本大賞」を提案する。
有名な書店員やカリスマ書店員と呼ばれる人がたくさんいるが、図書館司書が「私たちの方が本のプロなのに…」という声もある。書店に対抗するわけではないが、本のプロである司書が選ぶ賞を考えた。
47都道府県その地に住む作家で、その年に作品を出していることが条件。「司書と作品の出合い」も重要なテーマ。トーナメント方式だが、著名な作家だけが有利にならないよう司書は数人をランダムに選ぶ。「偶然」の要素を入れれば参加する作家は増えるだろう。
今、新人作家は広告宣伝費をかけてもらえず、どう読んでもらえばいいのか、どうすれば売れるのか模索している。これが実現すれば高校野球の越境入学のように、作家が少ない県に移住するかも知れない。地元の高校を応援するように地元作家を応援する。
エントリーから1回戦、2回戦と進んでいくので書店でも長期にわたり、出場作品を展開できる。わが町の作家が勝ち抜いて全国制覇した暁には地元も盛り上がり、「作家になりたい」という若者も出てくる。
「商業的」と批判されるかも知れないが、本を読まない人、図書館を利用しない8割の人に向けてインパクトのあることを打ち上げないと未来の読者を獲得できない。
書店、出版社は歓迎
岡部 図書館は本を執筆するための資料を豊富に揃えている。古くはマルクスが大英図書館で「資本論」を書いた逸話もある。自分が働く図書館で執筆した作品が世に出るようなことに図書館員も憧れる。地元の作家を推す、みんなで売り出そうというトーナメント方式はとても面白い。
井之上 地元作家と関わりたい書店は多い。作家はストイックで物静かなイメージだが、こういった賞があると作家側から図書館や書店に足を運んでPRする人もいるかも知れない。素晴らしいアイデア。本屋としてはすぐにでも始めてほしい。
成瀬 編集者は本を書評で紹介されるとうれしいが、『図書館雑誌』などで司書に褒められると、プロ中のプロに認められた感じになり一番喜ぶ。本のプロとしてすごく尊敬されている。全国の司書はそのことに誇りを持ってほしい。そんなプロと一緒にできる事業はぜひ推進したい。
今村 個人的には複本してくれても構わない。各論をいつまで話しても終わらない。総論として図書館側に手伝ってほしい。図書館と書店は揉めるのではなく、賞創設は出版界にとって可能性が広がり、図書館としても「素晴らしい作家を生み出してくれた」と互いに感謝の気持ちが持てる。
本屋大賞は売上的には1位がすごく売れて、2位がドンと下がる。図書館本大賞は地域ごと47の推す作品があり、勝ち抜く期間ずっと売れる。決勝が本屋大賞のように盛り上がれば数百万部も夢じゃない。読者も「どっちが勝つだろう」、「他県の本も読んでみよう」などワクワクしながら楽しめる。
本の出合いと複本の矛盾
会場図書館関係者 図書館はいろいろな本と出合える側面がある。小説ばかりに焦点が当たるのは少し抵抗がある。
今村 全く同意見。自分も図書館では小説よりも図鑑や資料など調べものでお世話になっている。では、「それならなぜ複本があるのか」と問いたい。図書館の人が「『塞王の楯』を20冊入れた」と喜んでいたけど、自分的には複雑。「図書館に置くのは1冊でいいから19冊分の予算で図鑑を買って」と思う。
訴えたいことは「図書館本大賞」じゃなくてもいいから「やらないよりやる」。何もしなければ本、読書を残せない。図書館、書店、出版社、どこが倒れても連鎖的に倒れる。未来に残せるように何かをやらなければ。議論だけで止まれば本当に終わってしまう。
書店の図書館事業参入
松木 市立図書館で予約した本の受け渡しサービスを始めた久美堂の事例紹介を。
井之上 指定管理を受託することで提案した。図書館運営は損をしなければOKと考えている。図書館予約本を受け取りに立ち寄る際、気に入った児童書などは子どものために購入される。また、学習参考書も書き込みができないので購入を選ぶ。これまで図書館に行っていた人が書店に立ち寄る。当社としては一人でも多くの読者と接点を持てていることが一番のメリット。
成瀬 今、書店は少人数でのオペレーションを強いられているが、そんな中、立派な取り組み。図書館と書店が協力する際、書店側からの行動はあまりできていない。こういう事例を全国に知らせることだけでも意義がある。図書館の入り口に蔵書のない本を地元書店組合に注文できる専用FAXが設置している自治体もある。久美堂の取り組みも図書館と書店の相互理解が進む。
今村 こういった新しい可能性を見出すためにも図書館議論の場で10代、20代の意見も聞きたい。次は中高生や大学生の意見も取り入れて考えてほしい。
成瀬 業界関係者だけで話し合っていても前に進まない。最終的には読者、利用者の理解が不可欠。推しのアイドルには多額のお金を使う。本、作家の世界でも「推し」の取り組みを進めてほしい。
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