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インタビュー

【紀伊國屋書店に聞く】高井会長「業界改革実現へ大きな波起こす」 藤則社長「紀伊國屋書店が強くなって業界発展させる」

 紀伊國屋書店は昨年12月1日に15年間トップを務めた高井昌史会長兼社長が会長に、藤則幸男副社長が社長となりバトンが渡った。好調な海外店舗や、大学への学術電子雑誌納入をはじめとした営業総本部がけん引し3期連続の増収増益を続ける同社の今後や、カルチュア・コンビニエンス・クラブや日本出版販売と設立したブックセラーズ&カンパニーの目的、読書推進への取り組みなどについて、高井会長と藤則社長に聞いた。

【聞き手・星野渉】


【高井昌史代表取締役会長に聞く】

高井昌史(たかい・まさし)氏 1947年8月30日東京都生まれ。成蹊大学法学部政治学科卒、71年紀伊國屋書店入社、大学への洋書販売、地方の公共図書館の開設、大学図書館の書誌データベース作りなど、本に関わるさまざまな業務に携わる。各地の営業所長などを経て、93年取締役、99年常務取締役、2004年専務取締役、06年副社長を経て、08年代表取締役社長、15年より会長を兼務、23年代表取締役会長に就任。

商習慣などすべて変える

――藤則社長に社長職を引き継ぎましたが心境はいかがですか。

 業績が一番良いこのタイミングで、2027年の100周年に向けて藤則(幸男社長)にリーダーシップを取ってもらい、僕はもう少し会社の経営も含めて、業界のお役に立ちたいということです。

――やらなければならないとお考えのテーマはありますか。

 業界改革を実現しなければなりません。ブックセラーズ&カンパニーもそうですが、まず書店の仲間を集めて、異常な返品率を下げて書店の粗利を30%にするという目標を具体的に宣言し、取次に適正な配本をしてもらい、本を徹底的に売ることに取り組みます。

――どのように改革していくのですか。

 海外のように買い切りを含めた取引によって、書店の粗利を良くして、そのかわり責任を持って売るという取引制度を、従来の制度と合わせて運用しなければなりません。

 そのためには出版社と取次間の商慣習を含めて、全てを変えなければいけない。書店側から買い切りや直取引などを本格的に進めて大きな波を起こします。

――出版流通の危機と言われますが見通しはいかがですか。

 取次は返品が多いから配本を絞るという状況が続いています。一方で取次が配本を絞るので、当社の仕入部門やブックセラーズ&カンパニーへの問い合わせが増えています。この流れは戻らないと思います。

 日本出版販売(日販)は取次業が赤字になり、物流に徹するためにブックセラーズ&カンパニーに参加しました。2024年問題が噴出したのだと思います。

――そういう状況でも取次は必要ですか。

 必要です。書店が全ての出版社と直取引、買い切りというわけにはいきません。当社も出版社が3000社あるとしたら5分の1ぐらいは直接取引ができるかもしれませんが、あとは取次がないと難しい。

専門書の直取引増え売上を押上げ

――それでも御社は直接取引を増やしているのですね。

 医学書などの専門書は3年ぐらい前から直取引が増えています。専門書は高正味ということで、取次が採算に合わないため取引を絞っているからです。

 運送会社にスペースを用意していただき、大学教科書などをそこから当社の100近い大学売店に送っています。そうすると、十分成り立ちます。

 当社店舗の売上が書店業界平均より7ポイントぐらい良いのも、ほかの書店で販売していない専門書を多く扱っているからです。先日も、当社店舗で建築関係の専門書を買って勉強して資格試験に合格したと、感謝のお言葉をいただきました。

 新宿本店には医書センターがありますが、全国のお客様は紀伊國屋書店に専門書があることをご存じで、そのことが売上に結び付いています。直取引は決してイレギュラーな取引方法ではないのです。これからさらに進んでいくと思います。

――外商もそうですか。

 外商は大きなビジネスです。外商をやる書店は減っているようですが、当社は主要大学ごとに担当を置いて、組織だった営業活動を行っています。なおかつ先ほど申し上げたように直取引の専門書がある。また、外商は洋書が半分以上ですが、洋書輸入のプレーヤーも減りました。だからこそ、外商の売上が堅調で収益を出せているのだと思います。

海外ファンドから注目される紀伊國屋書店

――欧米では苦境が伝えられていたバーンズ&ノーブル(米国)やウオーターストーンズ(英国)といった大手チェーン書店の経営が持ち直していると言われますが。

 現地の報告を聞いていますし、改装されたバーンズ&ノーブルも訪ねました。両社とも経営危機でファンドに買収されましたが、ファンドが書店事業に可能性を見出して、立て直していると聞いています。驚いたことに、そのファンドが次に着目しているリストに当社が入っているそうです。外から見るとそんな魅力のある書店なのかと、社内で笑い話になりましたが。こんなに書店がダメだと言っているのは日本だけですね。

米最大手書店バーンズ&ノーブルが“独立系書店化”で拡大路線に 世界の書店再編目指すヘッジファンド

――なぜ日本だけそうなのでしょうか。

 やはり少子化の影響は大きいです。若者の読書離れが進み、加えて、本を読んできた団塊世代も買わなくなってきている。ダブルパンチです。若い世代に向けてしっかり本の魅力を伝える教育をしてこなかったツケが回ってきたと言えるのではないでしょうか。

 もう一つは、かつての2兆6000億円という出版市場の規模が異常だったという面もあります。人口比でこんなに本が売れた国はありません。現在の1兆1000億円でも、まだ国際的にみれば購買量は多いと思います。

 私たちも含めて、日本の出版経営者が将来予測をせずに仕事をしてきたという甘さは、確かにあります。ただ、ここで止めないといけません。

 そこには教育の問題があります。大学生が1年生から就職活動するようでは、しっかり基礎から勉強して、本を徹底的に読み込むことを通じて教養を身に着けることができません。これでは人格形成もできないのではないでしょうか。

 私は大学の理事長などに会うたびに、このことを申し上げますが、皆さん「そのとおり」とは言っても、すべての大学が一斉にはできないので実現しません。こうしたことは国がリーダーシップをとって進める必要があります。

団体糾合し読書につながる活動へ

――ご自身が運営委員長を務める「BOOK MEETS NEXT」の活動も続けるのですね。

 出版文化産業振興財団(JPIC)の近藤(敏貴理事長・トーハン)さんとともに頑張っていますが、今はまだ業界だけが盛り上がって、そこから先の読書に結び付いてないと感じます。教育団体と一緒になって考えることで、もっと読書に結び付ける活動にしていく必要があります。

 例えば、甲子園のように全国の高校生を巻き込むような読書感想文のコンクールとか、作家を交えて高校生、中学生向けの文章の書き方コンクールなどを行えたらいいと思います。

 読書推進は今まで多くの団体が取り組んできましたが、そうした団体を統合していく必要もあるのではないでしょうか。私は日本書店商業組合連合会(日書連)の特任理事ですが、日書連も含めて一緒になって考えていくべきだと思います。

 今回、国が骨太方針に抽象的ではあっても読書推進の方向性を示したことで、国や自治体の助成金や補助金を得る可能性も大きくなったと思います。

 読書推進はとても大事なことなので、取り組んでいただけることは大変嬉しいです。

定期採用、登用制度で人材確保

――3年後に100周年を迎えられますが。

 社内の100周年委員会で「国内100店舗、海外100店舗、国際人材100人」を掲げています。これは大変なことですが、スローガンは社員を鼓舞します。

 最も大変なのは人材の確保ですが、当社が安定的に成長できているのは、毎年必ず新卒社員を安定的に採用し続けてきたからです。これまで定期採用をやめたことはありません。

 また、当社ではアソシエイトと呼ぶ従業員が、試験を受けて準社員になり、準社員から正社員になる制度もあります。この制度で正社員に登用されて、店舗、営業、海外で幹部となっている人もいます。それから海外店舗勤務の社内公募制やインターン制度も実施しています。

 個人的には100周年で新宿に本社を移せればと思っています。私が入社したときの本社は新宿にあり、その後、世田谷区の千歳船橋に移り、次に恵比寿、そしてここ(目黒区不動前)に来たわけですが、「新宿に本社を」という思いがあります。やはり、新宿こそが我が社のホームタウンですから。100周年に向けて、新体制のもとで会社をさらに発展させて、業界の活性化に貢献できればこれほど嬉しいことはありません。

――ありがとうございました。


【藤則幸男代表取締役社長に聞く】

藤則幸男(ふじのり・ゆきお)氏 1958年3月5日広島県生まれ。広島大学総合科学部卒。80年紀伊國屋書店入社、岡山営業所で大学営業、本社人事部勤務を経て、図書館電算目録事業のプロジェクトに携わる。大学および公共図書館の蔵書データ構築と図書館機械化に取り組み、図書館業務全般にわたる受託事業を立ち上げ、2005年ライブラリーサービス営業本部長、08年取締役、10年常務取締役、11年営業総本部営業推進本部担当、12年店売総本部副総本部長、14年専務取締役、18年取締役副社長、22年代表取締役副社長、23年代表取締役社長に就任。

これからも店舗を増やしていく

――海外店舗や営業本部が好調のようですが。

 あくまでも当社の基盤は日本ですから、日本の業界を良くするために国内店舗を含めた当社が強くなって、業界を発展させなければいけないという使命感があります。社長になって感じるのは、本を売ってほしいという出版社からの期待の大きさです。それに応えるためにも、もっと本を売ることをやり切っていきたいと思います。

 近年の業績でみると、好調な海外店舗と、大学への電子ジャーナル納入などの営業総本部がけん引していますが、国内店舗ももう少し頑張らなければなりません。

 店舗もまだできていない部分をしっかりやれば、ニーズはあると確信しているので、店舗を増やしていきますし、ほかの書店グループが維持できなくなった店舗があればお引き受けすることも検討します。

 そのためには人材が重要だと考えています。書店で働きたいという人はまだ多く、当社には良い人材が集まっているので、そういう人を生かして事業を展開していきます。

――最近出店した店舗の状況は。

 23年11月に出店したゆめタウン出雲店(島根県出雲市)は当初目標にした年商の150%に届く勢いです。学参も児童書も期待以上に売れていますし、8万円もする洋書の『ヘーゲル全集』が売れました。これはお客様とスタッフの店頭での会話から注文につながりました。

 また、22年9月に出店したアリオ亀有店(東京都葛飾区)も売場面積200坪ほどで開店前の売上目標の110%を達成しております。

 いずれの店も、他社が書店をされていた場所への出店ですが、当社に対するお客様の期待の高さを感じます。そういう意味で、お客様の本に対する渇望はあると思います。全国26%の自治体に書店がないと言われますが、しっかりとした書店を出せば、十分に成り立つビジネスだと考えています。

 書店業界では、本だけでは経営が厳しいので他業態を複合して看板を維持しようという傾向もみられますが、お客様はちゃんと本を売る書店に行こうとされていると感じます。

書店を寺子屋化したい

――客層についてはいかがお考えですか。

 若い世代の読者を増やしたいと考えています。現在、当社のポイント会員は200万人ほどですが、10代、20代が16%、30代が12%、40代が20%、50代が23%、60代が15%と若い人が少ない。

 当社は固いイメージがあり、それを応援してくれる人も多く、ブランドになっていますが、将来を考えると、本に親しんでいない若い世代も取り込んでいかなければなりません。その方法としては、エンタメコンテンツや、SNSを使った集客、そして英語検定など学習コンテンツなどが重要なポイントだと考えています。

 そういう意味で、私は書店を寺子屋化したいと思っています。学校では学べないことでも、当社がアレンジしたイベントなら、皆さんに受け入れてもらいやすい。

 新宿本店の改装で新設したアカデミック・ラウンジでは多いときは2日に1回くらいイベントを行ってきており、昨年1年間で122回行いました。それを地方の店舗にもライブで配信したいですし、海外店舗でもアジアであれば時差がそれほどないのでライブ配信も可能です。

 かつて松原(治名誉会長)が「書店は劇場」と言いましたが、学習の場所、寺子屋的な要素によって、今後の若い読者を育てることも、書店の機能、役割ではないかと思います。書店を絶やさない、本を絶やさないためにも、そういう活動をしていきたいのです。

 書店の外にいる人たちをどう呼び込むかも課題です。売上はトータルで前年を超えていますが、来店客数は満足なところまで戻っていません。リアルな書店の魅力を伝える努力を怠ってきたことも要因だと思います。

 良い本を多く並べても、知らしめなければ意味がありません。そのためにSNS戦略なども必要ですが、YouTubeの紀伊國屋チャンネルをもっと活用しなければいけません。

 新宿本店のサイネージでも、店頭の本の並び方とか、1階入り口の書棚、ベストのコーナーなどを見せていきたい。書店の外にいる人たちを呼び込むために、書店のリアルな姿を配信する活動をしなければいけないと思います。

 また、紀伊國屋ホールを今以上に活用したいと考えています。座席を取り外すと仮設舞台ができるようにしたので、午前中は高齢者向け、午後は子どもが帰ってくるまでお母さん向けといったイベントをやって、来店の機会を作りたいですね。

電子コンテンツで外商好

――大学や図書館に向けた電子コンテンツ提供が伸びていますね。

 先日、学術和書電子図書館サービス「Kino Den」のコンテンツを県立図書館に数千万円でご購入いただきました。このほか、当社や大手出版社が出資する株式会社日本電子図書館サービスの「LibrariE(ライブラリエ)」の導入も全国700館まで伸びています。

 大学向けサービスでは海外の学術データベースの提供で信頼関係を築いており、大学にとって、学術教育を支えるパートナーとして当社の外商はなくてはならない存在です。当社にとっても外商は全体の売り上げの4割くらいになっております。

強い海外経験者の存在

――ブックセラーズ&カンパニーの宮城剛高社長は17年にわたり海外店舗に在籍されましたが、海外店舗で経験を積んだ人材は貴重ですね。

 海外店舗の経験者は責任を持って仕入れ、責任を持って売り切るので、バイヤーとしての力も付くし、再販制度はないので値引き販売も行います。そして店長は財務も含めて実質的には書店経営を任されます。

 当社には海外で働きたいという人が多く、そのことでも良い人材が入ってきます。いま海外赴任についての社内公募制度を設けています。例えば、海外店舗で店長候補を探していると社内募集して、応募者の中から人選して面談を行います。実際、今度、ロサンゼルス店に店長で行ってもらう社員は社内公募制度で選任されました。

 また、海外店でのインターンシップ制度も始めました。いまマレーシアのクアラルンプール店で2人を受け入れています。ここで海外に慣れてもらい、本格的に海外店舗に赴任することになります。もちろん海外志向だけではだめなので、日本に帰ってきても活躍できる環境、人事制度を整えます。

――海外展開の今後についてお願いします。

 日本の出版社は魅力的なコンテンツを多く持っているので、当社が海外に持つ店舗や営業拠点を利用して、コンテンツを海外に販売してもらいたいです。海外店舗のスタッフがイベントもできるし、いろいろなプロモーションもできます。これはほかの書店にはない機能です。

 そして、外商も店舗も一緒になって紀伊國屋ブランドをさらに世界に広げます。日本のコンテンツは海外で評価されているので、フォローの風が吹いていて、海外を市場にすればブルーオーシャンです。当社が範を示して、そういうムードを盛り上げていきたいと考えています。

提携書店と書店員レベルアップ図る

――ブックセラーズ&カンパニー設立の狙いなどをお願いします。

 新会社では、書店主導で流通・取引制度を変えていく、責任をもって売っていくことをやり切りたいと考えています。

 書店の粗利益率を3割にするためには、書店が自ら売るという行動を起こすしかありません。タイトルごとに買い切ったり、既刊本を拡販する方法もあります。取次と取引がない小出版社をサポートしてメジャーにしていくこともできます。

 また、3社合わせて1000店舗がグループになったことで、各分野のスペシャリストが集まりました。当社があまり得意でない分野が強い書店人もいるわけです。その人たちとグルーピングをして、分野別のコミュニケーションをとり始めています。

 それぞれライバルではありますが、本を売ることについては仲間です。書店員のレベルアップのために活用できると思うので、1年間のベストプレーヤー、ベストセラーオブザイヤーなど、書店員を表彰する賞を作るのも良いと思います。

――ありがとうございました。

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