AI事業会社の株式会社ACESと株式会社光和コンピューターは、AIによって返品と補充仕入をサポートする書店MDシステム「BOOKS-TECH.COM」を共同開発し、山陰地方で書店を展開する株式会社今井書店の店舗で実運用を開始。補充仕入の実証実験では商品消化率が70%を超え非導入店を大きく上回るなど効果を発揮している。
個店別に最適在庫を分析
ACESは2017年に創業した東大発スタートアップ企業で、DXパートナーサービス、AIソフトウェアサービスを提供する。
「BOOKS-TECH.COM」は昨年8月から今井書店学園通り店(島根県松江市)で実証実験を開始。今年3月まで検証を行い、4月から全14店舗でまず返品から稼働を開始した。
返品は、光和コンピューターのPOSシステムと連携し、入荷・在庫・販売などのデータから店舗ごとの最適な在庫を割り出し、優先順位を付けた不稼働在庫のリストに沿って返品する。
「単位面積当たりの売上や回転率から稼働銘柄を割り出しています」とACESの與島仙太郎取締役COOは説明する。
これまでの返品作業は、全国的な不稼働リストなどをもとに、入荷した新刊のスペースを空けるために必要な冊数を抜き取っていたが、システム導入によって各店別にリスト化された不稼働在庫銘柄を抜き取る形になった。
「スペースを空けるための作業から、リストの本を抜きに行かなければならなくなったので、当初は作業が増えると現場から反発もありましたが、この取り組みは省力化ではなく在庫を最適化することが目的です。結果として返品量が減り、作業も楽になります」と今井書店の舟木徹社長はシステム導入の目的を話す。
AI推奨で消化率72%に
不稼働在庫の返品とともに、補充注文にもAIを活用することで、さらに在庫を最適化し、回転率を向上することで売上拡大を図る。
同じチェーンの店舗でも、規模や立地などによって売れる商品は違う。「BOOKS-TECH.COM」では、返品と同様に個店別の販売傾向を分析し、何冊仕入れれば売り上げが最大化するのか補充注文すべき冊数を提示してスタッフの判断で発注する。
まずコミックスの2巻目以降とビジネス書、文庫、新書など主要銘柄で稼働。実験でAIが仕入冊数を推奨した銘柄については、半年間での消化率が72%に達し、未稼働店の50%を大きく上回った。
システム運用は、コミックスの継続仕入については本部から各店舗に需要予測を提供し、補充発注は店舗ごとに返品システムと連動して順次稼働している。
本部、店舗ともに「BOOKS-TECH.COM」の画面で推奨返品分析、推奨入荷分析などを確認することができるので、システムが提案する優先度や推奨を見ながら店舗で判断することも可能だ。
画像分析によるマーケティングにも期待
「売れない商品を返して、売れる商品を仕入れることで、より求められるものが揃った店舗になります。AIを活用することで個別の店ごとに実現できれば、お客様のより良い体験につながり、より来店頻度が上がり、より購入いただけます」と舟木社長は述べる。
さらに「アメリカでは小規模な独立系書店が増えるなど、個性的な書店は支持されています。日本もネット書店だけになることはあり得ません。人々の生活圏により良い体験ができる書店をつくることができれば、お客様の支持を得られます」との考えを示す。
予測が難しい新刊仕入については当面着手する予定はないが、今後、データが蓄積することでAIによる分析の精度は向上する。また、ACESは画像認識技術を活用した非会員の購入分析や、棚での動向把握などを進める予定で、さらなるマーケティングの可能性を追求していく。
株式会社今井書店
創業:1872年
代表者:舟木 徹
資本金:1000万円
所在地:〒690-0887 島根県松江市殿町63
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