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【ソウル通信】地域書店を守る「小商工人適合業種指定」制度、シーズン2はできるか

韓国政府が「小商工人生計型適合業種指定に関する特別法」の施行を知らせるポスター(2018年12月)

 韓国の町の書店(地域書店)は、主に小商工人が営むところがほとんどだ。そこで「路地商圏」である地域書店などを保護するための特別な規制政策(小商工人生計型適合業種指定制度)を導入している。5年前からこの制度が施行され、書店業が第1号対象業種に指定された。「小商工人生計型適合業種指定に関する特別法」(2018年制定)により、政府(中小ベンチャー企業部)が書籍、新聞および雑誌類小売業(韓国標準産業分類47611)に対して、大企業の市場進入を制限する制度である。

 この制度の前身として6年間運営された「中小企業適合業種指定制度」があるが、弱かった規制効果を改善し、強化された規制を採用することになった。現在、同制度の適用を受ける業種は、書店業をはじめ、麺類、豆腐、コチュジャンの製造業と家庭用ガス燃料小売業、自動販売機運営業など11業種だけだ。

 19年に最初の小商工人適合業種の選定結果を発表する際、政府は「代表的な小商工人営為業種である書店業が第1号の生計型適合業種に指定されたことは、零細小商工人保護で意味が大きい」とし、生計型適合業種指定が小商工人書店の生業活動に実質的に役立つよう履行実態の点検など事後管理も徹底的に準備していくと明らかにした。

大手書店に課される制限

 書店界の代表団体である韓国書店組合連合会が現行の「小商工人生計型適合業種」として申請し指定されたのだが、適用期間は5年間(19年10月18日~24年10月17日)。小商工人書店の安定的な生業保護基盤を整えて大企業と小企業が共生するようにすることが主な目的だ。これによって、指定期間中には大企業の新しい事業開始や拡張が原則的に禁止され、違反すれば処罰(2年以下の懲役または1.5億ウォン/約1700万円以下の罰金)と履行強制金(違反売上額の5%以内)が賦課される。何よりも違法企業というイメージが怖い。

 ただし、ブックカフェや文具店など書籍の売上比重が50%以下の複合型書店は制度適用対象から除外し、既存の大手書店の場合、新規出店が年に1店ずつに制限されるようにした。新規出店した大手書店売り場の場合、伝統的な地域書店の主要品目である学習参考書の販売を3年間制限する。なお、オンライン書店や企業型中古書店は適用対象ではない。

 この制度は関連産業や国民の生活に与える影響が大きいため、政府は綿密な調査を行い、当該業種を指定する。専門研究機関の実態調査、専門家および消費者向け意見調査、大企業および小商工人の協議、専門機関である「同伴成長委員会」の意見などを総合的に検討し慎重に決める。

 政府は、書店業の場合、教保文庫をはじめとする大手書店の急激な事業拡張と、これにともなう近隣の中小書店の売上減少や廃業増加など小規模書店の脆弱性を考慮し安定的な保護の必要性があると判断した。書店業は小商工人が約90%を占める業種で、小商工人事業体の平均売上と営業利益、従事者賃金などが全般的に零細なのが現実。特に大手書店の全国チェーン店舗が15年の63カ所から18年の105カ所に2倍近く増加した反面、大手書店が新しく出店した地域の小さな書店は売上が大きく減少したり廃業したことも政府の政策判断に作用した。

 今年に入って韓国書店組合連合会は、今後5年間の追加指定のために制度延長申請書を提出した。現在、担当官庁の調査と審議が進行中である。適合業種指定にともなう効果、予想される影響などに対する利害関係者の意見を幅広く取りまとめている。出版産業の競争力と消費者の利益などに及ぼす否定的影響を最小化することも、政策決定において非常に重要なポイントだ。5年延長が有力視されるが、10月頃に政策決定が下される予定だ。

 地域書店の存在は国民の多様な図書購入先に対する選択権を拡張させる。すでに大手オンライン書店とチェーン書店の出版市場の占有率が過度な状況で、経済論理だけで大型資本の市場独占を放置することは、社会の同伴成長※、公正競争、地域経済と地域文化、小商工人保護など、いかなる観点から見ても望ましくない。(※同伴成長=共に成長し、共に分け合おうという韓国で広く知られている社会哲学)

小商工人適合業種指定制度を担当する機関、同伴成長委員会のロゴマーク

クジラとエビが共存する〝本の海〟

 しかし、出版社などは、地域書店の重要性を強調しながらも、ややもするとこの制度によって新しい大手書店の登場による出版市場の成長を抑制する逆効果を警戒する声が少なくない。さらに、すでに恐竜のように大きくなったオンライン書店に対する市場規制効果が不備で、制度施行の実効性が少ないという指摘もある。

 また、地域の零細書店の保護に重点を置いたこの制度があるからといって、地域書店が自然に活性化するわけでもない。あくまでも制度的な保護(守備)にすぎず、活路を開ける支援策(攻撃)ではないのだ。しかし、韓国はクジラ(大手書店)とエビ(小さな書店)が共存する「本の海」を作る有力な方法として同制度を選んだ。大手書店の影響力が強い日本の書店業界から見れば参考にならないかもしれないが、地域書店を大事にする政策的選択肢ということは間違いない。


白源根(Beak Wonkeun 本と社会研究所代表) 1995年から韓国出版業界のシンクタンク「韓国出版研究所」責任研究員、2015年に「本と社会研究所」を設立し代表に就任。文化体育観光部の定期刊行物諮問委員、出版都市文化財団実行理事、京畿道の地域書店委員長、韓国出版学会の出版政策研究会長、韓国出版文化産業振興院のウェブマガジン「出版N」編集委員、ソウル図書館ネットワーク委員長、韓国文学翻訳院「list-Books from Korea」編集諮問委員、出版評論家、日本出版学会正会員など。

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