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【書店員の目 図書館員の目】取次の未来戦略考(菊池壮一)

 先の決算は、トーハンも日販も思わしいものではなかった。特に両社とも本業の取次業で利益が出せず苦悶する姿は、恒例となったと言っていいだろう。対策として挙げられているのが、物流費対策や返品削減、適正配本…。何年同じことを言うのかと思うのは私だけではあるまい。「書店の粗利30%」に至っては30年以上前から言っているような気がする。利益=売上×利益率なのであるから、30%を達成できたとしても売上が落ち続けているのだから、書店の状況が劇的に好転するわけがないのに、である。

 今、出版界全体が変わらなければならない瀬戸際に来ているが、中でも取次がどういう未来図を描いているのかは大きなポイントである。

 多くの取次は出版物売上減の直撃を受け、人員削減とともに地方の支店、店売、倉庫の縮小を当然のように行ってきた。一方、アメリカ生まれの黒船企業は、出版物以外の商品の取り扱いを増やし、地方の大型倉庫や協賛運輸会社を確保するという全く逆の戦略をとってきた。このマイナス思考とプラス思考の差が今の業績に表れているのではないだろうか。

 「本業回帰」は彼らが度々口にしてきたことだが、本業(=取次業)とは紙の出版物だけを苦労して流すということなのだろうか。取引書店に文具を扱えとか、ガチャコーナーや中古カード、フィットネスはいかが等と薦めるなら、自分たちが結束して黒船に負けない仕組み・組織を作り上げることが必須の使命なのではないかと思う。

 この事を私は何度も言っているし、賛同してくれる業界人も多いと認識しているが、取次は全く無反応である。結束どころか、それぞれが全く違うことをやろうとしているように見える。

 日販は、紀伊國屋、TSUTAYA、日販グループ書店と組んで、『ブックセラーズ&カンパニー(以下B&C)』を立ち上げた。B&Cは出版社と書店の直接取引を推進し、取引条件等の調整機能を担う。日販はその中で物流と代金回収のみを行うということであるが、業界人にとっては「納得いかないことだらけ」である。

 日販はファミリーマートとローソンの雑誌物流からの撤退を表明する一方、ローソン併設で展開をしている『街の本屋さん』は続けるという。はいはい、それで、B&Cの物流網というのは、どのようになり、いつスタートするのですか。日販帳合でB&Cに加盟しない書店への物流はどうするの?継続?まさか撤退?等々。参加する出版社や書店が一向に増えないのも不安感の現れであろう。

 一方トーハンは、ファミリーマートとローソンの物流を引き受け、これまでの取次業を継続しようとしているが、はっきりとした変わり身は見られない。書店や業界への対策は、近藤会長が理事長を務める出版文化産業振興財団(JPIC)で、ロビー活動も含め展開しているように見えるが、どうなっていくのだろうか。

 日販グループホールディングスの社長に富樫建氏が就任した。富樫氏はブックホテル『箱根本箱』や六本木、福岡、名古屋で展開中の入場料を取る書店『文喫』の事業に最初から携わってきた方で、日販の未来図について『日比谷カレッジ』で講演をしていただいたことがある。きわめてわかりやすい資料と語り口で参加者の評判も良かった。トーハンも上智大学で出版文化を教えている柴野京子教授を社外取締役に迎えている。お二人ともこれまでを知り未来に向かって走れる人である。大きな発想による新しいビジョンに期待したい。

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