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河出書房新社 今夏以降のおすすめ企画紹介 小野寺社長「読みたいと思うきっかけを作る」

佐藤究氏の『幽玄F』(10月発売予定)など多彩なラインナップが紹介された

 河出書房新社は7月12日、これから刊行されるおすすめの書籍などを紹介する新企画説明会を、東京・千代田区の出版クラブビルで、オンラインを併用して開催した。『テスカトリポカ』(KADOKAWA)で直木賞作家となった佐藤究氏の受賞第一作となる『幽玄F』や、故・津原泰水氏の『夢分けの船』、デビュー作『君は月夜に光り輝く』(KADOKAWA)が累計60万部を突破した佐野徹夜氏の3年ぶり長編小説『透明になれなかった僕たちのために』のほか、河出文庫の新シリーズ「古典新訳コレクション」、『サピエンス全史』のユヴァル・ノア・ハラリ最新情報など、多彩なラインナップを紹介した。(小野寺社長のあいさつは下記に掲載)

10月から「古典新訳コレクション」

 冒頭、小野寺優社長があいさつしたあと、新企画について各担当者らが説明した。まず、河出文庫「古典新訳コレクション」を紹介。「池澤夏樹=個人編集 日本文学全集」から古典の新訳・新釈を文庫化するもので、今年10月から刊行を開始する。第1弾は『古事記』(池澤夏樹・訳)、『伊勢物語』(川上弘美・訳)、『源氏物語(1)』(角田光代・訳)、『平家物語(1)』(古川日出男・訳)──の4冊。以後、毎月2点刊行予定。「いまを代表する作家たちによる、みずみずしく読みやすい現代誤訳・解釈」を読者に届ける。

 続いて、大型本企画5点を紹介。『黒人の歴史 30万年の物語』は、人類の発祥から現在までアフリカ大陸から始まる黒人の歴史を、総合的に扱った「日本で唯一の本」となる。図鑑ではなく歴史書として、中学生から大人まで幅広い読者を対象にしている。7月下旬発売。また、「世界を知る新しい教科書シリーズ」として、第1弾の『生物学大図鑑』を10月上旬に発売する。平易な文章で生物学の主要な分野を網羅し、最新で本格的な知識を学ぶことができるのが特徴。2024年以降、シリーズを続々と刊行する予定。

 そのほか、世界初の大型ヴィジュアルガイド『オペラ大図鑑』(11月刊行予定)、100年前の全国100都市の詳細地図集『日本の都市 100年地図』(今尾恵介・著、11月発売)、21年に刊行した『ピーナッツ大図鑑』に続くスヌーピーの豪華解説本第2弾『チャールズ・M・シュルツと「ピーナッツ」の世界―スヌーピーの生みの親の創作と人生100―』も、11月発売予定だ。

『推し、燃ゆ』文庫版を発売

全世界80万部の『推し、燃ゆ』を文庫化

 また、23年下半期の注目文芸書も紹介。 7月19日に選考会が開かれる第169回芥川賞の候補作『##NAME##』(児玉雨子・著)を同18日に発売する。直木賞作家・佐藤究氏の『幽玄F』も、「三島由紀夫×トップガン」をキャッチコピーに10月刊行予定。

 さらに、第164回芥川賞受賞作で、全世界で80万部を突破している宇佐見りん氏の『推し、燃ゆ』の文庫版を7月26日に河出文庫から発売する。そのうえで、『森があふれる』(彩瀬まる・著)、『ひとり日和』(青山七恵・著)、『あなたに安全な人』(木村紅美・著)、『ババヤガの夜』(玉谷晶・著)、『ジャクソンひとり』(安堂ホセ・著)―の5冊の英語版発売が決まっていることを明かした。

 18年の刊行から創刊5周年を迎える河出新書は、専門の編集部を設けない形で不定期刊行を続け、刊行点数も約70点となった。記念すべき5周年となる今年、人類学者・霊長類学者の山際壽一氏が書く『共感革命―社交する人類の進化と未来』を刊行する。また、今秋には5周年記念「河出新書ベストオブベストフェア」も開催する。

秋の注目企画は4冊

 秋の注目企画として次の4冊を挙げた。▽『透明になれなかった僕たちのために』(佐野徹夜・著、11月発売予定)▽『交渉人・遠野麻衣子 ゼロ』(五十嵐貴久・著、9月刊行予定)▽『私が鳥のときは(仮)』(平戸萌・著、氷室冴子青春文学賞第4回大賞受賞作、10月下旬刊行予定)▽『夢分けの船』(津原泰水・著、10月上旬刊行予定)。

 最後に、歴史学者・哲学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏の著書を紹介。全世界2500万部突破のベストセラー『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福(上・下)』の文庫版を10月に河出文庫から発売する。また、同氏の歴史・児童書シリーズ「人類の物語」の第2弾『人類の物語 不平等な世界はこうして生まれた(仮題)』を10月に発売する。第1弾の『人類の物語 ヒトはこうして地球の支配者になった』とともに、「人類の歴史を学べば、世界は変えられる」と読者に訴える。

小野寺優社長あいさつ

あいさつする小野寺社長

 出版業界はとても厳しい状況が続いている。昨年、4年ぶりの前年割れとなった出版市場は今年に入ってからも6カ月連続で前年割れが続いている。コロナ禍における巣ごもり需要の反動という見方もあるが、相次ぐ生活必需品の値上げが人々から本を購入する余裕を奪っているようで、書店の来店客数、購入客数が下がっていることが気になっている。

 しかし、本当に人々が本に興味を失ってしまったのかと言われたら、それもまた違和感を覚える。それを感じさせてくれたのは、昨年のこの席で発表した16号限定の季刊文芸誌「スピン/spin」(定価330円)だった。3年後に迎える創業140周年に向けて昨年9月に創刊し、そうそうたる執筆陣はもちろん、紙の専門商社である竹尾と「紙の過去・現在・未来を考える」プロジェクトとして、表紙の紙は毎号異なった「紙=資材」を使用するなど、あえて紙の雑誌を強く意識した作りとなっている。

 すると創刊直後からSNSなどで大きな話題となり、初版1万部があっという間に品切れをして、初版と同数の1万部を重版したが、それも現在までに実売率が92%という結果を残している。それを受けて、第2号は1万5000部を発行したが、これも結局3000部の重版をした。3号、4号も初版を1万9000部としたが、こちらも実売率が90%前後という状態が続いている。

 読者の声から見えてきたのは、これまで文芸誌など読んだことがない人、普段は紙の本に親しんでいない人も読んでくれている。正直なところ、この反響は私たちも予想していなかった。廉価の雑誌で、しかも何十万部のベストセラーではないが、これが文芸誌としては極めて異例なことであることは、皆さんならば分かってもらえるだろう。

 これが一体何なのか。私をはじめ皆さんも紙の出版物で育った世代で、本が紙でできていることを当たり前のこととして、その魅力についてあらためて考えたり、発信してこなかったのではないか。ここ数年、私たちはデジタルの可能性ばかりを追い求め、どこかで紙の出版物を時代遅れと考えていたのではないか。しかし、デジタルネイティブの世代にとって、本が紙でできていることは、もしかしたら当たり前でも、時代遅れでもないのかもしれない。ただ、その魅力を知らずに来た。私たちが良い作品を紙の本で読むことの楽しさを十分に伝えずに来ただけなのかもしれない。

 もちろんデジタルへの追求はこれからも続くし、とても重要なことだ。しかし、紙の出版物についてもその可能性を今一度考え、その魅力を発信できれば、それを面白がり、人に伝えたいと思う感度の高い人たちが実はたくさん生まれてきているのではないかという気がしてならない。

 また、今年4月に刊行した西加奈子さん初のノンフィクション『くもをさがす』は、現在までに14刷り21万部となっている。発売から3カ月経った今も、全国の書店さんが熱心に薦めてくださり、さまざまなメディアでの紹介が続いている。さらにここに来て、SNS上で読者の感想が飛び交い、さらなる広がりも見せている。

 この2冊に共通していることは、良いコンテンツをそれにふさわしいものとして仕上げ、その魅力を潜在的な読者に直接発信し、その心を動かすことがいかに重要かという、ごくごく当たり前のことだ。出版物の情報や魅力を潜在的な読者に伝えることさえできれば、書店に足を運ぶ方、本を読んでみようという方はたくさんいるということだ。ならば私たちは今一度、自社が刊行するコンテンツを見つめ、それにふさわしい作りや情報発信の方法について考え、多くの人が読みたいと思ってくださるきっかけを作らなければならない。本日紹介する一つ一つの企画には、そんな思いを込めている。どうか注目いただきたい。

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