第32回小川未明文学賞の贈呈式が、3月27日に東京・品川区の学研ビル3階ホールで開催された。小川未明文学賞は、未来に生きる子どもたちにふさわしい児童文学作品の誕生を願い1991年に創設された公募による文学賞(主催/新潟県上越市、小川未明文学賞委員会、協賛/Gakken)。大賞は長編作品『如月さんちの今日のツボ』の古都こいとさん、優秀賞は短編作品『まよいねこトラと五万五十五歩』のやすふみえさんが受賞した。
初めに、上越市の中川幹太市長があいさつに立ち、「今回は新たに都道府県立図書館や大学の文芸部等に周知して募集を行い、553編の素晴らしい作品が寄せられた」と報告。続いてGakkenの五郎丸徹社長が祝辞を述べ、「6年ぶりに東京で贈呈式が開催され、受賞者や関係者が一堂に会することができて大変嬉しい」と語った。両氏とも、受賞作が血縁関係や種族を超えた絆を描く成長物語であること、「鍼灸」や「尺取虫」といった児童文学作品では斬新な題材、ユニークな着眼点で書かれたことを高く評価した。
最終選考委員の宮川健郎氏は、大賞作品について「心の問題がツボの名前を通して体のこととして語られる点が面白く、深みを感じた」と賛辞を送った。また、短編作品への贈賞となった優秀賞については「小川未明が生み出した短編の系譜が引き継がれていることを選考委員は大変喜んでいる」と明かし、「短編に重要な構成や構図がしっかりしていて、結末が鮮やか」と評価。同じく最終選考委員の中島京子氏は「2作品とも作者自身のキャリアや専門領域が題材となっている。子どもたちはそこに書かれていることの真実や本質なことに魅了されるのではないか」と評した。
大賞を受賞した古都こいとさんは鍼灸師としても活躍中。「鍼灸の世界には「口鍼(くちばり)」という言葉があり、コミュニケーションを通じて患者さんの心に安心感を与えるという意味。自分の作品が「口鍼」ならぬ「読む鍼」となって読者の心を明るく照らすことになれば嬉しい」と喜びを語った。また、大学で生物学や生命科学を教えているやすふみえさんは「専門分野を研究するなかで得た題材を、できるだけ楽しく伝えていくこと」が今後の命題とし、「子どもたちに本の読み聞かせをする時間は母親である私にとっても至福のとき。多くの作家の先生方が名作を残してくれたように、私も世界を豊かにしていけるような物語を書いていきたい」と抱負を語った。
贈賞の後には特別企画として、上越市の小川未明文学館の専門指導員を務める小埜裕二氏が「小川未明と宮沢賢治 二人の童話作品における接点と転機」をテーマに講演。また、最終選考委員を務めた詩人・小川英晴氏による朗読とともに、ARTE Y SOLERA 鍵田真由美・佐藤浩希フラメンコ舞踊団が小川未明の作品『月とあざらし』を題材とした創作フラメンコを披露。哀しくも情熱的な歌と踊りによるステージで小川未明の詩情あふれる世界が表現された。
大賞受賞作品は単行本としてGakkenから24年11月頃に刊行予定。
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