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日本出版クラブ 第63回「全出版人大会」開催、大会声明を採択

 一般財団法人日本出版クラブは5月7日、東京・千代田区のホテルニューオータニ東京で第63回全出版人大会を開き、大会声明を採択するとともに、長寿者22名と永年勤続者333名を祝賀した。また、式典に続き京都大学教授で『大阪の生活史』(筑摩書房)などを著した岸政彦氏が講演した。

 冒頭、野間省伸大会会長(講談社)があいさつしたのち、喜入冬子大会委員長(筑摩書房)が記念品の風呂敷のデザインなどについて説明し大会宣言(別掲)を発表。拍手で承認された。

 続いて、来賓祝辞で文部科学副大臣の今枝宗一郎氏が、独立行政法人日本芸術文化振興会にアニメ・漫画のクリエーターを育成する基金を設置したことなどを報告。国立国会図書館長の倉田敬子氏が昨年1月から有償の電子書籍、電子雑誌の収集を始めたことに触れ出版社に協力を求めた。

 長寿者祝賀では、堀内丸恵大会副会長(集英社)が祝辞を述べ、長寿者を代表して光村図書出版の吉田直樹社長が謝辞を述べた。永年勤続者祝賀では小野寺優大会副会長が祝辞を述べ、永年勤続者を代表して高橋書店・金子文さんが謝辞を述べた。

 講演で岸氏は、多くの人の人生を記録した1200ページを超える『東京の生活史』と『大阪の生活史』(いずれも筑摩書房)、800ページを超える『沖縄の生活史』(みすず書房)を作成するにあたり、Xで聞き手400人を募り、その人々が選んだ人々に聞いた話をそのまま掲載したと説明。綿密な事実関係よりも、その語り手や聞き手の生の言葉が力を持っていると話し、「紙に印刷された文字がいかに大事かを、ここ数年で改めて認識してきた」などと述べた。

大会声明

 来年は戦後80年になります。

 戦争中は激しい言論統制が行われ、また物資不足から紙が手に入らず、出版活動はかなり制限されました。田辺聖子さんが戦争中、あまりに読むものがなくて、畳をひっくり返したとき下に敷かれていた古新聞をむさぼり読んだ、というエピソードをどこかで聞いたことがあります。それくらい人は活字に飢えていました。おそらく情報にも飢えていたでしょう。いっぽうで、書きたいことが書けないならと断筆する人もたくさんいました。

 1945年に戦争が終わり、占領期にはGHQの検閲などもありましたが、出版活動は一挙に加速しました。カストリ雑誌から文学全集まで、とにかく、読みたい、書きたい、というエネルギーにあふれていたように思います。もちろん時代の趨勢もあり、そこから一直線に拡大していったわけではありませんが、みなさんもご存知のように、その後、1996年までは、基本的に出版活動は拡大成長していました。

 そして以降、われわれは長く続く出版不況のなかにいます。

 人々が書いたり読んだりしなくなったのか、と言えばそんなことはありません。文字を使った情報交換は、ネットの登場によりむしろ飛躍的に多くなっています。単に、本を読まなくなったのです。

 ではなぜこういう状況になったのか。

 出版は、英語ではpublishと言いますが、これはpublicの動詞形です。つまり、公にする、という意味です。印刷技術が発達する以前、Publishは、お披露目する、という意味でつかわれていて、作者が自ら、人々の前で読み上げることを意味していたそうです。(高宮利行『西洋書物史への扉』岩波新書、2023年)

 出版とは、誰かが書いたものをお披露目する、公にする仕事なのです。

 しかし、今は誰もが自由に発信できる時代であり、そういう意味では誰もがバブリッシャーになれます。そうしてパブリッシュされた情報がネットにあふれている。戦争中とは逆に、人々は情報の海でおぼれそうになっているようにみえます。

 そして、本を開く余裕を失っているのではないでしょうか。

 しかし、だから本はもう必要ない、のではなく、いまこそ必要なのだと考えます。

 われわれが作っている本は、電子書籍も含めて、きちんとその質を担保しています。著者名があり出版社名があり、内容に責任を持っています。そのことの価値は、情報がフェイクだらけになっていく世界にあって、ますます高くなっていくはずです。

 世の中に必要であると思った情報を広めていく、公にしていく、という使命を、われわれはこれからも変わらず果たしていく。その決意を新たにし、大会声明といたします。

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