独立系書店が生き延びるための〝ウリ〟やノウハウを紹介する連載第5回。東京・新宿区で営む「かもめブックス」は、本格的なカフェ併設で連日賑わう人気店。店長の宮崎麻紀さんに話を聞いた。
【市川真千子】
本格カフェで人を呼び込む
神楽坂駅から徒歩約30秒、ビル1階に店を構える新刊書店かもめブックス。もともとは、同地で別の書店が営業していたが廃業。近隣で校正会社を経営していた社長の柳下恭平氏が書店不況に危機感を覚え、「本に興味のない人にも来てもらえる書店を作らねば」という思いで2014年に創業した。書籍在庫数は約2万冊、売場は45坪。正社員4人とアルバイト5人が勤務する。
人が多く行き交う通りに面した店は、ガラス張りで開放的な作り。カフェスペースが店の前面を大きく占め、天候の良い季節はオープンテラスも活気づく。店前を通るとコーヒーを楽しむお客さんの賑わいが間近に感じられる。宮崎さんは「カフェ単体で独立できるくらいこだわっている」と話す。
京都で評判のロースター「WEEKENDERS COFFEE」と提携、豆のおいしさがコーヒー好きの間で人気を呼んでいる。機材についても本格的なものをそろえ、カフェスタッフにはバリスタを採用、研修にも力を入れる。プリンやスコーンを地元の人気洋菓子専門店「ACHO」から仕入れるなどスイーツにも妥協しない。
そしてカフェと同様に目を引くのが、入口近くに面陳で棚いっぱいに並べられた新刊雑誌だ。「雑誌は表紙が毎月違うため、売場の景色が変わって興味を引くことができる」と宮崎さんは話す。
さらに雑誌の前には、3週間ごとにテーマが変わる特集棚を設置。テーマごとに本を入れ替え、3週間という期間中に100冊ほどをすべて面陳か平積みで陳列する。「春がくる。なにする?インザハウス」「いざ、新生活」「戦争と日本」など、季節に合わせたものや時事的なものなど、多くの人が共感を得やすいテーマを設定している。
このように本に興味のない人の目を引く仕掛けが多く作られており、カフェのみ利用する人も多いが、コーヒーを求めたついでに書籍売り場に寄っていく客も少なくない。利益はカフェが5割、書籍・雑誌・コミックが合わせて5割(雑貨は微少)という割合になっている。
常設棚の選書は本好きも満足
カフェの奥へ進むと、書籍の常設棚、雑貨売場、コミック売場が続く。常設棚では、読みやすい本に加えて、普段からよく本を読む客が好みそうな本に比重を置いて選書を行う。
さらに個性を売りにした個人書店では見かけることの少ないコミックにおいても、メジャーなものをそろえつつ、コアなコミックファン向けの選書を意識することで常連獲得につながっていると言う。
このようなグラデーションのある選書が、幅広い層から支持を集める理由になっている。また、客の一人ひとりがどんな本を買っていったか観察を欠かさず、その情報を基に、取次からの見計らい配本は受けずに一冊一冊選んで注文している。
前述した多くの工夫と立地の良さ、さらに社長のメディア露出も多くPRに長けているということもあり、集客に困ることはあまりないという。しかし「来店してくれたお客さんの期待に応えられなければ、次の機会はない」と宮崎さんは話す。「選書やコーヒーに対する小さな満足の連続が、店を続けていくために必要だと感じている。その土台作りをこれからも大切にしていきたい」と語った。
□所在地:東京都新宿区矢来町123第一矢来ビル1階
□仕入れ:日本出版販売
宮崎麻紀さん
パルコブックセンター渋谷店に13年間勤務した後、2014年かもめブックスへオープニングスタッフとして入社。2017年から店長を務める
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