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第23回「小林秀雄賞・新潮ドキュメント賞」 小林賞に池谷裕二『夢を叶えるために脳はある』、ドキュメント賞に小沢慧一『南海トラフ地震の真実』

授賞した小沢さん(左)、池谷さん(右)

 新潮文芸振興会は、第23回小林秀雄賞に池谷裕二『夢を叶えるために脳はある 「私という現象」、高校生と脳を語り尽くす』(講談社)、第23回新潮ドキュメント賞に小沢慧一『南海トラフ地震の真実』(東京新聞)を選出。10月11日、 The Okura Tokyoにて贈呈式を行った。

 贈呈にあたり、新潮文芸振興会の佐藤隆信理事長は『夢を叶えるために脳はある』を「心と脳についての本で、難しそうだが、高校生を相手にしたことでとても分かりやすくなっている。興味深い思考実験で楽しく読め、ざわついた心がしだいに落ち着いていき耽読(たんどく)した」と評価。『南海トラフ地震の真実』についても「トラフ地震について、科学的なアプローチを行っている。その科学的な事実さえも行政の立場によって歪められてしまう恐ろしさを、具体的な事実を通して描いている。最後まで興味が尽きず読むことができる」と語った。

 小林秀雄賞の選考委員代表として登壇した哲学者の國分功一郎さんは、本作の取り上げる最新の脳科学自体が興味深く、ここから哲学の理論もさまざまに発展していくだろうと展望を述べつつ、最大の特長は高校生への講義録であることによって「教室という、ある種の演劇的空間によって完成した本。長大な推論により、夢でもあり現(うつつ)でもある、一つの物語が成立している。実に優れた書物であり、小林秀雄賞はこういう本に与えられるべき賞だ」と受賞を祝した。

 受賞した池谷さんは、「アクティブに参加してくれて、この本は彼らとの共著のようなもの」と、講義を受講していた高校生たちへの謝意を表した。さらに自身はクラシック音楽が好きで楽曲の構造を分析していることを明かし、「この本を作る時も同じ作業を行い、緻密な計算のもとに試行錯誤しながら、一つひとつの主題が関係性をもって彩をなすように作り上げた」と話した。

 新潮ドキュメント賞の選考委員を代表し、数学者の藤原正彦さんは、同作は大地震予測の根拠とされているデータの信頼性への疑問を詳述していると語り、同作の功績として「地震予測がいかにずさんな論文を基にしているかを暴いている。特に、古文書から資料としての価値のなさを明かしていく経緯はスリリングで、推理小説のよう。読み物としても面白い」と評価した。

 受賞した小沢さんは、昨年の菊池寛賞に続いての受賞であることから「この問題への認知は進んだのではないか」とする。さらに南海トラフ地震ばかりが注目されることで、ほかの地域で地震への意識が緩んでいる実状に言及。1月の能登半島地震を取材した経験からも「防災行政の危うさに問題意識をもち、今後も記者としてペンを取って指摘し、『まさか自分の地域で地震が起こるなんて』と嘆くことにならない社会になるための一助としたい」と述べた。

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