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「小学館児童出版文化賞」贈呈式 児童書3作品を表彰

後列は審査員諸氏。前列左から遠藤氏、文藝春秋・角田氏、みやこし氏

 小学館と日本児童教育振興財団は11月9日、第72回「小学館児童出版文化賞」の贈呈式を東京・一ツ橋の如水会館で開催した。

 受賞したのは、遠藤みえ子さんの『風さわぐ北のまちから 少女と家族の引き揚げ回想記』(佼成出版社)、住野よるさんの『恋とそれとあと全部』(文藝春秋)、みやこしあきこさんの『ちいさなトガリネズミ』(偕成社)。

 同賞は、児童出版文化の向上に貢献すると認められる作品および作家を毎年選定し顕彰するもの。今回は、22 年3月から23年2月までに発表された、絵本、童話、文学、その他(ノンフィクション・科学絵本・図鑑・事典など)の出版物で、幼年ならびに少年少女に推薦したい優れた作品を対象としている。

 贈呈式の冒頭、小学館・相賀信宏社長は「児童書を、児童だけではなく、大人の読者にこそ読んでもらいたいと考えている。大人たちがあらためて児童書の良さを知ることで、子どもたちにもその魅力が広がる。この賞がその一助になるよう、これからも支えていきたい」とあいさつ。

 審査委員の富安陽子氏は、『風さわぐ北のまちから 少女と家族の引き揚げ回想記』について、「奇跡としかいいようのない物語。本当に厳しい現実のなかでも、物語が温かいユーモアと視点に満ちていることに驚いた。極限状態にあっても〝人は人にやさしくありたい″という大切なメッセージを受け取った。分断が進む今の世の中だからこそ、これからを生きる子どもたちに一人でも多く読んでほしい」と評価した。

 続いて審査委員の森絵都氏が『恋とそれとあと全部』について、「選評会では、まず住野さんの言葉のセンスと会話の楽しさに高い評価が集まった」と明かし、「小説の面白さは決まりきったパターンから逸脱した部分にあるのではないか。この作品には、そうした独自性があり、同時に人の心を描くという小説の原点があった」と評価。

 『ちいさなトガリネズミ』について、審査委員の鈴木のりたけ氏は「光と影を巧みに描く画風が、みやこしさんの真骨頂。陰影、立体をやわらかく描くことで、心が通った小動物がそこにいるという心理的な近さを読者に感じさせる」と作画を高く評価。ストーリーについても「日々の出来事に温かい視線を持ち続けることで小さい幸せの積み重ねができていく。それこそが人生の意味。子どもたちの心にも、描かれる世界が愛に満ちていることは残ると思うので、多くの子どもたちに手に取ってほしい」と語った。

 受賞者のあいさつでは、遠藤さんが「78年も前の引揚げ話ですが、戦争の後始末の物語を若い人たちに知ってほしい。もし自分がその立場にいたら、どうしただろうか、どう感じただろうかと思いを巡らせて、考える力を育んでもらえたらうれしい」と語った。

 続いて欠席した住野さんのコメントを、文藝春秋・角田文彦氏が代読。「私自身、少年少女といわれる年齢のころに出会った作品たちに感化され、小説家になった。10代の彼ら彼女らに届く物語だと思ってもらえたことが自分にとって大きな意味がある」とし、「これからも、子どもたちが小説を読み始めるきっかけとなるような物語を目指し、書き続けたい」と抱負を述べた。

 みやこしさんは、「ここ数年、環境が大きく変わり、落ち着かない日々のなか、版画で描いていた原画をこのままではとても終わらないと、全部一から手描きで描き直したことがいちばん大変だったが、ようやく出版することができた。周りの方々の協力に恵まれ、素晴らしい賞を受賞できて心から光栄」と感謝の意を表した。

 受賞者には、正賞としてブロンズ像「わかば」(笹戸千津子作)、副賞として賞金100万円が贈られた。

あいさつする相賀社長と正賞のブロンズ像


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