KADOKAWAは11月22日、第14回「山田風太郎賞」と第43回「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」の贈賞式を、東京・千代田区の東京會舘で開催した。
山田風太郎賞は前川ほまれさんの『藍色時刻の君たちは』(東京創元社)が受賞。横溝正史ミステリ&ホラー大賞は北沢陶さんの『をんごく』(KADOKAWA)が、同賞史上初めて〈大賞〉〈読者賞〉〈カクヨム賞〉の3冠を射止めた。「小説 野性時代 新人賞」は、今回該当作がなかった。
山田風太郎賞について、選考委員の一人、浅井まかて氏は「ヤングケアラーの孤独、彼らの現実、過酷が伝わってくる物語。その結末は、作者としても非常に覚悟がいることだったと思うが、とても誠実に、逃げることなく、真の解放の物語を書ききっている。震災を描いた作品として出色のものになった。選考では最初から頭ひとつ、ふたつ抜けていて、そのまま最後まで突っ走った」と高く評価した。
受賞した前川さんは、現在も看護師として勤務を続けながら作家としての活動を行っている。受賞作について「コロナ禍の先の見えないつらい時期に書いた、自身にとっても印象深い作品。いつかこの物語を当事者たちが読んだとき、『全然違う』と幻滅させない小説にしたい、その強い思いに動かされて最後まで書ききれた」と振り返り、「作家における後悔が最後の言葉にならないように、これからも原稿用紙の前で魂を燃やしていきたい」と執筆への思いを語った。
続いて、横溝正史ミステリ&ホラー賞の選考委員である黒川博行氏が『をんごく』を講評。「文章がとにかくうまい。とくにセリフが秀逸で、大阪の船場ことばを適確に使いこなしている。登場人物たちのキャラクターも素晴らしい。ものすごい大型新人が出てきた。同じ大阪人としてもうれしく、今後の作品に期待したい」と絶賛した。
受賞した北沢さんは、大正時代の大阪を舞台にした本作について「船場ことばは大阪弁の力、それを育んできた大阪の歴史と文化は、この作品の陰の主人公。大阪の地にも感謝と敬意を捧げたい」と語ったうえで、「この作品に織り込んだ主題〝近しい人との別れ〟は、多くの方が実際に体験する普遍的なテーマで、時代や場所を超えて通じるものではないか。読んだ方々が少しでも主人公に共感してくれたら、作者として書いて良かったと思う」と述べ、「この賞をいただいたことで、今まで見たことのない世界を目にしている。このような出会いを大事にし、また新しい出会いがあることを願っている」と喜びを表した。
贈賞後、KADOKAWAの山下直久社長が「4年ぶりに晴れやかな贈賞式を開催でき、感謝する」とあいさつ。前川さんについて、「この作品にかける思いに、同じ東北出身者として胸を熱くした。誠実な人柄と、社会全体が当事者であると感じさせる作品を発表してきた作者が、この賞を機にますます飛躍されることを祈る」と話し、北沢さんについては、「大正時代の大阪という、まったく行ったこともない世界なのに、巧みな文章にすぐ引き込まれた。初の〈大賞〉〈読者賞〉〈カクヨム賞〉のトリプル受賞にふさわしい。次の北沢ワールドを楽しみにしている」とそれぞれを激励した。
最後に、「いまKADOKAWAでは、この『角川三賞』に象徴されるような文芸出版部門に多角的に取り組んでいる。小説やコミックの楽しみ方が多様化するなか、デジタル面を強化しつつも、やはりKADOKAWAの基本事業として伝統ある紙の出版事業を大事にしながら、今後も出版界全体のために尽力していきたい」と締めくくった。
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