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第9回「渡辺淳一文学賞」 塩田武士さん『存在のすべてを』受賞

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 集英社と一ツ橋綜合財団が主催する渡辺淳一文学賞の贈賞式が5月17日、東京・港区で開かれ、受賞した『存在のすべてを』(朝日新聞出版)の著者・塩田武士さんに集英社・廣野眞一社長から賞状や記念品、賞金が贈られた。

 同賞は、昭和・平成を代表する作家であり、豊富で多彩な作品世界を多岐にわたり生み出した渡辺淳一氏の功績をたたえ、純文学・大衆文学の枠を超えた、人間心理に深く迫る豊潤な物語性を持った小説を顕彰するもの。第9回となる今回の受賞作『存在のすべてを』は、長く未解決のままとなっていた二児同時誘拐事件の真相に新聞記者が迫ろうとする社会派ミステリーだ。

 選考委員を代表して講評を述べた高樹のぶ子氏は、作中で登場人物が語った「世界から『存在』が失われていくとき、必ず写実の絵が求められる」という言葉がこの小説のキーセンテンスと指摘し、「この言葉をもったということで、塩田さんは小説の柱、大義をもって作品を書ける方だと信頼できる」と評価。そして、「世界中から情報は入ってきても存在は共有できにくい時代になり、リアルなものに対して鈍感になっていくようだ。その先に広がっている大きな闇に、塩田さんにはこれからもう一歩入り込み、追求していってほしい」と今後にいっそうの期待をこめて激励した。

 続いてあいさつに立った塩田さんは、受賞の一報を受けた日について「本当にうれしくて、本来なら連載の原稿を必死に書いていなければならない時期だったが、この受賞式に間に合わせるため大急ぎでテーラーに行き、スーツの採寸をしていた」と明かし、会場に笑顔が広がった。そして、高樹氏のメッセージに呼応するように「インターネット以後の世界では、虚実の境界がますます曖昧になっている。来るべきメタバースの時代にはアカウントやアバターなどに接している時間が長くなり、それが進むと実の部分が軽視されていくのではないだろうか」と危機感を示した。

 そのうえで「ずっと虚と実の間に何があるのかを考え、その間にあるものに引かれてきた」ことで執筆を続けてきたとも話し、創作の過程では「虚と実にいろいろなことを置き換え、一つひとつ取材と構想という形で行ったり来たりして、小説の幹がいかに太くなるかを考えて書いている」と明かした。今作もそんな四苦八苦の末に生み出されたといい、「最後に原稿に了の字が打てただけでもうれしいが、この賞をいただけて本当に幸せだと思う」と語り、関係者や読者に向けて感謝を伝えた。

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