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【トーハン会代表者総会】近藤社長 出版社の流通コスト負担強く求める

書店、出版社など270人が参加した2024年度全国トーハン会代表者総会

 トーハンは4月24日、東京・文京区のホテル椿山荘東京で「2024年度全国トーハン会代表者総会」を開き、近藤敏貴社長は前年度で終了した中期経営計画について「弊社は生まれ変わることができた」と評価する一方で、取次事業は赤字が続いていることや、国が基準運賃を引き上げるなど輸送環境が悪化としていることをあげ、出版社に対して応分の負担を求める考えを強調した。

 代表者総会にはトーハンの取引書店70人、出版社など200人が参加。はじめに「全社方針」の説明に立った近藤社長は、中期経営計画「REBORN」最終年度の2023年度業績について、単体売上高が前期比97.1%の3705億円、単体経常利益が前期と同じ6億円、連結経常利益が前期より8億2000万円増の11億7000万円との見通しを示した。

 そのうえで、「REBORN」を進めた5年間について、売上高は5年連続で計画を上回り、単体経常利益は取次事業の苦境が続きながら黒字を計上したことなどをあげ、①マーケットイン型出版流通の形を提示②25年ぶりに取次首位の座についた③5年連続で売上を維持し、単体・連結とも黒字を確保したことを成果としてあげ、「積み残した問題もあるし、新たに対策を打たなければならないこともある。しかし、弊社は生まれ変わることができたと思う。この5年間で育まれてきた可能性を次のステージである中計『BEYOND(ビヨンド)』に繋いでいく」と述べた。

 一方で、取次事業は23年度に15億円の赤字となり、不動産事業の利益18億円でカバーして黒字を確保したと報告。「取次事業は5年連続の構造的赤字の状態で、ビジネスとしては異常と言わざるを得ない」と指摘。「グループとして取次事業に大きく偏った事業構成はリスクであると認識している。もう1つの収益の柱となる新規事業の開発が急務」と強調した。

 さらに、輸送コストの高騰について、国土交通省の基準運賃引き上げや公正取引委員会の価格転嫁のガイドラインなどをあげ、出版社に対して「出版流通を維持するためのコストについては、応分の負担を強くお願いする」と要請した(出版流通問題の発言要旨は下に掲載)

 続いてトーハン会を代表して京都トーハン会代表世話人の村田清氏(村田舞鶴堂)があいさつ。全国トーハン会プレミアムセール2023表彰では、外商商品の「プレミアムセール2023」で1位京都トーハン会の村田代表世話人、2位東北トーハン会宮城支部の阿部博昭支部長(ヤマト屋)、3位熊本トーハン会の宮﨑容一会長(宮﨑一心堂)、店売商品の「プレミアムプラス2023」で1位北海道トーハン会の山田大介会長(ダイヤ書房)が壇上に上がり、近藤社長から表彰を受けた。

 この後、川上浩明副社長による「2024年度トーハン全社方針・TOHAN COMPASS」の説明が行われ、川上副社長は方針として①マーケットイン型出版流通(シン・出版流通モデル)のさらなる高度化を通じ、無書店エリア拡大に歯止めをかける②非効率的なルール、不利益取引等の是正、サプライチェーン上の収益構造の抜本的見直し③2025年大型取引移行、雑誌流通・雑誌文化維持のための販売イノベーション―を示し、今期からの中計「BEYOND」の基本方針として「本業改革」と「事業領域の拡大」をあげた。

 懇親会では近藤社長が書店議連や経済産業省の書店支援プロジェクトチームなどの動向に触れてあいさつ。出版社を代表して集英社・廣野眞一社長があいさつし、東北トーハン会宮城支部・阿部支部長が乾杯を発声。最後に川上副社長が中締めを行った。

【近藤社長の出版流通問題の発言要旨】

出版社へのコスト負担を強い口調で求めた近藤社長

 輸配送に関わるコストは依然として高騰を続けている。1キログラムあたりの運賃単価は、2011年から現在まで2倍近い金額まで上昇している。

 弊社では、様々な形で出版社に流通コストの応分の負担をお願いしているが、要請している基準単価は35.33円。これは2019年の単価を元にしている。この基準単価を据え置いていくこと、そして満額回答いただいていない出版社がまだ残っていることが取引事業赤字の大きな要因。

 流通問題は全産業的な問題であって、2024年問題を見据えて数年前から国や行政も状況の改善に向けて大きく動き始めている。

 国土交通省では令和2年、トラック輸送に関する具体的な運賃金額を明示した標準的な運賃のガイドラインを定めている。令和6年3月にはその基準をさらに8%引きあげた。これは政府の方針として、運賃基準を引き上げるという強い意思表示。

 実際、弊社が年間10億円近い運賃を支払っている大手運送会社から、国交省が示す標準的な運賃を出版流通に当てはめると現行の倍以上、実額で11億円の運賃値上げになるという話があり、現在、それに基づく強烈な運賃値上げ要請を受けている。

 国交省のガイドラインによれば、直近の出版物運賃単価のさらに倍以上の単価が標準であると国がいっている。このレベルのコスト増を弊社の自助努力のみで吸収することは、はっきり申し上げて不可能。

 出版流通ネットワークは戦後以来、守ってきたインフラ。その上に今日の出版文化と書店文化が成立している。現行制度の維持が困難である以上、抜本的構造改革が不可避であることは明らか。

 本日ご参集の皆様には、こうした状況をご理解いただいており、大変ありがたく思う。しかし、残念ながら、依然として理解をいただけていない取引先があることも事実。

 出版流通ネットワークを維持するコストは、公平性、公正性の観点から、決して一部の取引関係者のみで負担すべきものではない。弊社としても、数十年前に決めた単価での継続利用をこれ以上看過することはできない。出版流通を維持するためのコストについては、応分の負担を強くお願いする。

出版社は準荷主として義務負う

 公正取引委員会でも、サプライチェーン上の諸コストの上昇について、サプライチェーン全体で適切に価格へ転嫁していくことを促すガイドラインを作成している。

 コスト上昇分の価格への反映について、価格の交渉の場において協議することなく、従来通りの取引価格を据え置くことは、優越的地位の乱用になる恐れがあると明示している。

 これ受けて、取次は荷主として輸送会社からの要請に答える義務がある。一方、我々にとっての荷主は出版社。出版社にも荷主としての義務がある。法律上、出版社は輸送会社にとっては準荷主という明確な規定になっている。これは覚えておいていただきたい。

 他産業では通常、値上がりした流通コストを価格に転嫁することで賄っている。しかし、再販制度下の出版業界では価格決定権は出版社にあり、流通側、小売側がコストを販売価格に転嫁することはできない。そうである以上、コストの増額分を出版社に求めることは正当な商行為であると考える。

 また、仮に出版社が定価の値上げを実施したとしても、高騰を続ける経費を継続的に賄うためには、合わせて現行マージン率の見直しをお願いしなければならない取引先もでてくる。

 そもそも、粗利の段階で赤字であるような取引も依然として存在している。経費がかつてない勢いで上昇している。そのような現状で、そもそもサプライチェーン上のコスト負担、収益構造が昔のまま変わっていない、現在の水準に見合っていないことが業界の根本的な問題であり、これが出版流通ネットワークの危機的状況を招いている。

 このまま、出版流通ネットワークが機能しなくなってしまえば、業界の誰も得はしない。いずれ日本の文化水準は大きく後退することになる。

 我々は、このような具体的なガイドラインが政府から示されたという意味を深く受け止めている。出版流通を未来につなげる使命を果たすために、引き続きの交渉と赤字取引の是正に覚悟をもって取り組んで参る所存。これまでとは全く違う次元、別のステージに入ってしまったいうことを認識いただきたい。

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