日経BPが5月13日に発行した新刊『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか? 認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策』──。『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(中公新書)などの著書で有名な今井むつみ氏が初めて書いたビジネス書ということもあって、リアル、ネット両書店で好調な売れ行きを続けている。初版1万部でスタートし、すぐに6刷5万5000部に到達。ヒットにいたる背景などを聞いた。
【増田朋】
ビジネスの現場で、学校で、家庭で…。伝えたいことが相手にうまく伝わらなかったという経験は、誰にでもあることだろう。ただ、こういったことが起こるのは、「言い方」ではなく「心の読み方」が間違っているからだという。「本書では、私たちが抱えているコミュニケーションの困り事について、認知科学と心理学の視点から、その本質と解決策について考えていきます」(本書「はじめに」から)。
著者の今井さんは現在、慶應義塾大学環境情報学部教授を務めており、専門は認知科学、言語心理学、発達心理学。主な著書に『ことばと思考』『学びとは何か』『英語独習法』(岩波新書)、『言葉をおぼえるしくみ』(ちくま学芸文庫)、『算数文章題が解けない子どもたち』(岩波書店)などがある。国際認知科学会、日本認知科学会フェロー。
本書のメインターゲットはビジネスパーソンだが、認知科学や心理学に興味を持っている人、子どもたちとの向き合い方を日々考える教員、パートナーや子ども、友人など自分に近しい人との関係をもっと良くしたいという人ら、普段はビジネス書を手に取ることがないような人にも読者は広がっている。
その理由について、担当編集の日経BOOKSユニット・第1編集部の宮本沙織氏は、「これまでも『伝え方』や『話し方』『説明の仕方』を教えるような書籍はたくさん出ているが、本書はいわゆる(よりよい言い方を教えるような)『ハウツー』本とは違う」ことを挙げる。
「天動説を信じる人に、動いているのは地球の方であることを、いくら言い方を変えて説明しても、理解はなかなか得られない」という例えが分かりやすい。「ビジネスや学校などさまざまな場面で、何度説明しても相手にうまく伝わらない。それは『言い方』が間違っているのではなく、その時に人間の心の裏で何が起こっているのかを、認知科学や心理学の視点から解説している」のが本書だ。
といっても、何も難しいことばかりが書かれているわけではない。そういった人間の〝本質〟を理解したうえで、コミュニケーションの達人への取材を通して、すぐに取り組むことができる「解決策」も数多く掲載しているのは、ビジネス書ならではと言えるだろう。
「リアル書店での売上比率も高い」
『言語の本質』の著者が書く初めてのビジネス書ということもあり、発売前から書店からの注目も高かったという。日経BPリテールマーケティング部次長の小谷佳央氏によると、「4月に開催した日経特約書店会で本書の発売を紹介したところ、今井さんの知名度もあって、たくさんの注文をいただいた。5月の発売後も各書店がとても良い展開をしてもらっている」と感謝する。実際、他の本と比べてリアル書店の売上比率も高い。初版1万部で、発売直後に1万部の増刷を即決。それ以降も、毎週のように増刷するなど売れ行き好調が続いている。
さらに、日経BPのデジタルメディア「日経BOOKプラス」でこの本を紹介するコンテンツも、スタートダッシュに拍車をかけた。日経BOOKプラス内には、おすすめの本の「はじめに」と「目次」を紹介する「まいにち『はじめに』」という新刊紹介コーナーがある。その本の「はじめに」を読むことで、その魅力に引き込まれ、手にとって読みたくなるしかけだ。
小谷氏は「日経BOOKプラスの認知・閲覧が増えていることもあって、この『はじめに』を読んで買ってくれる人もけっこう増えてきている。中でも、とりわけ本書の『はじめに』は多く読まれているし、さらにそれが購買につながっているという結果が顕著に表われている」と明かす。
今後も本書のPRを進める。6月末にはJR東日本の交通広告で掲出。また、新聞広告も多数掲出予定。日経BOOKSプラスでも、著者インタビューなど本書を紹介するコンテンツを増やしていく。
「コミュニケーションに悩んでいる人は性別、年齢を問わず、いつの時代もたくさんいらっしゃる。そんな人たちにこの本を手にとってもらい、その本質と解決策をさぐってもらえたら」と宮本氏。書店にも「これからもビジネス書コーナーでしっかりと展開していただきたい。また、子どもたちと接する方が多く訪れる児童書コーナーでの展開もご検討いただけるとうれしい」と呼びかける。
小谷氏も「当社から最近出た『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか 〝ゆるい職場〟時代の人材育成の科学』(23年11月発売)や、『「指示通り」ができない人たち(日経プレミアシリーズ)』(24年3月発売)といったコミュニケーションをテーマにした書籍が売れている。時代はアフターコロナへと移り、新たなコミュニケーションのかたちを模索し、考える人たちも増えている。そういった時だからこそ、書店での売り場展開がカギになるのでは」と提案する。
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