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インタビュー

『今日拾った言葉たち』(暮しの手帖社)/武田砂鉄さんに聞く 『暮しの手帖』の人気連載を書籍化! 世の中で消費される言葉たちを拾う

武田砂鉄さん 写真:暮しの手帖社提供

2016年に始まった武田砂鉄さんによる『暮しの手帖』での連載を書籍化した『今日拾った言葉たち』が、9月15日取次搬入で発売される。新聞やSNS、テレビなど、日常にあふれている言葉の中から、武田さんが気になったものをピックアップし、当時の出来事を交えながら論ずる。新型コロナウイルスやロシア・ウクライナ戦争を経験した今、武田さんはこの本を通じて何を投げかけるのか。(聞き手:山口高範)


四六判並製/240㌻/定価1870円

複数の著作を持ち、数誌での連載を抱える武田さん。音楽雑誌での投稿や連載がライターとしてのスタートだという。

 もともと音楽が好きで、ライターという仕事に憧れもあったので、学生時代から音楽雑誌に投稿してました。『ビートレッグマガジン』という雑誌では、連載もやらせてもらい、卒業して河出書房新社に入社してからも、編集業のかたわら、会社には内緒でライターを続けていました。それがライターデビューのきっかけです。

 『ビートレッグマガジン』は音楽雑誌が不況のなか、編集と営業の二人だけで黒字経営していて、でも営業の方が急逝されてしまったことで、廃刊になってしまったんです。

 そこでベテランの音楽ライターさんと知り合いになったり、飲みに行ったりして、ご一緒できることがとても誇らしかった。今この仕事ができているのも、『ビートレッグマガジン』とそのお二人がいたからこそで、本当に感謝しています。

イラストや一言コメントも収録

言葉が消費されることへのもどかしさ

武田さんによる初の著作『紋切型社会』が、この連載を始めたきっかけだという。

 『紋切型社会』は、世の中にあふれている、自分が気になる言葉を入り口に、様々な評論を展開した本です。政治家の発言やメディアが発信する言葉というのは、次から次へと流れていっては、消費されてしまう。そのことに対するもどかしさを常に感じていたので、その流れていく言葉を2カ月に1回刊行される『暮しの手帖』の連載で紹介・論評することで、読者が雑誌を手にしたときに、少し前にあった出来事や言葉についてじっくり考えてもらおう、というのが連載開始時の方針でした。

 『暮しの手帖』には、雑誌としてのコンセプトが、他の雑誌よりも強いように感じます。ですからこの雑誌で連載を書くにあたっては、その全体の編集方針を受け止めながらどういう構成にすべきか、今でも意識しながら書いていますね。

「体に悪いもの」も摂取する

ピックアップされている言葉は、新聞の記事やSNSでのコメント、本の一節など、対象となるメディアは多岐に渡る。どのように情報収集しているのか。

 情報収集するときも、意識的に決まったメディアや媒体にアクセスするということではなく、むしろ自然と目に入ってくるものであったり、日ごろ読むことはない本を選んだり、あまりかたよらないように心がけてはいます。

 ワイドショーや興味のないドラマも見ますし、何と言うか「体に悪いもの」も摂取しないとなという気持ちはありますね。それこそ今(8月16日現在)、自民党の杉田水脈議員が話題ですが、彼女の本や雑誌原稿も持っていますので、買っといてよかったなと思います。

 またTwitterでも、興味のある人のことをあえてフォローしなかったり、逆にそこまで知りたくない人をフォローしたりと、入ってくる情報は「まだら」にしておきたいというのがあって、タイムライン上の情報をある程度「どうでもいい」状態にしておくことが大切だと思いますね。

 言葉選びについては、自分が気になった新聞を切り取ったり、本だったら付箋をいくつも貼ったり、編集部から気になる言葉を出してもらったりして、いくつか候補を出しておいて、そこから取捨選択しています。ただ選択するにあたっては、バランスは意識しています。政治的な話題だけにしないとか、厳しい指摘をする部分もある一方で、言葉だけを堪能するということがあってもいいと思いながら選んでいます。

毎日、本屋に通うという武田さん。また本書の中には、本屋について触れている言葉もある。武田さんにとって本屋とは。

 当然、本屋には自分とはまったく正反対、真逆の考え方の本があります。いいことも悪いことも、好きなことも興味がないこともあって、世の中の血の流れみたいなものを感じる場所です。そういう場所というのは他にはなくて、だから本屋という空間・環境をすごく大事にしています。

 また編集者時代に社長から「書店でどう置かれるか予測して本を作れ。そのうえで実際にどう置かれているかを確認しに行け」と教えられました。ですから今でも自分の本はもちろんですが、新しく出た本の展開のされ方をチェックしていますね。例えばこの本屋はネットで乱暴なことを言っているだけの人の本を前面に押し出しちゃうんだ、とか(笑)。まあ売れるから当然、置くんだとは思うんですけど。

音楽もCDで聴くという武田さん。本についても電子書籍は買ったことがないという。

 そもそも「紙の本」という言い方がおかしい。「本は本でしょ」と思う。それはリアル書店という言い方に違和感があるのと同じで、「本=紙の本」で、それって当然のことなんです。本は好きなページにすぐ行き着くことができるし、いくらでも書き込んで汚せるし、電子書籍なんかよりも便利です。

 本って編集者やデザイナーが作って、印刷して、製本して、取次会社に入って、本屋に届く。その長旅感がいいじゃないですか。ですから、長い旅を経て、手にした本を現物として持って、それを大切に開いて読んでいくことが大事だと思います。古い考え方かもしれないですけどね。

暮しが軽蔑されている

数々の言葉に対する武田さんの論評は、日ごろ忘れがちな視点を思い出させてくれる。

 コロナがあって、今年は戦争もあって、それが今でも続いています。そういう中で「全然、余裕でしたよ」なんて言える人は一人もいない。だからこの本を読んで、心が洗われるとか、清らかになるということはないとは思うんですけど、自分の中にある「成分」みたいなものを再確認するというか、その足がかりになってくれればと思いますね。

 この本のまえがきにも書いたんですが、暮しの手帖社の創業者・花森安治氏の「暮しを軽蔑する人間は、そのことだけで、軽蔑に値するのである」という言葉があって、今まさに暮しが軽蔑されているように感じます。

 暮しを軽蔑する人は誰かの言葉に耳を傾けない人だし、自分の言葉を押しつけます。ここに収められている言葉たちというのは、いいものも悪いものもある。僕たちの暮しはそういう言葉で回っているし、それによって傷つくこともあれば、救われることだってある。そのことを体感してもらえればと思いますね。


武田 砂鉄(たけだ さてつ)
 1982年、東京都生まれ。出版社勤務を経て、2014年よりライターに。新聞への寄稿や、幅広いメディアでの連載を多数執筆し、事件、事故、社会問題への違和感を追及し続けている。近年は、ラジオ番組のパーソナリティとしても活躍する。著書に『日本の気配』(晶文社、のちに筑摩書房)、『マチズモを削り取れ』(集英社)、『べつに怒ってない』(筑摩書房)などがある。

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