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インタビュー

『みどりのほし』(童心社)/林木林さんに聞く

夏みかんのヘタ、傘の穴に差し込む木漏れ日…
小さな発見から広がる生命のきらめきを描く

詩人として、絵本作家として活躍する林木林さんが、7月9日搬入で『みどりのほし』を童心社から刊行する。本作は、男の子が夏みかんのてっぺんに、星形をしたヘタを見つけたところから始まる。畑の野菜、青紅葉の茂み、その中を駆け抜ける疾走感、さらにその先にあるものは…ページを開けば、瞬く間に生命の息吹きがあふれ出る。林さんの詩のような言葉と、長谷川義史さんによるのびやかでダイナミックな絵で、読者を引き込む作品だ。(聞き手 山口高範)

もともと童謡も好きだったという林さん。本作につながったのは、ある童謡詩の賞で優秀賞を受賞した詩だという。

 童謡「ぞうさん」などで知られる、詩人まど・みちおさんの詩のように、「この世のあらゆるものには、個性と生命が宿っている」という世界観を持つ詩を賞する「こどもの詩 周南賞」に応募した詩「みどりのほし」が、2011年に優秀賞をいただき、その詩に込めた想いや発見を、今回、絵本にしました。
 賞の審査員には、本作で絵を描いてくださった長谷川義史さんもいらっしゃったんですが、当時は一緒に絵本を作ることになるとは、夢にも思いませんでした。

詩の世界を広げる画家・長谷川義史

長谷川さんに絵をお願いしたいと思ったのは、その縁があってのことだけではなく、長谷川さんの表現に魅かれてのことだと、林さんは言う。

 詩を説明するような絵でも、幻想的でメルヘンチックな絵でも、この作品には合わないと思いました。長谷川さんの絵は、言葉をただ説明するのではなく、その世界観、イメージを広げてくれる、飛躍してくれる、そんな絵なんです。でも、ちゃんと「地に足が着いた」リアリティがあります。
 男の子の視点から描かれている本作でも、その心の弾み、在り様などを表現してくださいました。このように描いていただける画家さんは、なかなかいないのではないでしょうか。
 長谷川さんに絵本の原稿として見ていただくために、事前に編集の方と綿密にやり取りをしました。もとになった詩は「童謡のための」詩なので、メロディとともに広がります(本作巻末に、谷川賢作さんが作曲した楽譜とともに掲載)。やはり「絵本のための」言葉とはまったく別もの。ページをめくったとき、流れやリズムを生み出す言葉にしなければならない。どんな展開がいいか試行錯誤し、何度も書き直しを重ねて、一応、場面割りも考えたうえで、長谷川さんにお見せしました。

「みかんのヘタ」の先にあるもの

林さんはあるとき「みかんのヘタ」を見た瞬間、「みどりのほし」という「言葉」が浮かんできたという。「みどりのほし」とは一体、何なのか。

 例えば、1本の樹。そこにはいろいろな命が生きていて、小さな宇宙が成り立っている。例えば、破れた葉っぱ。一見、ボロボロで、汚くて、傷ついているように見えるかもしれないけど、よく見ると、そこに日の光が降りそそいで木漏れ日となり、他の葉っぱに小さな陽だまりを作っている。そういう光景を目にすると、自然に大切なことを教えてもらっているような気がします。
 みかんの「みどりのほし」を見つけた瞬間も同じでした。「あれ?レモンにもあるな」、「おや?イチゴにもあるな」と、どんどん「みどりのほし」を見つけて…「みどりの地球で生まれたよ」と、くだものや野菜が言っているような気がしたんです。人間だけじゃなくて、いろいろな命が地球の中にいる。そういう発見というか…
こうやってみんな、地球で生きているんだな、と実感させてくれたように思います。だからタイトルもそのまま、『みどりのほし』にしました。とても豊かな気持ちにしてもらった、私が感じた、その素敵な感覚を読者のみなさんにも味わっていただけたらな、と思いました。

▲お話は、男の子の小さな発見から始まる

「物語絵本」とは異なり、詩的に描く絵本ならではの創作の大変さもあったという。

 「物語絵本」は「語る」ことで進む一面があり、それが難しい一面でもあります。それとは違った難しさが、本作にはありました。
 物語を進めていく具体的な発見と、男の子のイメージの世界。それぞれが寄りすぎず、離れすぎず、足りなさすぎず、二つの要素を1冊の絵本として、バランスをとりながら融合していくそのあんばいが、とても大変でした。
 本作の中に「あまのがわを ぼくは はしる」という場面があるんですが、どこで改行するか、どこに1行空きを作るかでもリズムが変わるので、こだわりました。この場面では、「はしる はしる」を強調するために、その前で1行空けています。目で文字を見るのではなく、「音」で聞いたとき、子どもたちにそのイメージを感じ取ってもらえるように、自分でも声を出しながら考えています。

▲男の子が駆け抜ける、疾走感あふれる場面

大根を切っているときに浮かぶ「言葉」

今回のタイトル『みどりのほし』のように、あるとき、ある瞬間、林さんは「言葉」が湧いてくるという。

 もともと言葉遊びも好きで、ダジャレや回文も含めて、「言葉」がいつもふっと湧いてきたり、浮かんできたりします。洗濯物をたたんでいるとき、お皿を洗っているとき、大根を切っているときに、急に浮かんでくる、なんてこともあります(笑)。そういうときに浮かんだ「言葉」は、いつも頭のどこかに引っかかっていて、それがいつか、作品のもとになったらいいなと思ったりしますね。

日常的に「言葉」と戯れる林さん。自身が生み出す「言葉」のみで創作する詩と、画家との合作で創作する「絵本」との違いについて聞いた。

 私の詩は「絵が浮かびますね」とよく言っていただくのですが、絵本の場合は、絵は画家の方が表現してくださいます。ときには、絵と同じことを表現している、自分のお気に入りのフレーズや「言葉」をいかすのか、削るのか、悩むこともありますが、自分にはなかった世界が広がっていくという面白さもあります。
 画家の方も十人十色で、同じ詩や文章を題材にしていたとしても、まったく同じ作品にはならない。その楽しさは詩単体での表現にはありません。画家の方と一緒に創りあげていくことで、まったく違う詩が生まれることもありますし、化学反応がいい意味で起こって、作品世界やイメージがさらに広がることもあります。本作でも、そうしたわくわくする体験ができました。
 今まで60作以上の絵本に携わってきましたが、これからも言葉の楽しさを伝えられるような作品を作りたいですし、詩に関する本も出していきたい。今までこんなの見たことない、というような作品にも挑戦していきたいですね。

251ミリ×256ミリ/32ページ/本体1500円

林木林(はやしきりん)

山口県生まれ。詩人、絵本作家、作詞家。「夕焼け」で詩と思想新人賞を受賞。詩集に『植星鉢(ぷらねたぷらんた)』(土曜美術社)、絵本に『どんなふうにみえるの?』(鈴木出版)『せかいいちのいちご』(小さい書房)『ダジャレーヌちゃん 世界のたび』(303 BOOKS)など多数ある。『ひだまり』(光村教育図書)で産経児童出版文化賞産経新聞社賞を受賞。

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