『宇宙兄弟』題材の自己分析本が10万部!
キャラクターと名シーンで説くFFS理論とは
日経BPが6月に刊行し、8刷10万部となった『宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる あなたの知らないあなたの強み』。本書はソニーやLINEなどが採用しているFFS理論(開発者・小林惠智博士)を、人気コミック『宇宙兄弟』(講談社)のキャラクターや名シーンとともに、わかりやすく解説する。「個性」というあいまいなものを科学的に分析し、自己理解、他者理解を深めるFFS理論と、『宇宙兄弟』の親和性の高さなどについて、著者・古野俊幸氏に聞いた。 (聞き手 山口高範)
『宇宙兄弟』の作者、小山宙哉氏がエージェント契約を結んでいるコルクと古野氏とのコラボから、本書企画はスタートしたという。
コルクがもともと、FFS理論を採用していただいていて、『宇宙兄弟』のファンクラブをもっと活性化させようと、ファンクラブ向けのFFS勉強会を実施したんです。
ムッタ(=主人公・南波六太)をはじめ主要キャラだけでなく、「〇〇は凝縮性が強いよね」、「では□□はどうだろう」など、とにかくマニアックなキャラまで分析するような雰囲気で、とても盛り上がったんですね。
そこでコルク代表の佐渡島(庸平)さんが、『宇宙兄弟』を通じて、FFS理論の説明を聞くと、とても腑に落ちやすいと仰って、それがきっかけで企画がスタートしました。
まずは日経ビジネスオンラインで連載を始めたんですが、その際、今のビジネスパーソンや就活生が悩む課題に合うキャラクターとシーンを取り上げて、具体的な解決策も提示しました。その中で反響の大きかった記事を選りすぐったものが、本書のベースになっています。
他者理解にも活用できる理論
自己分析に関連する書籍は世の中にあふれている。本書はそれらとどう違い、どういった特徴があるのか。
FFS理論は、保全性、拡散性など、人間性を5つの要素に区別し、独自の診断表に基づいて、各項目の点数を算出します。その上位2位、ないしは3位までがその人の個性を現わすといったもので、特徴としては2つの側面があります。
1つ目は自己分析です。一般的な自己分析とは異なり、FFS理論は自身の「弱さ」を克服することを目的としていません。というよりも、当人にとって、「強さ」と「弱さ」は表裏一体で、その「弱さ」を克服しようとしても、到底無理なんです。ビジネスパーソンは弱点を克服しようとする傾向が強いですが、その弱い部分は他の誰かに任せてあげればいい。
まさに、これが2つ目の特徴になるんですが、だからこそ弱い部分、足らない部分を互いが補完しあう関係性が大事です。
自己分析であると同時に、「他者」への理解を深める、「他者」の得意としている性質を見極める、つまりマネジメントやチームビルディングにおいても有効に発揮するのが、このFFS理論の特徴です。
一方で、この理論はいわゆる「ストレス理論」です。ストレスは否定的な意味で使われることが多いですが、人を刺激する因子で、それが過剰であっても、少なすぎても本人にとってはよくない。つまりストレス自体がいいとか悪いということではなく、人にとっては必要不可欠なもので、その程度により、それはいいストレス(=ユーストレス)にもなり、悪いストレス(=ディストレス)にもなるということです。
5タイプに分かれる個性とその特徴
個性は、保全性、拡散性、受容性、凝縮性、弁別性の5タイプに分かれる。それぞれの特徴は。
保全性は積み上げていくことが得意、拡散性は活発で行動力がある、受容性は面倒見がよく、柔軟性がある、凝縮性は明確な価値観を持っている、弁別性は無駄がなく合理的、といった特徴があります。これはもちろんポジティブな側面です。裏を返せば、それぞれ不得手な部分もあるということです。
『宇宙兄弟』の主人公ムッタは、保全性と受容性が高い。日本人の55%が、1位と2位の因子に受容性、保全性の両方を持っています。弟のヒビトは天才肌で、拡散性。一般的なマンガだとヒビトが主人公ですが、やはりムッタを主役に据えるあたりが、『宇宙兄弟』の支持される由縁だと思います。
つまりムッタは典型的な日本人気質なんです。一方、欧米人は凝縮性がとても強い。だから利害関係が一致すれば、企業間で手を組む。
ただ、どちらがいいとか悪いとかいうことではない。よく日本企業がアメリカ型のマネジメントをやりたがりますが、それを日本風に「アレンジ」することが大事なんです。日本は文化にしろ、統治形態にしろ、昔から「アレンジ」することが得意なんです。
▲キャラクターをタイプ別に分けたマトリックス図
グー、チョキ、パー、一番強いのは?
日本人の多くが保全性が高い。しかし一方で、拡散性の高い人物に憧れを抱く傾向があるという。
やはりベンチャー企業などの創業者は圧倒的に拡散性が多く、その8割が拡散性です。だからと言って、その対極にある保全性の人間が、優秀ではないということではない。成長したベンチャー企業には、創業者を補完する保全性がいるのです。『宇宙兄弟』の作中でも触れていますが、「グー」も「チョキ」も「パー」もどれが強いか、ましてや誰が優秀か、なんて言えませんよね?
注意してほしいのは、保全性の人は拡散性の真似をしてはいけない、ということ。それはその人に合った、山の登り方ではないからです。拡散性のようにまっすぐ駆け足で頂上を目指す人もいれば、ゆっくり足元を見ながら慎重に進む人だっています。ただ確実に言えることは、等しく頂上に到達できるということです。
また本書の中には、「拡散性の高い上司×保全性の高い部下」など、ビジネスパーソンが悩みがちなタイプ別の具体的なケースも収録し、その解決策も提示していますので、実用性も高い内容になっています。
リモートワーク下において、保全性、受容性の高い人だけでなく、拡散性の高い人もストレスを感じていると古野氏は話す。
実はこのリモート環境下では、保全性、拡散性、受容性が高い人は共通して、ストレスがたまっている。つまり悪いストレス、「ディストレス」の状態です。保全性の人は密な状態が好きで、身近に仲間がいる方が安心するんです。一方、拡散性の高い人は、一見、我が道を行くというタイプですが、人に会って刺激をもらうことを大切にしています。受容性の人は、身近な人の役に立ちたいので、そういう環境に身を置けないことにストレスを感じている。だからテレワークだ、リモートだと言いますが、実は大半の社員にとっては、週3出社、週2リモートくらいの方が、精神衛生上バランスがいいと言えるのかもしれません。
古野氏は自分に自信が持てない就活生やビジネスパーソンに読んでほしいと話す。
就活を控えた学生もビジネスパーソンも、自分に自信が持てず、悩みを抱えている人はたくさんいます。ただそれぞれが、それぞれの強みを活かせばいいんです。それを徹底的に突き詰めた人は悩んだりしません。
本書は「自分の強みは何ですか、それを徹底的に磨きましょう」という本です。「自分が磨かれている」という認識があれば、「他者」にも興味が湧き、嫌いだったはずの「あの人」の見方もきっと変わるはずです。
四六判/378ページ/本体1800円
古野 俊幸(ふるの としゆき)
株式会社ヒューマンロジック研究所代表取締役。新聞社、フリージャーナリスト、出版社を経て、1994年にFFS理論を活用した最適組織編成・開発支援のための会社を設立して、現在に至る。現在まで約800社以上の組織・人材の活性化支援。チームの分析と編成に携わった実績は60万人、約6万チームを数える。チームビルディング、チーム編成の第一人者。
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