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インタビュー

『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』(双葉社)/青柳碧人氏に聞く

30万部突破の人気シリーズ最新刊 !

奇想天外な設定で繰り広げられる本格ミステリ

 昔ばなし×本格ミステリという設定とインパクトのある表紙で、多くの読者を魅了した青柳碧人氏による人気シリーズの最新刊『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』が10月19日搬入で発売された。誰もが知っている昔ばなしや童話の登場人物を、従来のイメージを覆すキャラクターとして描いているこのシリーズ。創作についての話のみならず、今の昔ばなしにおける表現についての言及など、ミステリ作家ならではの矜持を垣間見せる青柳氏に話を聞いた。( 聞き手 山口高範)

「密室龍宮城」のトリックを思いついたことが、このシリーズのきっかけだと青柳氏は話す。特異な設定のミステリは、いかにして生まれるのか。

 デビューして数年たったころ、前作『むかしむかしあるところに、死体がありました。』に収録している「密室龍宮城」のトリックを思いついたのがきっかけでした。
 いつかは世に出せればと思っていたところ、双葉社さんから『新鮮THEどんでん返し』というアンソロジーの短編の執筆依頼を受けまして、それは「どんでん返し」であればどんなものでもいい、というものでした。せっかくなら誰も書かないテーマで書こうと、「密室龍宮城」を書いたんです。「浦島太郎」をテーマにしたミステリなんて、誰も書きませんからね。
 その後、昔ばなしをミステリにした作品集を作りましょうということになり、一寸法師の「打ち出の小槌」をはじめ、昔ばなしに登場する「不思議なアイテム」をトリックに使ったら、面白いんじゃないかと。そこで「アリバイ工作」や「ダイイング・メッセージ」などのミステリのテーマと、「鶴の恩返し」や「花咲か爺さん」などの昔ばなしを結び付けながら創作し、5編にまとめたのが前作です。ちなみに「絶海の鬼ヶ島」はタイトルが先に浮かんで、クローズドサークルものにしようと、タイトルの後にトリックを考えたパターンの作品ですね。

新作に忍ばせた「隠れ」テーマ

SFやハードボイルドの作品も収録する今作。一方で、本作にはミステリならではの、あるテーマを忍ばせているという。

 前作の執筆時はミステリのテーマも昔ばなしのネタも豊富にあったので、それほど苦労はしませんでした。ただ今回は大変でしたね。すでにミステリのテーマはいくつか使っているし、昔ばなしも前作より絞られている。ですから今作は「交換殺人」などのミステリ要素はありつつも、SFやハードボイルドの要素なども入れています。
 先輩の作家さんに相談したり、アイデアを絞り出したりして創作した作品なので、どの作品も思い入れがありますが、特に「七回目のおむすびころりん」は気に入っています。いわゆる「繰り返し」もので、そのジャンルのものをいくつか読み直して、研究もしました。
 「繰り返し」ものは、本来であれば一冊分を要するテーマですが、このシリーズの場合は、それを短編として60~70枚にまとめなくてはならない。それも大変でしたね。
 一方、今作は「探偵は誰なのか」ということも、テーマとして忍ばせています。もちろん「犯人当て」についても、それはそれで純粋に楽しんでもらえればと思いますが、果たしていったい誰が「本当の探偵」なのか?それが今作の隠れキーワードなので、そちらも楽しんでもらえればと思います。

『むかしむかし…』は、それぞれが独立したオムニバス形式。一方、『赤ずきん…』は、全編を通じて、赤ずきんが旅先で事件に巻き込まれるという構成だ。

 日本の昔ばなしの場合、海のシーンや山のシーンがありますよね。ですから場面の展開をしやすいですし、バラエティに富んだ舞台設定が可能です。でも西洋の童話となると、基本的に森の中が舞台になってしまい、シーンに代わり映えがないんです。であれば、いっそのこと一つにつなげてしまおうと思い、この構成にしました。
 執筆当初から赤ずきんを主人公に据え、敵対するキャラクターを立てることは決めていました。すでにお読みの方はおわかりかと思いますが、その敵対する者も、当然、原典のキャラクターとは違います。その童話の登場人物を悪役として描いたんですが、むしろそのキャラに多くの読者は好感をもってくれたようで、それは意外でしたね。


▲「竹取探偵物語」の創作メモ

「教育」への皮肉

昔ばなしや童話における現代の解釈に「違和感」を覚えると青柳氏は語る。

 昔ばなしや童話というものは、子どものころから誰もが知っている、共通の常識というか、公式のテキストという印象です。ただ最近の絵本とかになると、「さるかに合戦」の「合戦」という言葉がよろしくないということで、「さるかにばなし」とされたり、内容も猿も蟹も死なないんですよね。「桃太郎」だって、鬼は殺されない。
 話の大筋は違わないとは思うんだけど、やはりどこか「違和感」があります。ですから、このシリーズを通じて、そこは皮肉りたいという思いはありますね。「教育」という目的で好きなように変えられるのであれば、「ミステリ」という目的で好き勝手に変えてもいいんじゃないかと。あえて逆張りに行くというね。このシリーズでは善人でおなじみの登場人物が、まったく善人でなかったりするわけですから。
 そのおなじみの登場人物のイメージを裏切ることで、ミステリの醍醐味でもある驚きを提供する。それは、その設定や前提条件を読者と共有できているからこそできるもので、ミステリとしては、書きやすかったですし、楽しくもありました。
 またその前提条件や初期設定を知っているからこそ、普段、本を読まない方にも読んでいただいているのかなと。それは私の目指すところでもあって、「本って面白いものなんだ」とたくさんの読者が気づいてくれたら、それはうれしいですね。

『赤ずきん…』第二弾も連載中

いずれも一筋縄ではいかない登場人物たち。青柳氏のお気に入りは。

 「七回目のおむすびころりん」に登場する強欲じいさんや「猿六とぶんぶく交換犯罪」の猿六も好きですが、「竹取探偵物語」に登場する五人衆も好きで。原典だと「高貴な人物」くらいにしか描かれていなくて、キャラ付けされていないんです。であれば、彼らをもっと掘り下げて、「粒立て」してやろうかと。
 また「赤ずきん」の決め台詞も気に入ってますね。「おばあさんの目(耳、口)は、どうしてそんなに大きいの?」という誰もが知っているあのフレーズ。それを拝借して、決め台詞にしたら、バシッと決まるだろうなと。
 実は今、『赤ずきん…』の第二弾を月刊『小説推理』に連載中で、最新号の12月号(10月27日発売)には二話目を収録しています。赤ずきんが主人公である点は変わらないのですが、今回、実は相棒役として、これもまた古典的な童話の登場人物を一筋縄ではいかないキャラクターとして登場させていますので、ぜひ読んで楽しんでいただければと思います。

前作で本屋大賞にもノミネートされた青柳氏。書店員へのメッセージを聞いた。

 紙芝居風にしたものや仕掛けで動くようなものなど、POPや拡材を工夫してくれている書店員さんが多くてうれしかったですね。作品自体にも遊び心があるので、そういうことがやりやすいシリーズなのかもしれません。私も古典と言われる昔ばなしや童話を好き勝手に自由に作り変えているので、書店員の方もこの作品を自分勝手に解釈して、自由に楽しみながら売ってほしいと思います。


『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』

四六判/278㌻/定価1485円

『むかしむかしあるところに、死体がありました。』


文庫判/296㌻定価704円

『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』

四六判/288㌻定価1485円

青柳 碧人(あおやぎ あいと)

1980年千葉県生まれ。早稲田大学卒業。2009年『浜村渚の計算ノート』で第3回「講談社Birth」小説部門を受賞してデビュー以来、同シリーズをはじめ、多くの人気シリーズを手がける。2019年、日本の昔ばなしに材をとった本格ミステリ、『むかしむかしあるところに、死体がありました。』は多くの年間ミステリーランキングに入り、本屋大賞にもノミネートされた。2020年、世界の童話に舞台を移した『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』も、大きな話題となる。

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