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インタビュー

『きみの人生に作戦名を。』の梅田悟司氏に聞く 「作戦名」で自分の人生を取り戻す

梅田悟司さん

累計発行部数26万部の『「言葉にできる」は武器になる。』の著者・梅田悟司氏による最新刊『きみの人生に作戦名を。』が10月27日に刊行された。梅田氏はコピーライターとして活躍する一方、現在では言葉を通じた事業支援や大学教員としても活動する。「人生に作戦名をつける」ことの重要さを説く梅田氏に、本書への想いや言葉、ネーミングの重要性、効能などについて語ってもらった。

(聞き手:山口高範)


『きみの人生に作戦名を。』四六判並製/248㌻/定価1650円

思考と行動をつなぐ言葉

内なる言葉に光を当てることがテーマだった前著に対し、本書は「行動」がテーマだ。

 6年前に上梓した『「言葉にできる」は武器になる。』は、抱えている漠然とした「もやもや」を言葉によって晴らしていく、そして自身の中にある思いを言葉にすることがコンセプトでした。その後コロナが起きて、それまで当然のようにできていた、人と会い、会話を交わすことで生まれていた行動が、「小さい勇気」を持って決断しないとできなくなった。一歩を踏み出しにくい時代になったのだと感じています。

 コロナ前までは、考えていることを言葉にすることが主なテーマでした。今作では、考えていることと行動の間に言葉を挟むことで、言葉が自分の背中を押す効果を生み、行動に移しやすくなる。こうした考えが中心であり、本書を執筆するに至ったきっかけです。

 コピーライターとしての活動に加えて、事業支援や大学教員なども手掛けるようになったことからも大きな影響を受けています。ベンチャー企業のコミュニケーション支援を行ったり、教員として学生らと接するなかで、考えていることを言葉にするだけではなく、もう一歩先に踏み出したいと考えている方が増えてきたと感じ、「言葉と行動」というテーマを強く意識するようになりました。

 構想から2年、自分の人生に作戦名をつけることで、これまでの自分が経験してきた伏線を回収することができるのか、自分自身でも実践しました。その背景があるからこそ、本作は自信をもって書き進めることができました。

未来に向かう一筋の光

人生に作戦名をつけることで、これまで自分が歩んできた人生を肯定的にとらえ直すことができるようになると梅田氏は話す。

 「言葉に力は宿る」とよく言われますが、その中でも何が最も力を持つか、それは名づけ(ネーミング)だと私は思っています。「名前をつけてあげる」ことは、対象を呼ぶときに便利ということもありますが、それ以上にその対象と自分との間に新しい関係性を構築することができる。

 企業の商品名、大好きなぬいぐるみ、何でもそうですが、名前をつけてあげると当然愛着も湧きますし、それが自分とは切っても切れない特別な存在になります。この「名前をつけてあげる」ことの効果は非常に大きくて、自身の人生においても「作戦名」をつけてあげることが重要なんじゃないかと。

 よく「本当の自分」と「偽りの自分」、「仕事モード」と「プライベートモード」・「家庭モード」など自分を切り分けて考える方も多いですが、それは実はすごくもったいない。本当も嘘もどちらも自分で、家庭でのことは仕事にも影響するし、その逆もまた同じで、どちらも地続きの自分であり、人生です。自分というコップの中には、雑多でバラバラではあるけれど、他人からは知ることのできない、自分だけが気づくことができる「見えない一貫性」があります。

 「人生をどう生きるか」ということも大事ですが、「人生をどう活かすか」という視点こそが、これからの時代を生きていくうえで大切になると考えています。20代、40代、60代で、それぞれが蓄積してきた経験の中にある、その「見えない一貫性」に目を向けることで、これまでの自分を肯定してあげる。自分自身のやってきたことや学んできたことを、卑下もせず、過大評価もせず、真摯に向き合うことが重要で、それが一歩を踏み出す「小さな勇気」につながります。そうすることで自分の人生を自分の手に取り戻すことができ、少し暗い未来に向かって進もうとしたときの、一筋の光になってくれるのではないかと思っています。

 性別や年齢に関係なく、何かをしたいけれど、どう行動に移したらいいのかわからないという方が多いです。そういう方が一歩を踏み出す言葉に気づき、アプローチするための力になりたいと。

 人生の踊り場にいると感じている方々が「まだ自分にはやるべきことが残っている」と感じてもらえれば、一歩を踏み出し、行動に移すことのきっかけになるかもしれない。そうなってくれれば、とてもうれしいですね。

言葉を扱うことの責任

本書も前著同様、言葉にすることの重要性を説くに留まらず、「9マス思考法」や「価値の3階層」など、具体的な実践方法についても詳細に説く。

 「自分の人生を生きよう」とか「君はどこにだって行ける」とか、そういう言葉は世に溢れていますが、その具体的な方法は示してくれないんですよね。

 言葉には大きな力があることは間違いないんですが、とはいえ「言葉でしかない」ということもまた事実です。本当に信じられる言葉というのは、そんなに簡単なことではない。

 ですから私は言葉に関わり、内部の言葉を引き出す仕事に携わっているからこそ、スローガンのような掛け声で終わることなく、実践的な方法論を抽出し、読者に届けなければならない。でなければ、この『きみの人生に作戦名を。』と大きく振りかぶった責任は果たせないと思っています。

 コピーライティングにおいても、言葉を扱うからこその責任はともないます。商品にふさわしい、売れる言葉を考えがちですが、言葉が先行してしまうと、その内側に存在するものがなくなってしまう感覚がある。

 社会からどう受け止められるかを意識するあまり、外側からの圧力が強くなってしまうことで、結果、過剰なまでによく見せようとしたり、約束できないことまで言ってしまうケースというのはよくあります。しかし先ほどのコップの話と同じで、中に蓄積されたものしかないし、ないものを言葉にしてもそれは嘘になってしまう。

 ですからそのコップの底にある、生暖かい部分に触れないといけない。その内側に何があるのか、それを適切に表現する言葉は何なのかということを考えるうちに、社会と自分の言葉の波長が合うようになっていったという感覚はありますね。

「“言葉にできない”を言葉に」を支援する

事業支援や大学教員として活動する梅田氏。今後の展望や活動方針は。

 企業や商品と同様、人間も同じで、自分をよく見せようとする言葉や嘘を混ぜた言葉は、その後、自分自身を傷つけます。前著も本書もそうなんですが、他者からの視点や評価をいかに排除するか、というのが大きなテーマです。

 他者など関係なく、本当に自分が何をしたいのか、それを説明しようとするとき、「しどろもどろ」になってしまう。でも、それは当たり前のことだと思います。やりたいことや、実現したいことを、そうそう簡単に言葉になんてできない。どう表現していいかわからない思いこそ、言葉にしてあげるべきで、「しどろもどろ」であればあるほど、そういう人を支援したいと思えるんです。本当に何がしたいのか、その結果、何を産もうとしているのかを議論しながら、解像度を高めていく支援を続けていきたいです。

 ですから今後の活動としては、起業家だけでなく、起業家の卵や日本の未来を担う若者たちを否定も肯定もすることなく、自分のやりたいことを言語化できて、行動に移せるまで、ヒントを出しながらも寄り添い、見守っていきたい。最高の壁打ち相手みたいな、そういう存在になれたら面白いですね。


梅田 悟司(うめださとし)
コピーライター、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部教授。1979年生まれ。大学院在学中にレコード会社を起業後、電通入社。2018年にインクルージョン・ジャパンに参画し、ベンチャー支援に従事。22年4月より現職。主な仕事に、ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」やTBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括など。著書に『「言葉にできる」は武器になる。』(日本経済新聞出版)、『捨て猫に拾われた僕』(日経ビジネス人文庫)ほか。

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