東京都千代田区立日比谷図書文化館は6月30日、これからの書店、図書館、出版社、取次をテーマにした講演会を同館で開催した。上智大学文学部新聞学科の柴野京子教授が「横断的な読書環境と社会のアーカイブ─図書館・書店・読者─」と題して講演した。
講師の柴野氏は、出版取次会社勤務ののち東京大学大学院人文社会系研究科特任助教を経て、2012年から現職。NPO法人本の学校理事長、NPOブックスタート、デジタルアーカイブ学会理事などを務めている。
柴野氏はまず、書店をめぐる状況について説明。「JPICの調査を基にした書店数減少の報道はたくさん出ている。一方、店主の個性を売りにするような小さな書店は増えている」と指摘。柴野氏が教える学生の中で、増え続ける小さな書店をリストアップして、その増加数を調べた結果などを例示。また、「インターネット書店の登場で、書店に求めるものが変化してきた。『本』でしかできないことが求められている」と、その背景などを説明した。
さらに、図書館をめぐる状況についても紹介。「図書館と出版業界で価値観の相違がある。出版業界の中でも利害が異なる。書店自体も激変している」とし、「そういった状況の中で必要になってくるのは『読者』の視点だ」と指摘した。
「いかに読者を誕生させ続けるか」
「読者とは、図書館では利用者、書店では顧客のどちらでもあり、どちらでもないかもしれない。あるいは世の中には潜在的な読者もいる」としたうえで、「例えば、自分の生活圏内には図書館、書店、勤務先、学校などさまざまな場所に本がある。そして、それはリアルな場所だけでなく、ネット上にもある。そういう人たちにどうアプローチしていくかが重要。同じ地域にある図書館と書店がいがみ合うのは、とても小さな範囲の話でしかない」と訴えた。
そして、「その地域に住んでいる人たちは、もっと自分の生活空間を二次元、三次元で紡いでいる。その人たちの思考を考えることが必要。読者はテレビ、SNS、ゲームなど多様なコンテンツに触れている。その中で、いかに本に触れてもらうか、いかに読者を誕生させ続けていくか。それが図書館、書店、出版に関わる人々の仕事になってくる」との考えを示し、「本に関わる全ての人たちで『共通価値に基づく新しい地図を描く』こと」を提案した。
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