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インタビュー

知念実希人さんに聞く 待望の最新作と完全版、超常現象×医療から生まれた本格ミステリ「天久鷹央シリーズ」(実業之日本社)

 本屋大賞ノミネート作家・知念実希人さんによる本格ミステリ「天久鷹央シリーズ」から、完全長編新作『吸血鬼の原罪 天久鷹央の事件カルテ』と、新たに書き下ろしエピソードを追加したシリーズ1作目『天久鷹央の推理カルテ 完全版』(実業之日本社)が10月6日に発売される。知念さんが“自身の代表作”と語る「天久鷹央シリーズ」について話を聞いた。

(聞き手:孫維)

知念実希人さん

自分オリジナルの名探偵

――「天久鷹央」というキャラクターはいかにして生まれたのか。

 僕は推理作家として、東野圭吾先生の「ガリレオ」や島田荘司先生の「御手洗潔」のように、自分だけの名探偵キャラクターを創りたいと思っていました。魅力的な探偵キャラクターを創るために、世界で一番有名で、魅力的な名探偵「シャーロック・ホームズ」の要素を採り入れつつ、現代的で、読者にも親しみやすい女性医師として「天久鷹央」というキャラクターを考えました。

 鷹央の部下である「小鳥遊(たかなし)」の一人称視点から客観的に名探偵である「天久鷹央」という人物と物語を語っていくスタイルも、シャーロック・ホームズとワトソンの関係性を現代風にアレンジしたんです。普通の人々には理解しにくい名探偵の独特の思考方法を、「小鳥遊」というフィルターを通して、一般的な視点から描くことで、読者に親しみやすい物語になっています。

――主人公の「天久鷹央」と「小鳥遊」が所属する「統括診断部」は、医療ミステリに一番ふさわしい部署と言えるかもしれない。

 実際に呼称は違うかもしれませんが、特に大きな病院には同じ機能を持つ部署はよくあります。未診断の患者や、他の診療科で解明できなかった難病の患者に対する診断を下すのが主な業務です。多様な条件と症状を分析し、必要な検査を行いながら、段階的に診断にたどり着くというプロセスは、探偵が推理して事件を解決する工程に近い。それゆえ、医療ミステリの主人公としては非常にふさわしい設定ではないかと思います。

――医療関係の専門用語が多い中、読者がわかりやすく読めるための工夫をしたという。

 このシリーズはあらゆる世代に楽しんでいただけるように書いてはいますが、その中でも特に中高生の読者を意識しています。内容自体は専門的な医学知識を使っていますが、その情報をできるだけやさしく解説し、中学生の読者でも病気の仕組みやトリックを理解できるように心掛けています。また、超人的な集中力や記憶力を持つ天才医師でありながら、身体能力が低く、人付き合いも苦手な人物像をコミカルに描くことで、読者に親しみやすくするように気を付けて書いていますね。

イラストレーター・いとうのいぢ氏 描き下ろしの完全版 表紙ラフスケッチ

ミステリと診断学の融合

――新作の『吸血鬼の原罪』では、血液が抜かれた死体の発見から物語が始まる。シリーズを通して、「不可思議な現象」と「実際の病状症例」の組み合わせで物語の構成を成す。

 かつて不可解とされた現象も、今日では科学的に解釈できる可能性が高い。小説創作のアイデアとして、普段はさまざまな医学雑誌を参考にし、病状と超自然的な現象をそれぞれまとめています。常識では計り知れない現象が実際の疾患とどう関連しているか。一方で、特定の病状・疾患がどのように超自然的な視点で捉えうるかを常に考察しています。これらの考察のプロセスから生まれるアイデアが、ストーリーの中核となっています。

 今回の新作では、出発点として「吸血鬼によって血を吸われた死体」というアイデアが先に浮かびました。その後、なぜ血を取り除く必要があるのか、血を取り除くことで何が生じるのか、また、なぜ血が必要だったのかなど、「吸血鬼」という超常現象を物語の軸に、医学的や社会的な背景を描くことで、ストーリーに深みを与えています。

――医師としても活動している知念さん。小説家としての独自のスタイルや特色は。

 作家は自分の体験や知識を武器に、自分だけが書ける物語を生み出しています。小説にとってそれが最も重要だと私は考えます。私にとって、それは医学の知識です。これまでは外科医や精神科医が作家として活動する例はありますが、内科医としてのミステリ作家はおそらく私だけでしょう。東野圭吾先生が「ガリレオシリーズ」で物理学をベースにしたように、この医学分野で独自のミステリを描くのは私だけという自負はあります。

 このシリーズは、内科医としての特別な知識を活かしており、その専門的な知識をエッセンスとしていることで、ストーリーをより魅力的にしていると思っています。

イラストレーター・いとうのいぢ氏 描き下ろしの新作表紙ラフスケッチ

不可思議な謎を解く物語を原点に

――今回を含めて、完全新作3冊と完全版13冊を7ヶ月間に連続刊行予定。その意気込みを聞いた。

 ミステリ作家として、不可解な現象を理論的に解明するような作品を作っていきたい。このシリーズは、ミステリと診断学が融合した私の代表作で、まずは多くの人たちに、この作品を手に取ってもらいたいですね。まだまだ読者の想像を掻き立てる物語や、キャラクターに愛着を持ってくれている読者も多いため、アイデアが尽きない限り、これからも書き続けていきたいです。

――累計200万部突破し、書店員の中でも絶大な人気を誇る同シリーズ。書店へのメッセージを。

 書店という場所は、人々が新しい物語と出会える貴重な場だと考えています。インターネットでも出会える時代ですが、書店で心引かれる本に出会う経験は、やはり特別だと思いますね。そのような場所が失われないように、多くの人が気軽に書店に足を運べる環境を保ちたいと願っています。そのためにも、売れる作品を書き、書店の維持に少しでも貢献したいと思っています。

【著者プロフィール】知念実希人(ちねんみきと)さん

 1978年、沖縄県生まれ。東京都在住。東京慈恵会医科大学卒、日本内科学会認定医。2011年、第4回島田荘司選ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を『レゾン・デートル』で受賞。12年、同作を改題、『誰がための刃』で作家デビュー。15年『仮面病棟』が啓文堂文庫大賞を受賞。『崩れる脳を抱きしめて』『ひとつむぎの手』『ムゲンの(i 上・下)』『硝子の塔の殺人』で、本屋大賞に4度ノミネート。代表作の「天久鷹央」シリーズは学生からミステリファンまで、幅広い世代から圧倒的支持を集める。『優しい死神の飼い方』『時限病棟』『リアルフェイス』『誘拐遊戯』『機械仕掛けの太陽』『祈りのカルテ』「放課後ミステリクラブ」シリーズ、など著書多数。

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